グリーン・インフェルノ_食人族を応援したくなる【8点/10点満点中】(ネタバレなし・感想・解説)

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スプラッタ
スプラッタ

(2013年 アメリカ)
世界の人権問題、環境問題に関心の高い大学生・ジャスティンは、学生運動グループと関りを持つようになった。そのグループは、週末にアマゾンへ行って熱帯雨林の開発をする大企業を止めようとしており、ジャスティンもその計画に参加することにした。

8点/10点満点中 イーライ・ロスの才気爆発

スタッフ・キャスト

監督・脚本はイーライ・ロス

1972年生まれ。ニューヨーク大学卒業後に映画界入りし、しばらくはNYの映画業界で働いていたのですが、なかなか芽が出ず1999年にLAに転居。1995年に執筆した脚本を自らの手で製作・監督した『キャビン・フィーバー』(2002年)で次世代ホラー監督として注目を浴び、『ホステル』(2006年)が全米初登場1位となったことからその名が広く定着しました。

同作がクェンティン・タランティーノに評価されたことから、『グラインドハウス』(2006年)のフェイク予告編『感謝祭』や、『イングロリアス・バスターズ』(2009年)の劇中劇『国家の誇り』を監督。また『イングロリアス・バスターズ』には出演もしています。

近年は非ホラーにも活動の範囲を広げ、キアヌ・リーブス主演のスリラー『ノック・ノック』(2016年)、ブルース・ウィリス主演のアクション『デス・ウィッシュ』、アンブリン・エンターテイメント製作のファンタジー『ルイスと不思議の時計』(2018年)を監督しています。

デス・ウィッシュ(2018年)【6点/10点満点中_端正な仕上がりだがインパクト不足】(ネタバレなし・感想・解説)

製作はホラー映画界の大物・ジェイソン・ブラム

1969年生まれ。1990年代後半より映画界でのキャリアをスタートさせ、2000年に自身の製作会社であるブラムハウス・プロダクションズを設立し、CEOに就任しました。たったの15,000ドルの製作費で作られた『パラノーマル・アクティビティ』(2007年)が全世界で2億ドル近く稼ぎ出す大ヒットとなり、同作はシリーズ化。さらにジェームズ・ワン監督の『インシディアス』(2010年)、マイケル・ベイと共同製作の『パージ』(2013年)を放ち、同じくシリーズ化。比較的低コストでヒット作を生み出せることと、ヒット作をシリーズ化するノウハウを持っているが彼の強みです。

加えて、ホラーに活動の基礎を持つ映画人としては例外的に賞レースに絡む作品を製作するノウハウも持っており、デイミアン・チャゼル監督の『セッション』(2014年)でアカデミー助演男優賞、編集賞、録音賞を受賞、ジョーダン・ピール監督の『ゲット・アウト』(2017年)でアカデミー脚本賞受賞、スパイク・リー監督の『ブラック・クランズマン』(2018年)でアカデミー脚色賞を受賞しています。

また最近のM・ナイト・シャマラン作品も手掛けており、『ヴィジット』(2015年)、『スプリット』(2017年)、『ミスター・ガラス』(2019年)と連続でリリースしています。興行成績の低下が著しかったシャマランが盛り返した作品群を製作したという点でも、ブラムの腕利きぶりが分かります。

登場人物

学生運動グループ

  • ジャスティン(ロレンツァ・イッツォ):社会問題に関心の高い大学1年生。国連弁護士である父親から世界の悪しき風習を国連では解決できないことを聞かされたが、それでも何かやりたいという思いから学生運動に参加するようになった。演じるロレンツァ・イッツォは監督のイーライ・ロスの奥さん。
  • アレハンドロ(アリエル・レヴィ):グループのリーダー。大企業の熱帯雨林伐採によりアマゾンの原住民ヤハ族の生活が脅かされようとしていることから、抗議活動をストリーム中継することで世論に訴えるという計画を立てる。
  • エイミー(カービー・ブリス・ブラントン):社会問題に熱心な上にベジタリアンという、いかにもな意識高い系。ただしペルーに着くと途上国をあからさまに下に見た言動をとり、現地の社会にも自然にも敬意を払わないという酷いエセぶりを披露。ヤハ族に捕まった後、みんなの前でうんこをした。
  • サマンサ(マグダ・アパノヴィッチ):元陸上部で足に自信があるため、ヤハ族の檻から逃げて助けを呼ぶ役割を引き受けた。
  • カーラ(イグナシア・アラマンド):アレハンドロの恋人。新入りのジャスティンがアレハンドロを狙っているものと勘違いしており、彼女にきつく当たる。
  • ジョナ(アーロン・バーンズ):ジャスティンを勧誘した奥手の肥満。ジャスティンに気がある様子で、四六時中くっついている。太っていてご馳走と見られたためか、真っ先にヤハ族に食われた。
  • ラーズ(ダリル・サバラ):社会問題に関心があるようには見えない遊び気分の学生で、ペルーに到着するや、真っ先にドラッグを欲しがった。アマゾンの自然には対馴染んでおらず、虫刺されを気にしたり、蜘蛛に怯えたりする。

