ケロッグ博士_健康のためなら死んでもいい【5点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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実話もの
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(1994年 アメリカ)
盲目的な疑似科学の崇拝や、過度の健康オタクを皮肉った製作意図には感銘を受けたし、時代劇として素晴らしい部分もあったが、ブラックコメディなのに笑えないという点が致命的だった。社会派アラン・パーカーは慣れないコメディに手を出すべきではなかった。

感想

似非健康法と洗脳のプロセス

公開時には淀川長治さんがやたら絶賛されていたので印象に残っていたが、今の今まで見たことはなかった。本国アメリカでもDVDリリースが止まって鑑賞困難な時期があったようだが、最近になってAmazonプライムでの無料配信が始まったので、有難く鑑賞させていただいた。

監督・脚本を務めたのは『ミッドナイト・エクスプレス』(1978年)『エンゼル・ハート』(1987年)のアラン・パーカーで、シリアスな社会派作品の多いパーカーのフィルモグラフィ中では異例のブラックコメディである。

パーカーの威光によるものなのか俳優陣はとにかく豪華。

  • ケロッグ博士:アンソニー・ホプキンス
  • 博士の信者エレナー:ブリジット・フォンダ
  • エレナーの旦那ウィリアム:マシュー・ブロデリック
  • パチモノコーンフレークを作ろうとしている青年実業家:ジョン・キューザック

さらには20世紀初頭という時代の再現度も高く、見た目的にも充実している。

題材とされるのはコーンフレークを考案したジョン・ハーヴェイ・ケロッグ博士の実話であり、今なお続くケロッグ社の礎を作り上げたという功績の一方で、数々のインチキ健康法を生み出した負の側面も併せ持つ人物である。

劇中で描かれるのは電気治療や腸内洗浄などの風変わりな健康法で、現在の目で見ると笑うしかないものばかりだが、その言い分を鵜呑みにした当時のセレブたちは、大金を注ぎ込んでまで博士の経営する療養施設に入所した。

金をとられるレベルならまだ可愛いもので、アイダ(ララ・フリン・ボイル)という女性に至っては登場時点から顔面蒼白で、どう見ても死にかけている。

「健康のためなら死んでもいい」という素晴らしい言葉が日本にはあるが、ここに通っている者達は手段と目的をはき違えて暴走しており、間違った健康法で体調が悪化しているのに、「私の努力がまだまだ足りない」と言って、さらに健康法をおかわりするという悪循環の中にいる。

そんなカオス状態において、我々観客の視点を担うのがマシュー・ブロデリック扮するウィリアムである。

彼はもともと大酒飲みで家庭にも迷惑をかけていたらしいが、現在では過去の振る舞いを反省し、一方で健康オタクの妻エレナー(ブリジット・フォンダ)に付き合って療養施設に入所。

ケロッグ博士の健康法に違和感を覚えつつも、過去に妻を傷つけてきた負い目もあってか正直な感想を表明することもできず、浣腸や電気風呂に耐えて耐えて耐えまくる。

ただし博士の健康法はそうした施術に留まらず、肉食禁止、性欲禁止とライフスタイル全般にまで及び、信者でもないウィリアムは気が狂いそうになってくる。

人間も生物である以上、欲求を抑え込み続けることなど不可能なのである。

さらにおかしいのは、ケロッグ博士の周辺にいる研究者たちはルールを適当に捻じ曲げており、患者たちには性欲禁止と言う一方で、自分たちは信頼を逆手にとって患者たちに手を出しまくっているということだ。

本作で描かれるのは洗脳のプロセスでもある。

人はいかにしてバカバカしいことを信じ込み、他人に操られるようになるのかが克明に描かれている。

劇中で描かれることを完全に対岸の火事として見られる人は相当稀だろう。

血液型性格診断、マイナスイオン、血液サラサラなど、それらしき権威が主張し、メディアに取り上げられれば、よくよく考えてみればおかしな話であっても、我々はいとも簡単に信じてしまう。

劇中ではバカバカしく描かれているケロッグ博士の健康法だが、電気風呂、腸内洗浄、乗馬型運動器具など、21世紀においても形を変えて存在し続けている。

人とは進歩しない生き物なのだ。

ブラックコメディなのに笑えないのが欠点

…とまぁ作品に込められた意義は素晴らしいし、社会派アラン・パーカーだけあって、その主張には切れ味がある。

ただし問題は、本作がブラックコメディとして作られているということだ。

おじさんおばさんの弛んだ体が終始映し出され、う●こだのち●こだのをネタにするが、これが全然笑えない。

笑えないブラックコメディはさすがにしんどいので、あまり高い点数は付けられなかった。

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