(1974年 日本)
シリーズ第5弾。美しく終わった『頂上作戦』のラストを半ば台無しにする形で強引に製作された作品だけあって、出来はシリーズ最低でした。それでも面白いのは面白いんですけどね。でもまぁ人気キャラの切り捨てが酷かったり、広能の老害化が見てられなかったりと、残念な部分は少なからずあります。
感想
蛇足感全開の第5弾
前作『頂上作戦』(1974年)のラスト、菅原文太と小林旭が裁判所の廊下にて寒さで背中を丸めながら「わしらの時代は終わった」と話す場面がシリーズの締め括りとして非常に素晴らしかっただけに、その続きはどうやっても蛇足にしかならないのではという懸念がありました。
実際、第一作以来の脚本家 笠原和夫は『頂上作戦』でシリーズは終了しているとして脚本執筆を拒否し、『激突! 殺人拳』(1974年)の高田宏治が本作を執筆したというし。
で、完成した本作ですが、やはり蛇足感全開でした。
警察による暴力団取り締まりが厳しくなってきたことを受け、広島県内のヤクザは山守組を中心に大同団結し、政治結社天政会と名を変えて活動を続けています。
天政会のトップを務めているのは小林旭扮する武田明なのですが、前作ラストにて長期刑になる可能性が高いと言われていた武田が早々に出所し、性懲りもなく組織の要職に就いているという点には違和感しかありませんでした。あんた、まだやってんのかと。
そして血の気が多く頭の悪い奴らが火種を作り、臆病者の二枚舌によって状況が混乱していくという構図はシリーズお馴染みのものであり、この人たちは一体いつまで同じことをしているんだろうかと、ちょっと冷めた目で見てしまいました。
その後、武田は逮捕目前ということで要職から退き、まだ経験の浅い松村保(北大路欣也)が天政会トップに選任されるのですが、武田の穏健路線をさらに推し進めようとする松村が頑固な古参幹部連中からの反目を受けながらも、何とか組織をまとめようとすることが、もう一つの作品の骨子となります。
終戦直後を描いた第一作と違って、本作は製作年代と元ネタとなった事件の発生時点が非常に近く(1970年頃)、松村保のモデルになったヤクザも現役バリバリで活動していたことから、その描写にはかなり気を使ったと脚本家の高田は回想しています。
何を言われるか分からないので松村を良く描く必要があったし、触れづらい部分(大阪で松村が襲撃される場面など)では抗争の背景を誤魔化したのこと。そうした制約条件が実録モノとしての完成度を引き下げる原因になっています。
役者の使い回しは限界
そして、同じ俳優を別のキャラクターとして再登場させるというシリーズ固有の風習は、本作では凶と出ています。
主人公松村を演じるのは、第2弾『広島死闘篇』で主人公 山中正治を演じた北大路欣也。別人という設定ではあるものの、北大路の演技がほぼ同じだったことから同一人物に見えてしまっています。キャラの描き分けという点で、これはマズかったと思います。
他方、三度目の出演となる松方弘樹は毎回演技のバリエーションを変えて新キャラに臨むので、少なくとも北大路欣也よりはやる気あるのかなと思うのですが、死んでは生き返ってをこうも繰り返されると、松方の存在自体が半ば冗談みたいになってきています。
どうせ今回も殺されるのだろうと思って見ていると、案の定、殺されるし。
毎回異なるチョイ役で登場する川谷拓三に至っては、手塚治虫作品のヒョウタンツギ状態ですね。
で、さらに混乱を増長させているのが同一キャラを別人が演じるという、上記とは逆の現象も同時に起こっているということ。当時の東映スターを勢揃いさせたシリーズだけあって、どうしてもスケジュールが合わなくなる俳優も出てきたようです。
『代理戦争』『頂上決戦』にて、打本組No.2でありながらライバル山守組に移籍するという豪快な変わり身を披露した早川は本作にも登場するのですが、演じる室田日出男が多忙だったことから織本順吉に変更し、まるで同一人物には見えなくなっています。
