ザ・バットマン_長くてしんどい【6点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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DCコミック
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(2022年 アメリカ)
雰囲気は良いんだけど、ヒーローものとしては異常なまでの長尺と、込み入っている割にはさして意味のない謎解きで、結論から振り返ると要らん要素てんこ盛りという感じだった。

感想

今回のバットマンはクールで地味

今回描かれるのはヒーロー稼業をはじめて2年目のバットマン。

「バットマンのオリジンなんて反吐が出るほど見たでしょ」というマット・リーヴス監督の粋な計らいによって、面倒なヒーロー誕生篇は省略。

かといってヒーローとして完成されているわけでもなく、手探りの部分や気の迷いもあったりする若バットマンの物語ということで、2年目に設定されたらしい。

冒頭でバットマンの流儀が説明されるのだが、これがなかなか理にかなっているし、ハードボイルドでかっこいい。

犯罪者を憎み、その撲滅のためにバットマン=ブルース・ウェインは立ち上がったのだが、広大なゴッサムシティの治安を一人で守り切ることは物理的に不可能。

そこでバットマンは恐怖の象徴となり、多くの犯罪者が闇を恐れるようになれば、それが犯罪を抑止する力になるという作戦で動いているのである。

一人の人間としての限界。これが今回のテーマでもあるようで、バットマンが荒唐無稽な活躍をすることはない。

ペンギンの拠点に押しかける場面だって、いつもなら天窓を突き破って華々しく登場すべきところ、今回はちゃんとドアをノックして、用心棒に「俺、バットマン、知ってるよね?」って感じで一応話を通そうとする。

その他の場面だって、暗がりから歩いて登場などが多く、ヒーローらしいケレンは恐らく意図的に外してある。こういうアプローチも良いのではなかろうか。

そして今回のバットマンの装備には過剰なところがないのだが、これもまた現実的でよろしい。

ティム・バートン版、クリストファー・ノーラン版と、金に糸目をつけずに作ったようなゴージャスな武装やビークルが登場したが、あれだけのモノを作れる人間なんて限られているので、ほぼ「僕は大富豪ブルース・ウェインです」と名乗っているようなものである。

本作のように、ちょっと頑張れば誰でも作れそうな装備の方が、身分を隠して戦うバットマンには適切だと言える。

屋上からジャンプスーツで飛ぶ場面なんか、「初めて使う機能だけど、本当に大丈夫なのか?これ」という迷いがあったのが面白い。警官隊が迫ってきているので仕方なく飛ぶというヤケクソ感も良くて、どれだけ高い場所からでも平気な顔して飛び降りていたマイケル・キートンやクリスチャン・ベールにはない持ち味があった。

そしてブルース・ウェインを演じるロバート・パティンソンの、精神病一歩手前みたいな青白い顔もよかった。犯罪者をパラノイア的に憎んでいる感じがよく出ている。

複雑すぎる話はいかがなものか

なんだが、お話の方には全然乗れなかった。

ゴッサムの市長が殺されたことを皮切りに、警察本部長、地方検事が次々と殺され、現場に残されたリドラーのメッセージからバットマンが謎解きをするというのが前半の内容。

調べていくうちに、この3人はペンギン(コリン・ファレル)が仕切っているマフィアのナイトクラブの常連で、実は不正や談合が蔓延ってるんじゃないのという話になってくる。

…のだが、このナイトクラブの黒いつながり関係の話が全然面白くない上に長い。

後半になると前半の謎解きなんてほとんど忘れているのだが、忘れたところで大した問題がないほど最終的にはどうでもよくなる部分なので、なぜこのパートを異常に手厚く扱ったのかはよく分からん。

ここをコンパクトにまとめなかったのが、本作品中で最大の手落ちだと思う。

真実を知ることなんて不可能という結論

で、謎解きをしているうちに、ブルースの父 トーマス・ウェインも悪事に関わっていたという話になってくる。

20年前、地元の名士であるトーマス・ウェインは市長選に打って出ようとしていたが、出る杭とは打たれるもので、妻マーサの知られざる過去を記者に暴かれそうになっていた。で、マフィアを使ってその記者を消したという疑惑が持ち上がるのである。

