ヤング・アダルト・ニューヨーク_ほどほどの人生を受け入れる瞬間の切なさ【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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人間ドラマ
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(2015年アメリカ)
実力不足で夢叶わない人間の話ばかり作っているノア・バームバック監督が、またしてもプライドばかり高くて才能のない芸術家を題材としています。ベン・スティラー主演のおしゃれなコメディのような外観と裏腹に、内容はほぼ笑いどころのない中年残酷物語でした。

IMDBのスコア(2018/10/4時点で6.3)やロッテン・トマトのオーディエンススコア(51%)を見る限り本作の世評は必ずしも振るっているわけでもないようなのですが、私は人生の真理を的確に突いた良作だと感じました。

あらすじ

ドキュメンタリー監督のジョシュとその妻コーネリアは、子供を持たず自由なライフスタイルを満喫しているつもりでいた。しかしジョシュは監督として行き詰り何年も新作を完成させられずにいたし、コーネリアも物足りなさを感じるようになっていた。そんな折、ジョシュが講師を務めるカルチャースクールでジェイミーとダービーという若い夫婦と知り合い、特にジョシュは監督としての自分の手腕を評価し、教えを乞いに来るジェイミーを可愛がるようになる。

感想

中年残酷物語

世の中で何事かを成し遂げられる人なんてごく一握りであり、圧倒的多数の人生とは何者にもなれないまま、まぁほどほどで終わるというものです。

ただしそれでは味気ないので出産・育児へと生活の軸が移っていき、良い家庭を築くことで自己肯定感を味わうことこそが30代後半から40代前半の人々の心理ではないかと思います。

この点、本作では社会的な自己実現ができていない、かつ、子育てをしていない中年男の心理が抉られるように描写されています。

私自身も若い頃に思い描いていた野心の半分も実現できないまま30代後半に突入しており、痛いほど分かる描写の連続で疲れました。

伸びしろの限界を認めたくないという心理

認めたくはないが、伸びしろの限界はとっくに来ている。若い頃にはちょっと輝いていた時期もあったが、それと同じ輝きは二度訪れないだろうことは何となく分かっている。

主人公ジョシュ(ベン・スティラー)の新作は10年以上に渡って制作中の状態となっていますが、これをリリースしても評価を受けられる自信がないからこそ完成を延々と引き延ばしにしているようです。

そこに若いクリエイター ジェイミー(アダム・ドライバー)が現れて「先輩の仕事は凄いっすね!」と思いっきりおだててくれる。

すっかり気分がよくなって「俺が仕事を教えてあげるよ。人脈も使っていいよ」と中年ホイホイに吸い込まれるようにはまっていき、逆にファッションも生活も若手の色に染められていく中年男ジョシュ。

なかなか無様ではあるのですが、自分を評価してくれて、しかも現状の自分を変え、輝きのあった若い頃の自分に戻してくれるかもしれないという幻想を味わえる若手に寄り添うことで、そのうち受け入れなきゃいけないと薄々感じていた「ほどほどの自分」を否定することができる。

ジョシュはジェイミーという箱舟に全力で乗っかっていきます。

才能ある後進に追い越されることの恐怖

しかし誤算だったのはジェイミーには本当に才能があったということであり、ジョシュが数十年かけても得られなかった師匠からの評価をいとも簡単に勝ち取ってしまいます。

そもそもジョシュがジェイミーに入れ込んだのは自己肯定感を味わいたいことが目的だったのに、むしろ「自分の出来がいかに悪いか」を思い知らされる結果に終わり、彼は裏切られたという被害者意識の塊となります。

傍から見れば、内心はどうあれ外観上は後輩の手柄を妬まず素直に祝福してあげることこそが最善なのですが、ジョシュはジェイミーに対するネガキャンを繰り返して余計に自分の評価を落としていきます。

どの職場にもいますよね、部門のエースになった後輩に対して「あいつの仕事は見せかけ。そのうちメッキが剥がれる」「上司への取り入り方がうまいだけ」などと陰口を言って回る出来ない中年って。

しかしそんなネガキャンに第三者が耳を貸すはずがなく、「出来ない奴がなんかめんどくさいこと言ってるな」としか思われていないのですが、本人にだけはその構図が見えていないのです。この辺りにも、自分はこの主人公と違うとは言い切れない怖さがありました。

仕方なく「ほどほどの人生」を受け入れる

恥の上塗りをしまくったジョシュはラストでついに観念し、子供を持ってほどほどの人生を送ることを決意します。

まさに夢破れた状態なのですが、クリエイターとして完全に終わった旦那に寄り添ってくれる奥さんや友人夫婦など、人間関係にはほどほど恵まれている。あとはジョシュ自身がそこに幸せを見出せるかどうかなのですが、事ここに至っても子供を愛せる自信がないことがラストカットで暗示されます。

ハッピーエンドともバッドエンドともとれるこの締めは秀逸であり、万人にとって身につまされる作品となっています。

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