前作では小心な小物程度だった早川が、本作では天政会の幹部クラスにランクアップをしているという謎もあるし。
そして『広島死闘篇』の大友勝利も再登場するのですが、やはり演じる千葉真一が『激突! 殺人拳』(1974年)のクランクインを控えていたことから宍戸錠に交代しています。
大友勝利と言えばシリーズ屈指の人気キャラであり、その豪胆な暴れっぷりを再見したいという思いはあったのですが、俳優交代によって全くの別人になってしまったことは残念でした。
また大友勝利が北大路欣也と敵対するという構図からは『広島死闘篇』の延長戦的な雰囲気も感じるのですが、大友は別の俳優が演じる同一キャラ、松村は同一俳優が演じる別キャラというややこしいことになっていることから、私の頭は軽くパニック状態になりました。
これだったら宍戸錠は全くの新キャラで登場した方がスッキリしたかなと。
あと、同一人物が演じる同一キャラなのに、どんどん人格が変わってきている者もいましたね。
山城新伍扮する江田などはその最たるもので、初登場の『広島死闘篇』では大所帯村岡組を支える幹部の一人として登場し、狂犬 大友勝利とも一戦を交えるなど立派な働きをしていたはずなのですが、その後どんどんキャラの軽量化が進んでいきました。
本作ではついに金と権力に弱いお調子者キャラにまで落ち、格下である松村の提灯持ちになって、最後はその暗殺未遂事件に巻き込まれる形で死亡するという大変な不遇を受けました。
第二作から死亡せず生きて延びてきた数少ないキャラの最後がこれかと思うと非常に残念であり、キャラの無駄遣いという感じがして良い印象は持ちませんでした。
完全老害化した広能
で、シリーズの主人公である広能(菅原文太)はと言うと、本作前半部分では服役中の網走刑務所で『仁義なき戦い』の原作を執筆中であり、表舞台には出てきません。
ようやく出所しても、天政会は広能が長年の恨みを持つ山守組からの流れを汲む組織であるということや、舎弟の市岡(松方弘樹)が天政会トップ松村の指示で殺されたことから、天政会への宥和姿勢をとろうとはしません。
最初に仕掛けたのは市岡であり、松村は応戦せざるをえなかったという背景を考慮せず、「わしの舎弟じゃけぇ」という言い分からどちらに部があるのかを考慮しない広能は、完全な老害でした。
そして広島極道のレジェンドである広能がこの姿勢では大戦争が起こりかねないということで、武田は「自分と一緒に引退してくれ」、松村は「天政会に入ってくれるなら広能組を厚遇する」と、それぞれが可能な限りの条件を提示してくるのですが、頑として首を縦に振らない広能。
『代理戦争』以前の広能が嫌っていた親分像に、広能自身がなっていたというわけです。これは切なかったですね。
広能のこうした姿勢が天政会内の反松村派の動きを活発化させ、ついに松村暗殺未遂が起こるのですが、重傷を負ってもなお私怨ではなく広島極道の大同団結を訴える松村の姿に広能は感銘を受け、広能組の天政会への参加と、自信の引退を決意します。
ただ、最初の会談で松村の資質や人柄を見抜けず、事が荒れに荒れてようやく広能が松村を認めるというのは遅すぎやしないかと思うのですが。
≪仁義なき戦いシリーズ≫
仁義なき戦い_内容は一般的な組織論【7点/10点満点中】
仁義なき戦い 広島死闘篇_まさかのラブストーリー【8点/10点満点中】
仁義なき戦い 代理戦争_人を喰わにゃあ、おのれが喰われるんで【8点/10点満点中】
仁義なき戦い 頂上作戦_小林旭がかっこいい【7点/10点満点中】
仁義なき戦い 完結篇_蛇足だけどそこそこ面白い【6点/10点満点中】
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