当時を知るファルコーネ(ジョン・タトゥーロ)曰く、親父さんは記者を殺すよう指示を出したとのこと。

その一方で執事のアルフレッド(アンディ・サーキス)曰く、親父さんは手を打てとは言ったが殺せとは言っていない、記者の死を聞いて誰より取り乱したのがあの人だったとのこと。

証言者の見解が真っ二つに分かれるわけだが、二人ともが「自分にはそう見えただけで、本当のところがどうだったのかは知らん」と言う。

とどのつまり、真実の究明など不可能だということである。

物事とは玉虫色で、ある人にとっては善に見えていたことが、他の人にとっては悪に見えているということは往々にしてある。

どれだけ証言や証拠をかき集めたって、そこには証言者の主観や、評価者の予断や偏見が加わってくる。そう考えると、真実なんてものには辿り着きようがないのである。

この結論は面白かった。どれだけ調べたって究極のところは分からんままだよという。

ただし前半でさんざん謎解きをやってきて、その結論が「真実なんてわからん」は、さすがにズッコケたが。

情報に踊らされた男リドラー ※ネタバレあり

そして終盤になるとリドラーの正体が明かされるのだが、これもまた意義深くも、前半は一体何だったんだという徒労感を助長するものだった。

当初、リドラーはゴッサムの政界・法曹界の裏事情に詳しい者であるとの推測がなされる。で、バットマンとゴードン警部は、ゴッサムの裏事情を調査することでリドラーにもたどり着けるのではないかと考えて捜査をしたわけだが、そのあては全然外れていた。

リドラーの正体は孤児院育ちの会計士で、政界や法曹界とのご縁などない。

かつてウェイン財団が拠出していた孤児院の運営費がある時から打ち切られ、少年期に大変な苦労をしたことから、街の富裕層や権力者層をパラノイア的に憎むようになり、いろんな陰謀論を推定していただけの素人ということが判明する。

彼の調べ事の細かさや広範さには舌を巻くものの、そのいずれもが外部から眺めて推定し、「●●は△△だった!ガーン!」と勝手に結論付けたものばかりである。

リドラーもまた真実らしきものに振り回された人物だということが分かるのだが、昨今の社会が面倒くさいのが、こういう手合いがSNSで情報発信をして、同士を集めることができるという点である。

リドラーの動画はバズりこそしないものの、一部に熱心なファンを獲得することには成功しており、彼らは「ゴッサムの権力者は全員腐っている!断固改革!」というリドラー軍団を結成し、街全体へのテロを開始する。

この一連のくだりには、フェイクニュースの発生と拡散、それを正しいと信じた一部の人々の先鋭化、暴徒化という、現代社会の問題点が込められているようで面白かった。

『プリズナーズ』(2013年)『THE GUILTY/ギルティ』(2021年)と、気持ち悪い人を演じさせると右に出る者のいないポール・ダノのねちっこい演技も良かったし。

ただしこの部分が良ければ良いほど、前半部分の謎解きに意味がなかったという徒労感が増すのだが。

≪バットマン シリーズ≫
バットマン_狂人がヒーロー【7点/10点満点中】
バットマン リターンズ_暗い・悲しい・切ない【8点/10点満点中】
バットマン フォーエヴァー_良くも悪くも漫画【5点/10点満点中】
バットマン & ロビン Mr.フリーズの逆襲_子供騙しにもなっていない【2点/10点満点中】
バットマン ビギンズ_やたら説得力がある【7点/10点満点中】
ダークナイト_正義で悪は根絶できない【8点/10点満点中】
ダークナイト ライジング_ツッコミどころ満載【6点/10点満点中】
バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生_話が分かりづらい【5点/10点満点中】
バットマンvsスーパーマン アルティメット_断然面白くなった【7点/10点満点中】
ジャスティス・リーグ_ドラマの流れが悪い【6点/10点満点中】
ジャスティス・リーグ: ザック・スナイダーカット_頑張れ!ステッペンウルフ【8点/10点満点中】
ザ・バットマン_長くてしんどい【6点/10点満点中】

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