ダーク・スティール_L.A.コンフィデンシャルの二番煎じ【5点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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クライムアクション
クライムアクション

(2002年 アメリカ)
1992年のLA。ベテラン刑事のエルドンと新人刑事のボビーは雑貨店の強盗殺人事件を捜査するが、突き止めた犯人は二人の上司であるジャックが使っていた情報屋だった。ジャックから真犯人を見逃すよう指示されたエルドンとボビーは、別の容疑者をでっち上げ、逮捕の際に射殺して事件を幕引きさせることにする。

© 2003 – United Artists – All Rights Reserved

5点/10点満点中_ロス暴動という背景を生かせていない

スタッフ・キャスト

アメリカ文学界の狂犬・ジェイムズ・エルロイが原案

1948年生まれ。特に犯罪小説で高名な小説家で、アメリカの暗部に迫る内容から「アメリカ文学界の狂犬」と呼ばれています。

10歳の頃に看護師だった母親が何者かに殺害され(事件は未解決)、父親も17歳の頃に死去。自身は高校を中退した後、空き家に住んだり、下着泥棒をしたり、ドラッグの売人をしたりと、荒れた若年期を過ごしました。

20代後半より文学に目覚め、1987年の『ブラック・ダリア』からスタートした「暗黒のL.A.」四部作(他に『ビッグ・ノーウェア』(1988年)、『L.A.コンフィデンシャル』(1990年)、『ホワイト・ジャズ』(1992年))が好評となりました。そのうち、カーティス・ハンソン監督の手により映画化された『L.A.コンフィデンシャル』(1997年)が犯罪映画史上屈指の傑作となったにより、エルロイの名声はさらに高まりました。

本作は原作本があるのではなく、エルロイが映画用の脚本として執筆したものでした。製作は難航して8年を要し、元は1960年代のワッツ暴動を舞台にしていたところ、製作費の問題から現代劇に置き換えたいというプロデューサーからの要望で1992年のロス暴動に書き換えるなどしたのですが、最終的にエルロイはプロダクションから離れ、デヴィッド・エアーによって全面的な書き換えがなされました。エルロイは、完成作は自分の作品ではないと言っています。

武闘派デヴィッド・エアーが脚色

1968年生まれ。エアー家は代々軍人の家系であり、自身も17歳でアメリカ海軍に入隊。潜水艦の乗組員としての経歴を生かしてジョナサン・モストウ監督の『U-571』(2000年)の脚本家チームの一人となり、これが映画デビュー作となりました。

以降は、『トレーニング・デイ』(2001)、『ワイルド・スピード』(2001年)、『S.W.A.T.』(2003年)と、クライムアクションの大家としてまったくブレないフィルモグラフィーを構築し、クリスチャン・ベール主演の『バッドタイム』(2005年)で監督デビュー。本作の原案を務めたジェームズ・エルロイとは、キアヌ・リーブス主演の『フェイク シティ ある男のルール』(2008年)で再コラボしました。

キャリアで最高の評価を受けたのは、パトロール警官の一日をファウンドフッテージ方式で描いた『エンド・オブ・ウォッチ』(2012年)であり、低予算ながら全米興収No.1を獲得。その評価を足掛かりに大作も任されるようになり、ブラッド・ピット主演の戦車映画『フューリー』(2014年)、DCコミックの『スーサイド・スクワッド』(2016年)、Netflix史上最高額の予算が投じられたファンタジーアクション『ブライト』(2017年)にて、それぞれ監督と脚本を担当しています。

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監督は元野球選手のロン・シェルトン

1945年生まれ。バスケットボールと野球の奨学金を得て大学に進学し、1966年よりボルチモア・オリオールズに所属。マイナー・リーグで6年間プレイしたのですが、メジャーに昇格できず引退しました。

その後アリゾナ大学に入学して脚本を書くようになり、ケビン・コスナー、スーザン・サランドン、ティム・ロビンスが共演した野球映画『さよならゲーム』(1988年)で監督デビュー。同作でシェルトンが主演に希望していたのはマイナー・リーガーとしてのプレイ経験のあるカート・ラッセルだったのですが、製作会社オライオンの意向により、当時注目されていたケビン・コスナーがキャスティングされたという経緯があります。コスナーも高校野球の全米選抜に選ばれた経験を持っています。

以降はスポーツ映画の監督として、ウェズリー・スナイプス主演のバスケ映画『ハード・プレイ』(1992年)、トミー・リー・ジョーンズが伝説のメジャーリーガーに扮した伝記映画『タイ・カップ』(1994年)、ケビン・コスナーが腕はあるが落ちぶれたプロゴルファーに扮した『ティン・カップ』(1996年)、アントニオ・バンデラスとウッディ・ハレルソンが元ボクサーに扮した『マイ・スウィート・ガイズ』(1999年)を監督しています。

本作以降はクライムアクションの分野にも幅を広げ、ハリソン・フォードとジョシュ・ハートネットが異色のバディを組む刑事もの『ハリウッド的殺人事件』(2003年)を監督し、マイケル・ベイ監督の『バッドボーイズ2バッド』(2003年)の脚本を書きました。

