(2022年 スウェーデン)
お目にかかる機会の少ないスウェーデン製の戦争映画だが、画作りは意外なほどにしっかりとしていて、2時間はきっちりと楽しめた。主人公のドラマがうまく流れていないことは気になったが、主演のノオミ・ラパスの実力によりうまく誤魔化しが効いていた。完ぺきではないが悪くもない作品。
感想
世評は悪いが個人的には好き
ハリウッドで活躍する女優ノオミ・ラパスが、母国スウェーデンで主演した作品。
監督のアダム・バーグはMTVや短編を主に撮ってきた人らしいが、そんな経歴もあってか、本作には一瞬で目を引く印象的な画が多く、私は2時間近い上映時間を楽しめた。
6人の兵士が凍り付いた海をスケートで移動したり、雪原で銃撃戦を行ったりと、いかにもスウェーデンな見せ場が連続するのだが、大自然の美しさと厳しさを目で見せることに成功しているし、戦闘場面もかっこいい。
そして戦争映画だけあって人的損傷も描かれるのだが、凍死した者の死体や銃弾により吹き飛ばされた顔面など、こちらもまた容赦のない描写となっており、その極限のリアリティも映画の質向上に貢献していた。
加えて、輸送を命じられた荷物とは一体何なのかというミステリー、仲間内に敵のスパイがいるのではないかというサスペンス、味方を失いながらも前進しなければならない意義とは何なのかというドラマなどストーリーには起伏が設けられており、いずれも定番と言えば定番ではあるのだが、これはこれで見どころとなっている。
また、自分達が所属している軍隊が実は悪の側ではないかという疑念も途中から発生し、これが良い捻りとなっている。
1960年代から70年代にかけて頻繁に製作されていたコマンドもの戦争映画を換骨奪胎して北欧風の戦争アクションにアップデートしたという風情であり、当該作品群が好きな方にとっては、感じるところがあるのではないだろうか。
そんなわけで個人的には気に入った作品なのだが、鑑賞後にIMDBを見るとレーティングが5.7というかなり悪い評価で、ちょっとショックを受けた。
なんだが、よくよく考えてみればおかしな展開も多かったので、合わない人の方が多いということにも、何となく合点がいく。
そんなわけなので、以下には見終わった後に思いついた点をいくつか書いていくことにする。
主人公のドラマが訳わからん
ノオミ・ラパス扮する主人公エドは、冒頭の時点では娘と二人で戦争から逃げ出す普通のお母さんっぽい人物だった。
次の場面ではある程度の時間が経過しており、エドも軍人になっているのだが、彼女は襲い来る複数人の暴漢をたった一人で撃退するほどの凄腕に。つい数分前の場面との整合性が取れていない。
その後の展開で、平凡な女性だったエドが殺人マシーンに成長したという『ボーダーライン』のベニチオ・デル・トロ風のエピソードが明かされるとばかり思っていたのだが、最後の最後までここ数年間の彼女にどんな変化が起こったのかは分からずじまいなのは肩透かしだった。
運んでいる荷物がヤバイものだと分かり、他のメンバーが「こんなものは捨てて帰ろう」と言い出す中で、エドだけが指令通りに目的地を目指し続けるというドラマも本来持つべき意味を持っていないように感じる。
推測するに、荷物を運びきればエドは生き別れになった娘に再会できるのだが、その代わりに数百万人が死ぬかもしれないよという究極の選択がここで描かれていたものと思われるのだが、彼女に係るドラマがうまく流れていないために、この哲学的な問いかけにさほどの意味付けがなされていないのである。
この通りドラマを整理してみると案外ぐずぐずなのだが、ノオミ・ラパスという主演女優の存在感と演技力によって、個人的にはうまく誤魔化しがきいていると感じたので、そこまで致命的な欠点だとも思わなかった。
自軍が悪の軍団だったら
他方で本作のドラマで興味を引かれたのは、前述した通り、自軍が悪の側ではないかとの疑念を持つくだりである。
本作では一体誰と誰が戦争をしているのか、何を巡っての争いなのかというマクロな状況は一切描かれない。ネット上の感想を読むとその点に不満を持っておられる方も多いようなのだが、個人的には一兵卒の視点に絞り込んだこのアプローチこそが、本作の味なのだろうと思っている。
恐らく主人公は、住んでいる地域や所属しているコミュニティの関係から自然な流れで今の軍に所属しているだけであって、主義主張に共感できた等の理由で能動的にこちらの軍を選んだというわけでもないだろう。
そしてリアルで従軍する人たちも、多くはそんな感じで軍隊に所属しているはずである。
そんな兵士達が、実は自分が所属しているのはナチスやターリバーンだと気付いた時にどうするのかというのが本作の骨子であり、そこには現実の一側面をえぐるような鋭さがあった。
われわれ視聴者も、最初は主人公達を応援し、彼らに襲い掛かってくる白い軍服の敵軍に対する憎悪を持つのであるが、実は悪いのはこちら側で、これまで敵だと思っていた白軍服こそ悪を征伐する正義ではないかと気づく。
こうした善悪の転換こそが本作の味なのだろうし、これを感じ取れた視聴者は本作に魅力を感じ、感じ取れなかった視聴者はつまらないと感じるのだろう。
コメント