アナイアレイション -全滅領域- 実は不倫映画でもある【6点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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得体の知れない脅威
得体の知れない脅威

(2018年 アメリカ)
元軍人で現在は大学で生物学を教えるレナの元に、軍の極秘任務に参加したまま1年間行方不明だった夫ケインが突然戻ってくる。しかしケインの記憶は曖昧であり、すぐに容態を崩して軍の研究施設に収容される。その施設ではケインも参加した探検隊の二次隊が編成されており、レナはその部隊に志願する。

©Netflix

作品概要

パラマウントが海外配給権を手放した作品

本作はもともと劇場公開作品として製作されていたのですが(アメリカでは劇場公開された)、パラマウントが完成作品に対して「難解過ぎる」との懸念を示し、プロデューサーのスコット・ルーディンが再編集を拒否して海外配給が白紙に。その後、Netflixが中国を除く地域の海外配給権を買い取って自社メディアで公開したという、何かもう、いろいろ大変だった作品です。

B級素材を知的で硬派に見せたSF作品

アレックス・ガーランドって『28日後…』やら『サンシャイン2057』やら『ジャッジ・ドレッド(スタローンじゃない方)』やら、どこかで見たことあるようなB級SFの素材を高尚にリメイクすることを得意とする人であり、例に漏れず本作も未知の生態系に挑むチームという『ディセント』や『地獄の変異』によく似たB級素材を扱いつつも、非常に知的で硬派な形でリメイクすることに成功しています。

また、失踪した前チームの痕跡を辿りながら真相へ迫るという物語もSFホラーとしては一般的であり、基本的な部分はジャンルの王道に徹しています。

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感想

アレックス・ガーランドの長所が発揮された見せ場

アレックス・ガーランドの凄いところは空想の産物をそれっぽく見せる技術がとても高いことであり、生きている人間の腹を切り開くと別の生物のように変貌した内臓がグニョグニョ動いているところとか、捕食した人間の声帯が備わった熊とか、植物に進化した人間とか、思い出しながら文字で書いてみると「なんじゃい、これ」と思うようなクリーチャーを、とても説得力のある形で見せてきます。

また、プロフェッショナリズムへのこだわりもガーランドの作風です。『サンシャイン2057』辺りでは顕著でしたが、驚くようなことが起こっても取り乱す人間はおらず、登場人物達は論理的に導かれる最善の選択肢をとり続けるので、見ていて余計なストレスがありませんでした。本作も同じくで、登場人物達は全員インテリ揃いの上に従軍経験も持つ女性達なので、ギャーギャー騒ぎながら自ら危険を呼び込むような展開がありませんでした。これって結構ポイント高いと思います。

サンシャイン 2057_論理的で見応えあり【8点/10点満点中】(ネタバレ・感想・解説)

好きでもない相手と不倫をする人の心理

主人公レナの動機付けも面白いと感じました。レナは夫を救うためにこのミッションに参加したように見えていましたが、物語が進むにつれて、実はそうでもなかったことが明らかになっていきます。

ジェニファー・ジェイソン・リー扮するヴェントレスの「多くの人は自殺をしない。自滅をするのだ」というセリフがあります。レナは夫を愛していたにも関わらず、夫との幸せな家庭生活を送れていた時点から愛してもいない黒人の同僚と不倫をしており、そもそも破滅願望のある人物でした。ヴェントレス風に言えば自滅をしている人間です。

一年前の実験の失敗によって夫が社会的にほぼ死んだ扱いになると、レナの不倫相手に対する関心は急激に薄くなっていき、 その態度の変化に戸惑った不倫相手から「俺はどうすればいいんだ」と言われるに至ります。 レナにとって不倫は火遊びだから意味があったのであって、夫が居なくなり不倫相手との関係が成就しかけると、途端にどうでもよくなってしまったのです。

そして、夫は死にかけ、不倫相手との関係は終わり、日常生活の中で破滅願望を充たす手段を失ったレナは、死ぬ覚悟で挑まねばならないこのミッションに志願したというわけです。彼女は何のためというわけでもなく、おそらく無自覚のうちに死に場所を求めてここへ来ていたのです。この世界の異常さに怯んだ他のメンバー達が帰ろうと主張しても、彼女は前へ進むことをやめません。末期がんに侵され、こちらは自覚的に死に場所を求めてきたヴェントレスに同調するわけです。

「死を覚悟せねばならないミッションに参加するのはどんな人間なのか」という点を徹底的に追及した答えがこうしたレナのキャラクターだったと思うのですが、前半で提示されたドラマ性を後半で一気に崩すという裏切り方は斬新だし面白いと感じました。

観客に満足感を与えるもう一押しがない

ただし、全体的には大きな流れを作れていないし、中盤までの変化球の素晴らしさから期待されるほどのオチがなかったという点がボトルネックとなっています。結局、『地獄の変異』と同じところに行き着くのですから。最後に物凄い仕掛けがもうひとつあれば見違えたと思うのですが。

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