ホース・ソルジャー【4点/10点満点中_21世紀版『ランボー3』】(ネタバレあり感想)

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戦争
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4点/10点満点中

■久々のジェリー・ブラッカイマー作品

ジェリー・ブラッカイマーは80年代から2000年代という長期に渡ってハリウッドの頂点に君臨し、2007年の『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』では3億4,180万ドルもの製作費を調達しましたが、これは決して抜く作品は現れないと言われていた1963年の『クレオパトラ』(インフレ調整後の製作費が3億3950万ドル)をも上回る金額であり、同作は映画史上もっともゴージャスな作品となったのでした。かつてのジェリー・ブラッカイマーにはそれほどの力があったのですが、以降はなかなかヒット作を生み出せず、『ローン・レンジャー』で数億ドルもの損失を出してディズニーとの契約を切られて以降は『パイレーツ・オブ・カリビアン』の続編を除いて目立った作品を作っておらず、最近ではポンコツSF大作『ジオ・ストーム』の直し作業に雇われるほどの落ちぶれ具合でしたが、そんなブラッカイマーが久しぶりにプロデュースしたのが本作でした。

ブラッカイマーとしては2001年の『ブラックホーク・ダウン』以来の実録戦争映画であり、監督には報道カメラマンとしてコソボ紛争を取材した経験を持つニコライ・フルシー、脚本家には『羊たちの沈黙』でアカデミー脚色賞を受賞したベテラン、テッド・タリーと、『ザ・タウン』や『ブラッド・ファーザー』といった佳作を手掛け、世界中が「マジか!?」と思ったが本当に制作準備に入っているらしい『グラディエーター2』も執筆している伸び盛りのピーター・クレイグを組み合わせており、人選はかなり凝っています。これは本気で作られた映画なのだろうと期待させられたのですが、そんな期待とは裏腹に内容はガッカリでした。

■21世紀の『ランボー3』

本作の基本姿勢は冷戦時代の娯楽作とさほど変わらず、『ランボー3』のソ連軍をターリバーンに置き換えただけの内容になっています。『ランボー3』が現在の目では見るに堪えない、「この映画が作られた頃のアメリカはこんな価値観だったんだね」という見方をされるに過ぎない珍品映画に留まっているのと同様に、本作も長く愛される映画にはならないような気がします。

敵を倒しさえすれば平和が訪れるという考え方が現実の国際情勢からあまりに乖離しており、いくら「実話ベースの話です」と言われても、そこにリアリティを感じられません。長い対テロ戦争で国際社会が学んだこととは、武力を使えば憎悪を生み出し、憎悪は新たな敵を生み出して戦いの渦から逃れられなくなるという教訓なのですが、本作の図式はあまりに古臭くて、西部劇の時代よりアメリカ人が考える力の執行方法に一筋縄ではいかない国際情勢を無理やり当てはめて、「こうだったらいいのになぁ」という夢想に浸っているかのような印象を持ちました。

■センシティブな題材を勧善懲悪で切り取るという無神経さ

序盤にて女性教師を処刑する場面を見せることでターリバーン側のリーダーを極悪人として描く一方で、アメリカ軍とその協力者たちはナイスガイ揃い。軍閥と主人公にはたまに折り合えない場面が訪れるものの、それにしたって異文化交流ものとしての些細な衝突程度に留められており、最終的には軍閥側がアメリカの価値観を理解して合わせてくれます。こんな感じで徹底的にアメリカ側の価値観のみで描かれた内容なのですが、アフガニスタンの歴史をちょっとでも調べれば、こんな呑気な内容で許されていいのかという気分になります。

アフガン国内の反共勢力を育てるためにアメリカが秘密裏にムジャーヒディーンを軍事支援していたことが1979年からのソ連によるアフガン侵攻の一因だったし、そうしてアメリカに支援されたムジャーヒディーンたちは1989年のソ連撤退後に内輪もめから長期の内戦状態を引き起こしました。アメリカも軍閥も完全にシロではないのです。また、そのような混乱状態にあったアフガニスタンの現状を憂えてイスラム教に基づく治安と秩序の回復のためにイスラム神学校の学生たちが立ち上がったことがターリバーンの起源であり、あの地域にはシロとクロとを明確に区別できるような分かりやすい図式は本来存在していません。

