孤狼の血 LEVEL2_鈴木亮平怖すぎ【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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クライムサスペンス
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(2021年 日本)
とにかく鈴木亮平が怖い映画。社会の秩序も任侠の秩序も破壊しながら呉原に迫ってくる鈴木亮平はもはや怪獣でした。そして、熟年刑事と組んでこれを阻止しようとする松坂桃李側の物語からは80年代バディ刑事の香りがしてきて、いろいろと楽しい暴力映画でした。

感想

バディ刑事ものとしての面白さ

前作は国立大卒の新米刑事 日岡(松坂桃李)が呉原東署のマル暴に配属され、地元ヤクザの中に入り込むという大上刑事(役所広司)の手法に驚きつつも、広島の裏社会にはそうせざるを得ない事情があることを理解していくという話でした。

ヤクザの世界は先代からの因縁だの損得だのが複雑に入り組んでおり、放置しておくと数年おきに大戦争を起こしかねないために、街を守るためには調整役が必要だというわけです。

で、大上亡き後の本作では日岡がその役割を担い、ヤクザ間の均衡を保つことで3年間は大きな抗争が起こることを防いできました。

そのことにより前作では純粋真っすぐだった日岡はすっかり仕上がっており、ギラついたファッションにチンピラのような身のこなしで、不良刑事感全開。終始イヤ~な空気を漂わせています。

今回、そんな日岡と組むことになるのが定年間際の刑事 瀬島(中村梅雀)。見た目は禿げた普通のおじさんであり、県警内でも無名の晩年平刑事。若くして広島裏社会の顔役的存在にまでのし上がった日岡とは対極の人物として設定されています。

最初、日岡は瀬島のことを気にもかけていないのですが、彼の人間的な包容力や、意外と積まれている経験値に感銘を受ける中で、次第に二人の信頼関係が育まれていきます。この辺りは『リーサル・ウェポン』っぽくもありましたね。

こうした対局の者同士にバディを組ませることは刑事モノの基本であり、本作は刑事モノの定石通りに盛り上がっていきます。

狂犬・上林のすごさ

そんな二人が対峙することになるのが、刑務所を出所したてのヤクザ上林(鈴木亮平)。

上林は前作で殺された五十子(いらこ)会会長 五十子正平(石橋蓮司)の側近であり、会長を殺した尾谷組と、全体の絵を描いた日岡への復讐を誓っています。

ただし現五十子会会長(寺島進)は尾谷組との手打ちを済ませているうえに、上部組織である広島仁正会が抗争よりも経済活動を優先しているために、上林の行動は身内から抑え込まれます。

すると上林は自分よりも格上の幹部たちを次々と殺害し、組を乗っ取ってしまいます。ヤクザとは体育会系の組織で、彼らの中の秩序は一般社会よりも厳しいはずなのですが、上林はそんなものすら気にかけないほどの狂犬ぶりを発揮するというわけです。

そこからは上林の独壇場となるのですが、圧倒的なパワーと凶暴性を示す上林が怖いこと怖いこと。

演じる鈴木亮平は、日曜夜9時のテレビドラマで主演している人とは思えないほどの狂気の演技を披露しており、完全にイッちゃってる目つきと、次に何を言い出すか分からないというアブなさで観客の目を釘付けにします。

『仁義なき戦い/広島死闘篇』(1973年)の大友勝利(千葉真一)に肩を並べる最恐キャラクターが21世紀に登場しましたよ。

上林とチンタの関係

で、上林逮捕のための切り札として日岡が送り込んだのがチンピラのチンタ(村上虹郎)でした。上林はいつか尾谷組を襲撃するはずであり、そのタイミングをチンタに探らせることで現場を一網打尽にすることが日岡の作戦というわけです。

ただし、小柄で穏やかな顔だちのチンタは誰がどう見ても「無理してイキってるだけ」という状態であり、武闘派揃いの上林組では明らかに浮いています。

上林自身もチンタが怪しいということにはかなり早い段階から気付いており、事あるごとに「ほんまか?」と言ってチンタに迫っていきます。

ただし、些細なことでも人を殺す上林がチンタだけは見逃し続けており、上林はチンタに対して特別な感情を抱いていることが分かります。

それは一体何かというと、まず一つ目は在日同胞であるということ。上林は在日韓国人であることで相当な苦労をしており、チンタも同じ目に遭っていることを知っているため、彼に対しては甘くなっているようです。

二つ目は、ヤクザになる前の本来の自分の姿をチンタの中に見出しているということ。上林はもともとは線の細い少年でした。そして被害者の目をくり抜くという殺害方法からは、他人の目を恐れる臆病な性格が見て取れます。こうしたことから、ヤクザ者とは思えないほどの弱さを見せるチンタへの共感を抱いているのでしょう。

最終的に上林はチンタを殺すことになるのですが、そのことが、ここまでするほどチンタを追い込んだ日岡への個人的な怒りに転じていくというわけです。

上林の行動原理とは何だったのか

しかし一貫して腑に落ちなかったのが上林の行動原理で、彼は亡き五十子会長の復讐を掲げているのですが、当の五十子は『仁義なき戦い』の金子信雄みたいなタイプなので、本質的には上林とは合わないんじゃないかと思います。

この点がずっと引っかかっていたのですが、ラストの上林と日岡との対決場面でスッキリしました。

上林は「自分には死神がとりついている」「死神はなかなか離れない」と言います。ここから、上林は終始殺されたくて喧嘩を売りまくっていたのではないかと思います。

本来の彼は少年期に死んでおり、父を殺そうとした時点で刺し違えて自分も死ぬつもりでいたのではないか。しかしその修羅場を生き延び、その後もいかに危険な行動をとっても生き延び、結果的に怪物となってしまった。

今回の件でもただただ暴れているだけなのですが、その大義名分として「五十子親分の復讐」というヤクザとしてもっともらしいことを言ってるだけではないでしょうか。

それは、事の発端となったピアノ教師殺害事件にて証拠隠滅をしていなかったことからも明らかで、刑務所へ速攻Uターンになっても構わないと思っていたということは、親分の復讐を絶対に成し遂げるべき目標とは考えていなかったことの証左。

また、クライマックスのカチコミ直前に五十子の未亡人(かたせ梨乃)を殺害した場面からも、彼の内面に忠誠心や任侠道みたいなものはなかったことが見て取れます。

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