(2020年 アメリカ)
期待していなかったら思いのほか良かった映画。人間の欲望というテーマには観客にとっても切実なものがあったし、実現した夢を手放すしかないというドラマには泣きの要素もありました。ワンダーウーマンが弱くなるなどヒーローものとしての出来は犠牲にされているので完璧な内容ではないものの、これはこれでいいんじゃないでしょうか。
感想
期待してなかったけど面白かった
世界的に好評だった第一作が私にはハマらなかったこともあり、世評が振るわないらしい本作はしばらくスルーしていたのですが、Netflixでの配信が開始されたので見てみました。
期待値はかな~り低めだったのですが、これが自分でも意外なほど楽しめたのでビックリ。やはり映画とは自分の目で見るまで分からないものです。
何が良かったのかというと人間の欲望の根幹みたいな部分を描いていることであり、『スパイダーマン2』(2004年)のような、本当の悪人がいるわけじゃないんだけど、それでも人間という存在の不完全性の中で諍いが起こってしまうという話が私には響いたんですね。
こういう明確なテーマを打ち出せている映画ってやっぱり好きです。
笑うセールスマンみたいな話が良い
物語の中心をなすのは古物商で発見され、スミソニアン博物館で一時保管されることになった石。
見た目は大した価値のない代物なのですが、これが大昔に悪しき神が作り上げたものであり、人の願いをかなえる代わりにその代償を支払わせるという力を持っています。その威力は絶大であり、過去にいくつもの社会を崩壊に追い込んできました。
この石を狙っているのはマックス・ロード(ペドロ・パスカル)という胡散臭い実業家で、実現の見込みのない石油への投資話で個人投資家から金を集めまくっており、いよいよその嘘がばれる瀬戸際のところにいます。
マックスはこの石を使って嘘の投資話を本物にしようとしているのですが、願いの代償が発生することも知っているため、一計を講じます。自分自身に願いをかなえる力を宿し、自分と利害を共有する者に願いを言わせることで、マックス自身は代償を払わずに願いを実現しようというわけです。
こうしてマックスは人々の願いを叶える笑うセールスマンみたいになるのですが、ある人にとっての夢とは他人にとっての悪夢にもなりうるわけで、世界は大混乱に陥ることとなります。
結果的にヴィランとなるこのマックスという男なのですが、ヒスパニック系移民として少年時代よりアメリカ社会で苦労してきたことから、何としてでも成功をつかみ取りたいという同情すべき背景を持っています。
しかも彼には小学生くらいの息子がいて、この息子には自分と同じ思いはさせたくないと考えていることから、やはりその目的の根本部分には純粋なものがあります。だから憎めないのです。
そしてもう一人のヴィランとなるのが博物館で働くバーバラ(クリステン・ウィグ)。穏やかで親切な性格なのですが、見た目も人柄も地味なので他人の注目を集めることがなく、教室や職場の片隅でひっそりと生息してきた半生が伺えます。
そんなバーバラですが、見た目も人柄もファッションセンスもパーフェクトなワンダーウーマンことダイアナ(ガル・ガドット)と出会い、彼女みたいになりたいとの願いを石の力で実現したことから、どんどんおかしくなっていきます。
ずっと目立たない立ち位置に居た者が突然職場の人気者に変身し、異性からもひっきりなしにアプローチされる高嶺の花になれば勘違いもするもので、どんどんいや~な奴になっていくわけです。
ダイアナは「あなたの良さが失われている」と言ってバーバラに力を手放すよう説得を試みるのですが、これに対しバーバラは「持たざる者だった自分に戻る気はない」と言って一歩も引きません。
そこには、そもそも資質に恵まれているあなたに私の辛さなんて分かるはずがないでしょというニュアンスも含まれており、一庶民としてはバーバラの反論の方にこそ切実なものを感じるので、余計に両者の諍いが切なく感じられるわけです。
失いたくないという思いが高じすぎて最後は怪人ジャガーマンみたいな見た目になって、さすがにそんな化け物になるくらいなら元のバーバラの方がいいだろと思うわけですが、そこにはあまりつっこまないでねということで。
そして面白いのが、主人公ワンダーウーマンも石の力の虜になってしまうということです。
前作でトレバー(クリス・パイン)を失って以降は人との交際を極力避けてひっそりと生きてきたわけですが、さすがに70年近い独身生活にも辛いものがあって、トレバー生き返らないかなぁと願ってしまいます。
すると石の力でトレバーが復活し、彼女はこの上なく幸せな日々を送ることとなります。願いを取り消さないと世界が滅茶苦茶になるということは薄々わかっているのに、それでも何とか彼を残した状態で事態を解決できないかと、ヒーローらしからぬじたばたをするわけです。
最終的にはどうにもならんという現実を受け入れ、トレバーとは悲しい別れをするのですが、この場面の演出がまぁ素晴らしくて涙を搾り取られました。本来はドラマ畑の監督であるパティ・ジェンキンス監督の素晴らしい手腕がうなっています。
素晴らしい演出と言えばマックスが正気に戻る場面も同じく。息子の存在が彼をこちらに引き戻すという結末は何となく読めるのですが、万人が推測できるこのオチを定番通りにきちっと感動させる演出の安定感は異常でした。こちらでもまた涙を搾り取られます。
ヒーローものとしては盛り上がりに欠ける
そんなわけで映画としての面白さは素晴らしかったのですが、アメコミヒーローものとして面白かったかと言われると、こちらはちょっと微妙。
ワンダーウーマンと言えば初登場作『バットマンvsスーパーマン』(2016年)で見せた圧倒的な強さが印象的だったのですが、あれだけ強いと単独主演作に出てくる程度のヴィランならば瞬殺することが可能であり、物語が成立しなくなってしまいます。
そのため彼女のパワーを弱くするという好ましくない調整が必要であり、本作では願いを叶えた代償としてスーパーパワーが失われていくという設定になっています。
この調整のために見せ場は盛り上がりに欠けており、いつものダイアナなら簡単に解決できる場面で苦戦するという、なかなかもどかしい見せ場が連続します。
そして、いよいよ最終決戦に臨む場面で『聖闘士星矢』のゴールドクロスみたいなのを着用するのですが、これが素早さやしなやかさといったダイアナの長所を奪っているように見えて、あまり効率の良い武装には見えませんでした。
実際、その威力を発揮しないままに脱ぎ捨てられてしまうし、ゴールドクロスはなくても良かったかなと思います。
あと、1984年を舞台にした意味はあまりなかったように思います。別に現代劇でも良かったんじゃないかと思うのですが、全面核戦争の危機を描くというストーリーの手前、現代を舞台にすると政治的にいろいろややこしいという判断でもあったのでしょうか。
コメント
> 万人が推測できるこのオチを定番通りに
> きちっと感動させる演出の安定感は異常でした。
これはきっと、ボク好みの映画だなぁ。ありがとうございます。
1984は、ジョージ・オーウェルの小説にかけてるんでしょうね。
コメントいただき、ありがとうごあいます。
1984はオーウェルという点は気付きませんでした。それはあるかもしれませんね。