(2020年 カナダ)
いつものNetflixクォリティの映画です。すなわち暇つぶしで見る分には支障ないが、決して良い出来ではないという。いくつか光る点はあるのでもうちょっと磨けば良くなったかもしれないのですが、監督に干渉しないというNetflixの方針が作品の成長を妨げているように感じました。
あらすじ
アントワーヌは社会崩壊に備えた訓練や備蓄に余念がない男。アランというYouTuberが配信しているサバイバル術をいつも参考にしているが、ある日アランから、サバイバル塾に空きが出たから参加しないかと直々の誘いを受ける。アランは広大な私有地に訓練施設を作り上げており、そこでアントワーヌ達は自給自足術や侵入者を撃退するための戦術を学ぶ。
しかしその訓練の過程で爆発事故が起こり、参加者の一人が亡くなる。アントワーヌ達は警察に通報しようとするが、非合法に銃や爆薬を扱っていることが判明すれば全員刑務所送りだとしてアランは反対する。さらに、合意形成ができていない中でアランが死体を燃やし始めたことから不信感は深まり、アントワーヌ達は脱出を図るが、アランがこれを止めようとする。
登場人物
- アラン:サバイバル塾長。YouTuberとしてサバイバル術を配信しつつ、熱心なファンを2万平方キロメートルもの広大な私有地に呼んで、サバイバル術を伝授している。YouTubeでは食糧備蓄のレクチャーが中心だが、サバイバル塾では銃火器のレクチャーが中心。
- アントワーヌ:サバイバル塾の新入生。妻子と共に自主的な避難訓練をするほどサバイバルに熱心であり、入塾後にはすぐさまアラン塾長のお気に入りになって「俺の土地で一緒に暮らさないか」と誘われる。死亡事故発生後には警察への通報を主張し、アラン塾長及びダヴィッドと対立する。
- ダヴィッド:古参のサバイバル塾生。他の塾生たちに対して先輩風を吹かせるが、トラブル発生時には呆然と立ち尽くすだけで何もできない小心者。事故後には隠蔽すべしという塾長の配下になるが、地の利も武器もある側に立って気が大きくなったのか、「あいつらぶっ殺してやるぜ!」とアラン塾長以上に意気込む。
- ラシェル:サバイバル塾生だが、従軍経験があり格闘や銃撃にはすでに長けている。事故後には警察への通報を主張し、アントワーヌと共に脱出を図る。
感想
変人の集まり
主人公アントワーヌは一見すると普通の人なのですが、夜中に幼い娘を叩き起こして避難訓練を行い、20年先の食糧まで自宅に備蓄している変人です。
そんなアントワーヌがサバイバル塾に参加することから物語はスタートするのですが、そこに集まっているのは社会が必ず崩壊するとパラノイア的に信じている変人ばかりで、アントワーヌが常識人に見えてくるほどです。
確かに備えは重要なのですが、想定すべきはせいぜい一時的な混乱状態をどう乗り切るのかまででしょう。
しかしこの人達は、国家というものが完全に崩壊した後までを見据え、その場合にどうやって自力で生き延びるのかを真剣に考えています。ただし人間って集団あっての存在なんですよね。
国家が崩壊した後に個人が生き延びるなんてことは現実的に考えて不可能であり、そんな不可能な目標に向けた準備をしている様は、なんだか子供のごっこ遊びを見ているようで滑稽に映りました。
分裂に至る過程に面白みがない
そんな非現実的な訓練なのだから内容にも過剰な部分があり、侵入した敵を倒すためとか言ってアランは爆弾の製造法までを教え始めるのですが、この爆弾が爆発して参加者の一人が亡くなります。
違法に銃器とか爆発物を扱っていたことがお上に知れれば全員逮捕だから、隠蔽するしかないだろと主張するアラン塾長に対し、いやいや人が死んでるんだし警察に通報すべきでしょと主張する塾生たち。ここで集団は分裂するのですが、この議論が深掘りされていないので面白くなっていません。
映画は当然にアラン塾長の言い分が間違っているという方向性で進んでいくのですが、私はアラン塾長の言い分は傾聴に値すると思います。
事故を隠そうと思えば隠せる状況だし、そもそも参加者達は「国家は信用できねぇ」という思想のもと、少々の危険は覚悟の上で参加しているわけです。
「一人や二人死んでも、いちいちお上に報告する必要なんかねえよ。そもそもお前らはお上なんか信用してないんだろ」という意見も、それはそれでありではないでしょうか。
この議論を深掘りし、もしあなたがこの現場に居たらどう判断しますかと観客にも問うような内容にしていれば面白くなったはずなのですが、ここがスルーされたのは勿体ない限りでした。
銃撃戦のみ見応えあり
ここから脱出を図るアントワーヌ&ラシェルVS追いかけるアラン&ダヴィッドの追撃戦が始まるのですが、前半部分で多彩なサバイバル術が披露された割には見せ場のギミックがさほど多くはなくて、肩透かしを感じました。
ただし銃撃戦のみよくできています。サバゲーマニアに実弾を持たせてみた感じの見せ場であり、各自が基本に忠実な動き方をするので、実に引き締まった銃撃戦となっているのです。
命中率も高すぎず低すぎずで丁度いい塩梅になっており、この銃撃戦はかなり見応えがありました。
≪雪景色の中のサスペンス≫
白い刻印_不器用な男がすべてを失うまで【8点/10点満点中】
フローズン・リバー_最上位クラスの社会派サスペンス【8点/10点満点中】
ウインド・リバー_半端な社会派サスペンス【5点/10点満点中】
ファイティング・ダディ 怒りの除雪車_興味深いが爆発力不足【5点/10点満点中】
白い沈黙_雰囲気は良いのに尻すぼみ 【4点/10点満点中】
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