極悪女王_プロレスはショーか?格闘技か?【6点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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実話もの
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(2024年 日本)
話題のネトフリドラマだけど、個人的にはイマイチだった。見せ場のプロレスがショーだか真剣勝負だかグレーでどう見ていいのか分からないし、クラッシュギャルズの体格はプロレスラーのものではない。よく知ってるタレントが頑張ってプロレス風をやってるのを楽しむドラマなんだろう。

感想

Netflixで話題のドラマで、伝説のヒールレスラー ダンプ松本の入門から引退までを通して、1970年代後半から1980年代半ばにかけての女子プロレスの状況が描かれる。

1981年生まれの私が知るダンプ松本は引退後のタレントであり、気さくで温厚なキャラクターがウケていたという記憶がある。ヒールレスラー時代を知らないものだから、「実はダンプ松本は良い人だったんです」と言われたところで何の驚きもない。

後のダンプ松本こと松本香(ゆりやんレトリィバァ)は、よそで子供を孕ませるようなダメ親父と、パートや内職で家計を支える母親に育てられ、元来の控えめな性格もあってグレるでも目立つでもなく、ただただ弱者と言える少女期を送っていた。

そんな彼女がたまたま目にした女子プロレスの興行で輝ける女子プロレスラーたちの姿に魅了され、その世界に入ることを決意する。

彼女が門を叩いた全日本女子プロレス(略して全女)は、松永三兄弟(実際には4兄弟)に仕切られた組織であり、女子プロレスラーたちは兄弟の権限で無理を強いられることも多々。

この辺りからはフェミニズム映画の香りもしてくるが、かといってそこまで説教臭くもないのでサラリと見やすい。この演出の塩梅は良かったね。

演出したのは『凶悪』(2013年)『孤狼の血』(2018年)の白石和彌監督で、本作と同様のネット配信ドラマ『仮面ライダーBLACK SUN』(2022年)では思想的にスパークしすぎて一部に不評を買ったが、本作では説教臭が適度に抑えられて見やすい娯楽作になっている。

本作の演出はなかなかに無難で、言われなければ白石和彌監督作品だと気づかないんじゃなかろうか。無難すぎて退屈する場面もあったけど・・・

全女に入門した松本だが、キャラが薄い、弱いでまったく芽が出ず、同じく伸び悩んでいた同期の長与千種(唐田えりか)と共に鬱屈した日々を過ごしていた。

二人がウダウダ過ごす最初の数話はあんまり面白くなかったなぁ

その後、長与は同期のライオネス飛鳥(剛力彩芽)と組んだクラッシュギャルズで一躍人気レスラーとなり、松本は松本で「ダンプ松本」というヒールキャラをモノにして売れっ子になる。

この題材であれば、心優しき松本香と、ヒールレスラー ダンプ松本との間で苦悩する主人公のドラマを期待させられるところ、この時期の香は身も心もダンプ松本になりきっていたという形でドラマが進捗するので、心理劇としての山場を逃したような気がする。

また松永兄弟はクラッシュギャルズvsダンプ松本の抗争という構図を作ってファンを盛り上げるのだが、長与と松本は興行においてライバルを演じたにとどまらず、プライベートでも軋轢を抱えていたという描き方になっているので、これまた友情劇としての山場を逃したような気がする。

プロレスファンは怒るかもしれないが、この際はっきり言ってしまおう。

プロレスはショーであり、ヒールレスラーが実は悪い人ではないこと、ベビーフェイスとヒールがいがみ合っているのは興行上のギミックであることは、みんな知っている。

だからこそ本作ではそのギミックの裏側が描かれるものと期待していたのだが、その辺りへのツッコミがまったくない(長与千種が率いるプロレス団体「マーベラス」の協力を受けている関係だろうか)

当時の全女が採用していたギミックそのままにドラマが進捗するので、内幕ものとしての面白さがないのだ。

そんなプロレスの建前とホンネという問題は、見せ場であるファイトシーンにも悪影響を与えている。

レスラーたちはショーを演じているだけなのか、ガチンコの格闘技をしているのかが曖昧なので、試合をどう見ればいいのか最後まで分からなかった。

主演3人は1年間のトレーニングと肉体改造をしたというだけあって、彼女らの見せるファイトは確かに素晴らしい(クラッシュギャルズがレスラーに見えないほど細いという問題はあったが・・・)

しかし試合の行方を固唾を飲んで見守ればいいのか、諸々決定済の試合を舞台役者の如くこなしているだけなのか、その辺りが不明瞭なので気持ちがまったく乗らず、結果、よく知ってるタレントさんが頑張ってる光景を鑑賞するに留まった。

ダーレン・アロノフスキー監督の『レスラー』(2008年)のようにプロレスの裏側にずばずば迫る内容を期待していただけに、配慮と気遣いの日本のエンタメ界ではそこまで迫り切れなかったという残念さがあった。

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