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登場人物

ロス市警

  • エルドン・ペリー(カート・ラッセル):特捜班の警部補。亡くなった父の弟子筋であるジャックに服従しており、不正や汚職にも構わず手を染める。エルドンの息子役でラッセルにそっくりな青年が出てきますが、彼はラッセルの甥だそうです。
  • ボビー・キーオ(スコット・スピードマン):特捜班所属の若手刑事。ジャックの甥で、エルドンからの教育を受けている。また、内部調査班所属とは知らずにベス・ウィリアムソンと交際している。
  • ジャック・ヴァン・メーター(ブレンダン・グリーソン):ボビーの叔父で、エルドンの父の元相棒。街のチンピラ(オーチャードとシドウェル)にキムの雑貨店を襲わせる、ある事件の隠蔽のために容疑者をでっち上げ、口封じにその容疑者を殺すなど、不正の限りを尽くしている。
  • アーサー・ホーランド(ヴィング・レイムス):ジャックの一味の不正を問題視し、内部調査を行っている。部下のベスと不倫をした過去がある。
  • ベス・ウィリアムソン(マイケル・ミシェル):ホーランドの部下で、かつてホーランドと不倫していた。現在はボビーと交際中だが、お互いに相手の素性を知らずに付き合っている。
  • ジェームズ・バーカム(ジョナサン・バンクス):次期署長候補。表面上は公正中立な立場にいるが、実はジャックやエルドンと繋がっており、彼らの出世の手助けや処罰の回避に動いている。

その他

  • サリー・ペリー(ロリータ・ダヴィドヴィッチ):エルドンの妻。刑務所勤務。エルドンの不正や汚職に気付いており、離婚を主張する。演じるダヴィドヴィッチはロン・シェルトン監督の奥さんです。
  • ダリル・オーチャード(クルプト):シドウェルと組んでいる悪党で、ジャックの指示で動いている。
  • ゲイリー・シドウェル(ダッシュ・ミホク):オーチャードと組んでジャックの指示に従っている。キムの金庫を奪う目的で雑貨店を襲い、たまたまやってきた客を次々と殺害した。
  • キム(ダナ・リー):強盗二人に店を襲われ、妻を殺された雑貨店店主。韓国系。ただし裏の顔を持ち、ストリップバーなどを手広く経営している。オーチャードとシドウェルは彼の隠し金庫を狙って強盗に入った。

感想

『L.A.コンフィデンシャル』の劣化コピー

汚職に慣れ切った中堅刑事が居て、自分の上はもっとあくどいことをしていると知って許せなくなるというあらすじは、同じくジェームズ・エルロイ原作の傑作『L.A.コンフィデンシャル』(1997年)と共通しています。本作でカート・ラッセルが演じた暴力刑事エルドンは、『L.A.コンフィデンシャル』でラッセル・クロウが演じたバド・ホワイトに相当し、ブレンダン・グリーソンが演じたジャックは、ジェームズ・クロムウェルが演じたダドリー・スミスに相当します。また、暴力刑事の考えを変えさせるきっかけの一つが女性との関係性にあったという点も類似しており、既視感がかなり凄かったです。

ただし、大傑作『L.A.コンフィデンシャル』を越えている要素がまったくなく、劣化コピーを見せられている気分になった点は残念でした。

本作に謎解き要素はなく、最初から怪しい奴が案の定悪人というストレートな話なので、サスペンス映画としてはほぼ機能していません。汚職まみれの暴力刑事が、「それでも許せねぇ!」とわずかに残った正義感を爆発させる瞬間にも躍動感がなく、筋書きはなぞっているが、肝心のエモーションが伴っていない状態となっています。やはりこれは監督の力量の差なのでしょうか。

ロス暴動という背景が活かされていない

本作の独自性は1992年のロス暴動を背景としていることであり、それに付随して人種間の対立が物語の随所に見られます。

エルドンの父→ジャック→エルドン→ボビーという汚職警官の系譜はアイルランド系という血によって繋がってきたのですが、そこに黒人のホーランドという不純物が現れて、半ば私物化されてきた公権力をアイリッシュグループから引き剥がそうとしています。ストリートでは、新興勢力である韓国系のキムの商店が強盗の襲撃に襲われます。

この構図からは、登場人物の個人レベルでも存在していた人種的緊張感がロス暴動というゴールに向かって高まっていくという作劇を期待させ、人種というキーワードにより『L.A.コンフィデンシャル』の二番煎じから脱却しようとしているのかとも思ったのですが、刑事ものと人種間対立の融合はあまりうまくいっていませんでした。

人種ものには強烈な差別主義者が一人くらいはいないと成立しないのですが、そういった人物を一人も出していないために、全体の構図がぼんやりとしているのです。これではロス暴動を背景にした意味がなく、普通の刑事ものでよかったのではないかと思います。

まとめ

キャストに魅力があるので見れない作品ではなく、ロス暴動の最中のカーチェイスというクライマックスにも見応えがあったのですが、全体的には芳しい出来ではなかったと思います。

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