(2018年 アメリカ)
中年ヤクザが現場で偶然出会った若い娼婦を連れて逃亡するという犯罪映画としてはありがちな概要なのですが、テキサスという土地のいかがわしさを背景にしたヘビー級のドラマと、王道からどんどん外れていくストーリーに目が釘付けになりました。
作品解説
女優メラニー・ロランが監督
本作を監督したのはクエンティン・タランティーノ監督作品『イングロリアス・バスターズ』(2009年)で女劇場主を演じたフランス人女優メラニー・ロラン。
最近ではネットフリックスの『オキシジェン』(2021年)に出演していました。
実は彼女は女優のほかに映画監督としても活躍しており、本作が長編5作目となります。
原作・脚本は『TRUE DETECTIVE』のニック・ピゾラット
原作『逃亡のガルヴェストン』(2010年)を執筆したのは犯罪小説家のニック・ピゾラットであり、彼の小説家デビュー作に当たります。同作はアメリカ探偵作家クラブ賞新人賞の候補になるなど高い評価を受けました。
その後、テレビドラマ『THE KILLING』(2011年)の最初の数話の脚本を書いたことからピゾラットはメディアとも懇意になり、HBOにて製作した『TRUE DITECTIVE 二人の刑事』(2014年)が視聴者記録を塗り替えるほどのヒットになって知名度を高めました。
本作では脚色も担当しているのですが、メラニー・ロラン監督による改訂に不満を持ったことから、ジム・ハメット(ジム・トンプソン+ダシール・ハメット?)という変名でクレジットされています。
感想
クライムサスペンスの秀作
冒頭、中年ヤクザのロイ(ベン・フォスター)は医者からの診断を聞いており、肺がんの可能性を指摘されます。ただし死を受け入れられなかったのか、話の途中で病院を飛び出します。
その夜、ロイは親分からの指示で「仕事」に行くのですが、実は罠で危うく殺されかけ、その場に居た10代の娼婦ロッキー(エル・ファニング)を連れて逃げます。これが本編の導入部分。
アウトローがセクシーな女連れで逃げるという話はクライムサスペンスの定番で、本作を見て真っ先に思い出したのはクリント・イーストウッド監督・主演の『ガントレット』(1977年)だったりします。
ただし、ロッキーが「ちょっと実家に寄りたい」と言って立ち寄ったのがレザーフェイスでも出てきそうなテキサスのド田舎の掘っ立て小屋で、3歳の妹ティファニーも同行させると言い出した時点から、本作は独自性を発揮し始めます。
原作者ニック・ピゾラットの特徴として、アメリカ南部のまとわりつくような土着性の表現があるのですが、本作でもその傾向は顕著に表れています。ホラー映画や犯罪映画の舞台にされることの多いテキサス州は本作でもいかがわしさを全開にし、舞台全体が強烈な個性を放ち始めるのです。
そして、フランス人監督がこれをきっちりフィルムに刻みつけたというのは凄いことではないでしょうか。
まもなく3人はテキサス州ガルベストンの安モーテルに身を隠します。ガルベストンは人口6万人の小さな町なのですが、観光地として人気であることから部外者の出入りも多く、潜伏場所としては適しているというわけです。
で、ヤクザが10代の少女と3歳の幼女を連れているという明らかに普通じゃない構成に対し、モーテルの女主人は「いちいち詮索しないけど、何かあればすぐに警察に通報するよ」と言って牽制してきます。このピリついた空気感、最高でしたね。
女主人から言われるまでもなく、ロイ達はほとぼりが冷めるまではここで鳴りを潜めているつもりであり、3人で海に遊びに行ったりして良い時間も過ぎるのですが、犯罪や死は彼らに追い付こうとしてきます。
ロッキーが犯した殺人、及び、ロイの健康問題により、彼らにはゆっくりしている余裕もなくなってくるわけです。
徐々に状況がひっ迫してくるというこの感じもクライムサスペンスらしくてよかったですね。このまま穏やかに過ごしてほしいと願っているのに、そうも言ってられなくなる様が切なくも感じられてきます。
暗く、打ちのめされるような結末
組織と警察の手が伸びてきているし、自分の命も長くはなさそうである。そこでロイはロッキーとティファニーのため、こちらから打って出ることを考えます。組織を脅迫して大金をせしめ、自分が死んだ後にも少女2人が生きられる道を作ろうとするわけです。
この筋書きであれば、愛する少女達のためにヤクザが犠牲になるという王道の筋書きを想像するところなのですが、本作にはその遥か上を行く底意地の悪~い展開が用意されているので意表を突かれました。
組織への脅迫はうまくいかずロイとロッキーは捕まり、なんとロッキーが死んでロイが生き延びるという見たことのない展開を迎えます。しかもロイはロッキーの復讐すら成し遂げられず、悪は悪のまま放置されるという。
さらには肺がんだと思われていたロイの病気は完治可能な別の病気だったことも判明。
事を急いで一か八かの脅迫などせず、日銭を稼ぎながら3人でひっそり身を隠していればやり過ごせた可能性もあったわけで、結果から振り返るととロイはロッキーを無駄死にさせてしまったわけです。
この結末にはロイのみならず見ている私も打ちのめされました。
バッドエンディングにもいろんな種類がありますが、主人公が完全な判断ミスを犯し、しかもそのミスを背負った形で生き永らえるというパターンは精神的にかなり堪えますね。
コメント
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