トカレフ(2014年)_地元の名士が殺人マシーンだった【6点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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クライムサスペンス
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本編に仕込まれたある細工が魅力的で決して嫌いではないのですが、論理的な詰めが甘いので全面的な支持もできない微妙な映画。製作、監督、脚本のいずれかに優秀な人物が関与していれば引き締まった可能性もあったのに、いつものVシネクォリティで作られてしまったことが残念な限りでした。

©Tokarev Production,Inc.

あらすじ

ポール・マグワイア(ニコラス・ケイジ)は地元の名士で、妻子と平和に暮らしている。ある日、何者かに娘を誘拐され、無残な死体で発見されたポールは怒り、犯人の捜索を開始する。かつてのポールは名うてのワルであり、その際に怒りを買った先もあった。そんな過去の因縁に端を発した報復であると確信したポールは、相手に対して壮絶な復讐を開始する。

スタッフ・キャスト

Vシネ製作会社パトリオット・ピクチャーズ

本作を製作したのは、アメリカ産Vシネでよく見かけるこのロゴでお馴染みのパトリオット・ピクチャーズです。

CEOはマイケル・メンデルソーンという人で、この人は『エアフォース・ワン』(1997年)や『マトリックス』(1999年)といった大作、また『レザボア・ドッグス』(1992年)のようなインディーズ映画に資金調達で参加していた人物であり、金融機関との繋がりが深く、機動的な資金調達ができることが強みのようです。

プロデューサーとして優秀ということではなく、資金調達を得意とするビジネスマンというところがミソなんでしょうね。パトリオット・ピクチャーズは小粒でもピリリとした映画を作る会社ではなく、少なめの出資で手堅く稼ぐB級街道まっしぐらの会社です。

主演はニコラス・ケイジ

みなさんお馴染みのニコラス・ケイジが主演です。

元はAクラスの俳優だったのですが、壮絶な浪費癖のために破産状態に陥り、以降は仕事を選んでいられなくなってB級映画界の大スターになっています。

撮影は『パルプ・フィクション』のアンジェイ・セクラ

基本的にはVシネなのでスタッフにビッグネームは絡んでいないのですが、唯一、撮影監督のアンジェイ・セクラだけは実績のある人だったのでご紹介しておきます。

1954年ポーランド出身。理由はよく分からないのですがポーランドは優秀な撮影監督を多く輩出している国で、スピルバーグの右腕であるヤヌス・カミンスキー、『ターミネーター』シリーズのアダム・グリーンバーグ、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのダリウス・ウォルスキー、『戦場のピアニスト』のパヴェル・エデルマンなどがいます。

セクラは『レザボア・ドッグス』(1992年)、『パルプ・フィクション』(1994年)、『フォー・ルームス』(1995年)と初期タランティーノ作品のビジュアルを支え、また『キューブ2』(2002年)では監督も務めています。

感想

地元の名士が殺人マシーンだった

ニコラス・ケイジが演じるポール・マグワイアは土建業で財を成した地元の名士にして、美人の奥さんと娘に恵まれた幸せそのものの金持ちなのですが、ある日、目に入れても痛くないほど可愛がっていた娘を何者かに殺されます

海よりも深く落ち込むポールですが、実は若い頃は札付きのワルであり、昔のワル仲間を伴って思い当たる先への復讐を開始します。

その際のポールのナイフさばきの華麗なこと。ヤクザ相手に啖呵を切る際の舌に馴染んだ感じの素晴らしいこと。復讐が一義的な目的ではあるのですが、久しぶりに人に暴力を振るって生き生きとしていますね。

檻から放たれた猛獣の暴れっぷりは本作の大きな見所であり、ベテラン俳優ニコラス・ケイジは実に見事に元殺人マシーンになりきっています。

ニコラス・ケイジの演技が見所

Vシネ俳優とバカにされることも多いのですが、なんだかんだニコラス・ケイジは演技がうまいし、役柄へのなりきり具合は飛び抜けています。

低予算映画であるがゆえに十分な準備期間もなく、役者としての経験や勘に頼った役作りをしていると思われるのですが、そんな条件下でもこれだけのなりきりは素晴らしいと思います。

例えばクリストファー・ウォーケンやロバート・デ・ニーロも名優という評価の割には安い映画への出演をするのですが、彼らは情報不足の脚本や不十分な演出の下であっても、役者としての経験である程度補えるからこそ重宝されていると思われます。ニコラス・ケイジもそんな名優たちと同等の仕事ができているのです。