ターリバーンにも彼らなりの大義や理念はあるし、アメリカや軍閥にも野心はある。国際問題とは本来そういうものなのですが、我らが正義であちらは悪という切り取り方はあまりに芯を捉えていないし、そういった複雑な価値観を扱って「あなたはどう考えますか?」と観客に問題提起してこそ映画は面白くなるものなのに、単純化がこの素材が本来持つ魅力を失わせているような気がしました。こんな内容ならばフィクションでやればいいのです。

■紋切り型の戦争映画

デスクワークを志願したり除隊申請をしていた主人公が国土への攻撃を見ていきり立ち、「私を隊に戻してください!」「いや、お前は現場を引いた身だろ」と上官と口喧嘩になるというくだりは『スターシップ・トゥルーパーズ』でポール・バーホーベンにパロディ化されたほどの戦争映画の定番場面ですが、まさかこの時代に、大真面目にこの場面を見せられるとは思いませんでした。

また、お父さんのいない日常を送っている家族の元に兵士が突然帰ってきて「あ、パパ!」というクライマックスって要ります?帰国する日くらい家族には事前に伝えているはずで、あんな場面なんて現実世界ではありえないでしょ。

こんな感じで、現実的にはありえないが戦争映画ではよくある描写の羅列は、見ているだけで恥ずかしくなりました。

■代り映えのしない戦闘場面

これだけ内容面が思わしくないとなれば残る頼みの綱は戦闘場面であり、これはブラッカイマーが得意とするジャンルだけに期待もあったのですが、この点でも不発でした。主人公達が直接的に戦闘をするわけではなく、発見したターリバーンの拠点を航空部隊に教えて空爆の手助けをするに留まっているので、まったく負ける気がしないのです。また、かつては史上最高額の製作費を引っ張って来られていたブラッカイマーの威光も今は昔、本作の制作費は3500万ドルと戦争映画としてはかなり控え目であり、曇り空の荒野で爆弾をボンボン落としつつ、命からがら逃げてきた敵と銃撃戦を繰り広げるという単調な見せ場がいくつか並んでいるだけなので、アクション映画としても面白くありませんでした。唯一、主人公達が騎馬で敵陣に切り込んでいくクライマックスの長い戦闘は楽しめたのですが、そこに辿り着くまでの2時間近くはアフガンの荒野の如く不毛でした。

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12 Strong
監督:ニコライ・フルシー
脚本:テッド・タリー、ピーター・クレイグ
原作:ダグ・スタントン(「ホース・ソルジャー 米特殊騎馬隊、アフガンの死闘」より)
製作:ジェリー・ブラッカイマー、モリー・スミス、サッド・ラッキンビル、トレント・ラッキンビル
製作総指揮:アンドリュー・A・コソーヴ、ブロデリック・ジョンソン、チャド・オマン、マイク・ステンソン、エレン・H・シュワルツ、ギャレット・グラント、イェール・バディック、ヴァル・ヒル、ダグ・スタントン
出演者:クリス・ヘムズワース、マイケル・シャノン、マイケル・ペーニャ、ナヴィド・ネガーバン、トレヴァンテ・ローズ、ジェフ・スタルツ、サッド・ラッキンビル
音楽:ローン・バルフ
撮影:ラスムス・ヴィデベック
編集:リサ・ラセック
製作会社:アルコン・エンターテインメント、ブラック・ラベル・メディア、ジェリー・ブラッカイマー・フィルムズ
配給:ワーナー・ブラザース(米)、ライオンズゲート(世界)、ギャガ(日本)
公開:2018年1月19日(米)、2018年5月4日(日)
上映時間:129分
製作国:アメリカ合衆国

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