この世に私の居場所なんてない【8点/10点満点中_日常系バイオレンスの傑作】

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クライムサスペンス
クライムサスペンス

[2017年Netflixオリジナル作品]

8点/10点満点

■監督デビュー作でいきなりサンダンスグランプリ

ジェレミー・ソルニエ監督の傑作バイオレンス『ブルーリベンジ』で髭だらけの頼りない主人公を演じたメイコン・ブレアの監督デビュー作にして、いきなりサンダンス映画祭でグランプリを受賞した作品。サンダンスのグランプリと言えば、古くはコーエン兄弟やブライアン・シンガー、最近ではライアン・クーグラーやデミアン・チャゼルも受賞した大変な権威であり、それほどの賞を俳優あがりの監督がデビュー作でいきなり受賞するなどとんでもない快挙なのですが、確かにこれはそれだけの力を持った作品だと感じました。

■底辺に生きる主人公の悲喜劇

メンヘラ気味の介護士が、忍者修行に励む近所の無職と組んで空き巣犯を探すという内容なのですが、売れない俳優のまま中年になってしまったブレアはこのキャラクター達の境遇への理解があるのか、底辺の人々の日常が実に丁寧に描かれます。

職場では何を言っても構わない人のような扱いを受け、スーパーではレジ待ちの列に割り込まれ、知らないおじさんから読みかけの小説のオチをバラされ、毎日のようにどこかの犬が庭に糞をしていく。しかも空き巣に入られ、警察を呼んでも「どうせ大したものは盗られてないんだから」とまともに取り合ってもらえない。これらの描写は基本的には笑わせる演出にはなっているものの、誰からも重く扱われない、関心を持たれない主人公の無念のようなものも同時に籠められており、軽そうで重い独特のバランスになっています。

■日常とバイオレンスを違和感なく繋げた脚本の妙

空き巣に盗まれたのはおばあちゃんの形見の銀食器。警察からはどうでもいいと思われても主人公にとっては大事なものなので、忍者修行をしている無職をボディガードにつけて独自捜査を開始します。最初は盗品の流れを追って近所のリサイクルショップを調べて回る程度だったものの、そのうち銃が出てくる危険な領域に入っていき、最終的には血生臭いバイオレンスが炸裂するのですが、一般市民がバイオレンスに巻き込まれるまでの過程に無理がなく、非常によく考えられたストーリーだと思いました。

■主人公と拮抗しうる戦力に留められた悪役

また、主人公達に対峙する犯罪者側のキャラクターもよくできています。主人公が市民として底辺付近の存在であれば、敵側は犯罪者として底辺付近の存在。ケチな泥棒で小銭を稼ぎ、強盗用の違法なショットガンを別の犯罪者から購入しようとすると錆びついたオンボロを売りつけられた上に、なぜかぶん殴られる。しかもあちらは1人、こちらは3人なのに殴り返せないというヘタレぶりであり、市民が対抗しても不自然ではないレベルに戦力が抑えられています。

■ジェレミー・ソルニエ監督作品との類似点

そういえば、本作の作風はジェレミー・ソルニエ作品に酷似しています。ソルニエ作品は平凡な人間が非常事態に巻き込まれ、スーパーヒーローになるわけでもなく時に愚かなミスを犯しながらもなんとかサバイブするというものばかりであり、敵も味方も人間臭い行動をとるという点に特徴があります。どのキャラクターもドン臭かったり、攻めるべき時に攻め切れなかったり、肝心な場面でミスを犯したりと、普通の映画でやられるとイラっとする展開をあえて入れてきているのですが、人物描写の巧みさでこれをうまく見せ場に転嫁していることが特徴となっています。本作もまんまその通りの作風なのです。

また、そうしたドン臭さの中で強烈なバイオレンスを炸裂させるコントラストの付け方や、バイオレンスを見せるタイミングの良さ、伏線回収の巧みさなどがソルニエ作品の娯楽的なまとまりを良くしているのですが、本作はその要素を継承発展し、よりうまい形での娯楽化に成功しており、この監督の次回作もぜひ見たいと思わせる出来となっています。『タクシードライバー』を21世紀仕様にアップデートさせたかのようなラストの銃撃戦なんて物凄い迫力だったし、主人公が強くはないという設定がこの上ないスリルにも繋がっていました。

I Don’t Feel at Home in This World Anymore
監督:メイコン・ブレア
脚本:メイコン・ブレア
製作:メッテ=マリー・カッツ,ニール・コップ,ヴィンセント・サヴィーノ,アニシュ・サヴィアーニ
製作総指揮:イアン・ブリック,マット・レヴィン
出演者:メラニー・リンスキー,イライジャ・ウッド,デヴィッド・ヨウ,ジェーン・レヴィ,デヴォン・グレイ
音楽:ブルック・ブレア,ウィル・ブレア
撮影:ラーキン・サイプル
編集:トマス・ヴェングリス
製作会社:フィルム・サイエンス,XYZフィルムズ
配給:ネットフリックス
公開:2017年1月19日 (アメリカ),2017年2月24日(Netflix)
上映時間:96分

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