加えて、所作に説得力があります。本作で言えばナイフ使いなのですが、明らかにこなれた感じでナイフを振るうので、ちゃんと元殺人マシーンに見えています。腐ってもオスカー俳優ですね。

※注意!ここからネタバレします

オチにはやられましたな

かくしてポールは復讐を実行し、それはアイリッシュマフィアとロシアンマフィアの抗争にまで発展するほどのおおごとになっていくのですが、もう取り返しがつかなくなった段階で、実は復讐する相手を間違えていたというえらいことが判明します。

この手のリベンジものは警察がボンクラだから当事者自身で復讐しますという流れを取る場合が多いのですが、現実的に考えれば、警察が調べたって分からないことに素人がクチバシを突っ込んだってうまくいくわけがないのです。

本作は一般的なリベンジものとして始まりながらも、ラストでありがちな構図をひっくり返し、素人が勝手に動くなという素晴らしい教訓を観客に対して与えます。これは見事でした。

加えて、ダニー・グローバー扮する老刑事の存在もちゃんと伏線になっています。老刑事はかつて息子を交通事故で失いかけた際に、勢いで加害者に復讐しようとした話をします。

偶然が重なって復讐は出来なかったのですが、頭の冷めたところで事故現場に行くと「これは事故っても仕方ないわ」という地形であることを認識し、あながち加害者の責任とも言えないことを悟ります。

もし頭に血の昇った状態で復讐をしていれば取り返しのつかないことになっていたが、運良く思いとどまることができて本当に良かった。そして、今のポールも同じ状況にあるのだから、決して早まったことはしないようにと前半にて警告しています。

しかし人というのは他人からの忠告にはなかなか耳を貸さないもので、「お前んとこの息子は生きてたけど、うちのは死んでるんだよ。しかも交通事故と殺人じゃ全然違うだろ」と言って、ポールはこの忠告に取り合いませんでした。

またポールは奥さんと死別しており、現在は若い後妻と生活しているという家族構成も、オチから振り返るとよく計算されています。

もし娘の実母が生きていればポールと痛みを分かち合い、抑止力になったのかもしれないのですが、継母ならばこそ「娘を殺された実の親の苦しみは、お前には分からないだろ」的なシチュエーションが出来上がっています。

加えて、後妻がポールと比較しても際立つほど若いという点からは、ポールが更生した後に知り合ったという設定も伺えます。マジギレした時のポールが何をしでかすのかを知らないからこそ、この奥さんは真剣に止めに入らなかったといううまい口実になっています。

対テロ戦争のデフォルメ?

本作のオチを見て私が思い浮かべたのは、アメリカが戦った対テロ戦争の構図でした。

911で多くの同胞を殺されたアメリカはいきり立ったのですが、犯行声明を出しているアルカイダそのものと戦うのではなく、アルカイダと親しくしていたイラクやアフガンを攻撃し始めた点には、当時から釈然としないものがありました。

アルカイダへの報復でイラクを攻撃するという理屈はよくよく考えてみるとおかしいという感覚は一部のアメリカ人の中にもあるようで、オリバー・ストーン監督の『ブッシュ』(2008年)という映画ではその点が描かれていましたね。

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間違った相手に復讐してしまったアメリカはイスラム原理主義勢力との終わりなき戦いへと突入し、いまだにその渦からは抜け出せていません。本作の主人公ポールはそんなアメリカという国を象徴しているかのようでした。

加えて、武器が争い事のきっかけになったという点も、大量破壊兵器の有無が開戦の口実になったイラク戦争を反映しているかのようでした。

細部の粗さが弱点

そんな感じで作品の方向性は非常に良かったのですが、細部の粗さが物語全体の説得力を奪っています。

凶器となったトカレフは、若かりしポールが犯した罪の証拠品でもあるのですが、それを数十年もクローゼットの手の届く場所に入れっぱなしにしておくという不用意さは何でしょうか。中学生のエロビデオだってもっとうまく隠されてますよ。

加えて、警察の初動捜査やポールの当たる先も頓珍漢。娘が殺されたというシチュエーションでの最重要人物は現場にいたクラスメイト二人であり、警察もポールもこの二人を徹底的に問い詰めるべきなのに、ほとんど捜査線上に現れません。これはさすがに不自然でした。

もっと理詰めで考えていれば本作は見違えたと思うのですが、プロットホールがほとんど手当されずに放置されているので、説得力の欠ける物語になっています。これは残念でした。

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