その他

  • カルロス・リンカーン(マティアス・ロペス):ペルーの金持ちで、抗議活動のスポンサー。何をして財を成した人間かは不明だが、ラーズにドラッグを与えたり、警察に賄賂を渡したりという行動から察するに、まともな金持ちではない。
  • ダニエル(ニコラス・マルティネス):現地事情に詳しいハゲで、GPS携帯を準備するなど主に装備を担当している。
  • ケイシー(スカイ・フェレイラ):ジャスティンのルームメイトで、学生運動には否定的。

『食人族』(1980年)について

本作はルッジェロ・デオダート監督の『食人族』(1980年)のリメイク企画なのですが、これがとんでもないゲテモノ映画。人肉食のみならず猟奇的な性描写や動物虐待など、ホラー映画とは言えさすがにそこまでやるのかという腕白ぶりで、公開当時に世界を恐怖のどん底に叩き落とした作品でした。

同作では実際に動物を殺しており、猿の頭をナテでカチ割ったり、亀をじっくり解体したりといった映像が含まれていたことから、動物愛護団体からの猛クレームが入ったようなのですが、これに対して監督は「後で食べたから問題ない」と、日本のテレビ界における「スタッフがおいしくいただきました」の先駆ともなった言い訳をしたのでした。

感想

ホラー映画としての完成度の高さ

ペルーに入国してからの「ヤバイところに来た」感が実に素晴らしく、これ以上行くとマズいんだろうなという空気感があって、主人公はそれを感じ取っているにも関わらず、グループのリーダーや現地のガイド達から「大丈夫、大丈夫。こんなもんだ」とか言われるうちにどんどん事が進んでいっているという煽り方は、定番ながらも良くできていました。

また、「犠牲者となる若者に共感できる人間がいない」という『悪魔のいけにえ』(1974年)以来のスプラッタホラーの伝統も引き継がれており、殺されても仕方のない連中が、どんどん死へ近づいていっているという点も、後半に向けた良い煽りとなっていました。

いざヤハ族に捕まってからは残虐映像の嵐。まず肥満のジョナが捕まってヤハ族のディナーにされるのですが、生きたまま目玉をくり抜いて食われたり、手足を切断されたりと、そのインパクトは生半可なものではありませんでした。

食人行為の描写が丁寧

ただし本作が特徴的なのは、こうした残虐行為があくまでヤハ族の生活の一環として描かれているということです。アマゾンでは珍しいデブが来てテンションが上がっていたという側面こそあったものの、それにしても日本人にとってのマグロの解体ショーのような感覚であり、殺しを楽しんでいる風には描かれていません。

その後の調理では、解体された人肉に塩をふり、臭みをとるためなのか野菜と一緒に燻製にするという、意外と丁寧な調理の過程を見せます。こうした丁寧な描写によって、生物に不可欠な食というレベルで食人行為を定義し、善悪の判断を観客にさせないという、なかなか配慮のある作品となっています。

このような切り口は、後に製作された『トマホーク ガンマンvs食人族』(2015年)にも引き継がれていますね。

トマホーク ガンマンvs食人族【7点/10点満点中_ジャンル横断型ウェスタンの成功例】

意識高い系が殺されることの爽快感

ロクに社会を知りもしない学生が、人権、平和、環境など自分が絶対正義の側に立てる主張を声高に繰り返す様に、いささか辟易とさせられることがあります。そりゃあなたの言うことは間違っていないけど、世界は善悪で色分けできるほど単純にはできていない。あなたが敵と見做した大企業のおかげで、あなたの生活が成り立っているという側面もあるんだよと言いたくなることがあります。また、絶対正義の側に立って誰かを批判し攻撃すること自体が、彼らにとっての快感になってやしないかという点も引っかかります。

本作には、そうした意識高い系に対する違和感が込められており、自分の食い扶持すら稼いだことのない学生の分際で「私たちがヤハ族を守る」などと思いあがった行動をしたツケを、当のヤハ族に払わされるという点が爽快でもありました。

まとめ

スプラッタホラーの定番の法則を守った堅実な構成と、突き抜けたスプラッタ描写。そして社会批判まで織り込まれたレベルの高い作品だと感じました。スプラッタが苦手でない限り、多くの人にとって見る価値のある作品だと思います。

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
記事が役立ったらクリック
スポンサーリンク

コメント