ボーダーライン_一流メンバーが作った『デルタフォース2』【8点/10点満点中】(ネタバレなし・感想・解説)

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エージェント・殺し屋
エージェント・殺し屋

(2015年 アメリカ)
本作を見終わって感じたのは、高級フレンチのシェフが作ったハンバーガー、料亭の板前が作ったカツ丼みたいだということです。B級グルメでも一流の手を介することで、ここまで味わい深くなるものかという感動がありました。基本的な話はチャック・ノリスの『デルタフォース2』(1990年)と同じですからね。

感想

一流メンバーが手掛けるB級アクション

本作の物語は単純で、メキシコの麻薬カルテルに手を焼くアメリカ政府が大っぴらにできぬ特命部隊を編成し、カルテルトップの首を取るための頂上作戦を行うというもの。

この概要だけを聞くとスタローンやヴァンダムが出ているようなB級アクションを連想させられるし、実際、中南米の麻薬カルテルを相手に国境無視でデルタフォースを動かすという話は、チャック・ノリス主演の『デルタフォース2』(1990年)とほぼ同じです。

80年代、90年代にメナハム・ゴーランやマリオ・カサールがせっせと作っていたような映画を、アカデミー賞でも狙いにいける一流メンバーでリメイクするというのが、この企画の風情なのでしょう。

脚本を書いたのは『ウィンド・リバー』(2017年)『ウィズアウト・リモース』(2021年)など社会派的な題材に適度な娯楽性を付加することに長けたテイラー・シェリダンだし、監督は『メッセージ』(2016年)『DUNE/デューン 砂の惑星』(2021年)など知的な作品を得意とするドゥニ・ヴィルヌーヴだし、撮影は『007 スカイフォール』(2012年)のロジャー・ディーキンスですからね。

このメンバーの手にかかった本作の完成度は凄いの一言。

冒頭の隠れ家への突入場面からアクションには見応えがあり、全体の雰囲気作りもよく出来ています。終始漂うきな臭さや、油断すれば命を落としかねない極限の緊張感など、最後の最後まで観客に息をつかせません。

そんな中でも白眉だったのは中盤の護送場面。

アメリカの部隊がメキシコ国境の街フアレスに入り、カルテル幹部の身柄を譲り受けて再度国境を目指すのですが、黒塗りの車列を俯瞰で捉えた空撮の美しさ、市境には警告目的で死体が吊るされているフアレスという街のいかがわしさ、国境付近でメキシコ側の護衛車両が離れていく辺りから高まる緊張感など、すべての構成要素がよく出来ていました。

そして、明らかにこちらを襲撃する目的の車両を数台発見した直後の、アメリカ部隊の異常にこなれた動きも最高でしたね。

マシンガンを握りしめた危ない奴が何人もいるのに全く動じず、相手に一発たりとも発砲する隙を与えることなく排除するという手際の良さ。いくつもの修羅場をくぐり抜けてきた猛者揃いであることがよく分かります。

特に輝いていたのがスティーヴ(ジェフリー・ドノヴァン)という男で、眼鏡着用のさほど強そうではないルックスだし、道中ではおしゃべりが止まらないので作戦とか後方支援を担当する人間だとばかり思っていたら、いざ敵を確認すると良い動きを見せて、ゴリゴリの武闘派であることが判明します。

これぞギャップ萌えというやつですね。

CIAが出るとアクション映画は盛り上がりますな

そんな部隊を率いているのはジョシュ・ブローリン扮するマットという男。

全員がスーツを着ているFBIの会議にただ一人ビーチサンダル姿でふらっと現れて、FBIでも上の方の人間達に対してあーだこーだと一方的に話している時点で、こいつはタダモノではないということが分かります。

国防総省の顧問という微妙な肩書を名乗ってはいるが、彼のために豪華なプライベートジェットが準備されているし、作戦に連邦保安官を動員したり、米軍基地のデルタフォースを動かす権限を持っていたりするので、顧問なんていうレベルではないことは一目瞭然。

本人は一度も認めないものの、CIAエージェントであることはほぼほぼ確実であり、その立ち位置は『エクスペンダブルズ』(2010年)でのブルース・ウィリスに相当するものだと思われます。

そんなマットにとってのエクスペンダブル(消耗品)は、ベニチオ・デル・トロ扮するアレハンドロという男。

どうもアメリカ人ではなさそうだし、どういう立場の人間なのかも説明されないのですが、常にマットと行動を共にし、作戦では抜群の洞察力と戦闘能力を発揮して中心的な役割を果たしていることから、何か重要な目的のために配置された人員であるということが伺えます。

絶大な権限を持たされたCIAエージェントと、素性のよく分からない殺人マシーン。このコンビには燃えましたね。

CIAが出るとアクション映画は本当に盛り上がります。

主人公が最後まで役立たず

そんな特命部隊に入れられるのが、エミリー・ブラント扮するFBI捜査官ケイト。彼女が本作の視点人物であり、形式面での主人公となります(実質的な主人公はマットかアレハンドロでしょう)。

一般的なアクション映画におけるFBIと言えば、市警が捜査している現場に現れて「ここからは俺達が仕切る」と言うような超絶エリート集団のイメージであり、そんなFBIの中でもケイトは相当優秀な部類に入ります。

しかし、そんな現役バリバリのケイトをもってしてもマットの部隊ではできない奴扱いで、「君は俺らのやり方を見て勉強しろ」と言われる始末。

ちょっと前まで最強だったベジータが、ナメック星でギニュー特戦隊に軽くあしらわれるような感じでしょうか。違いますか?

終始「来てもいいけど列の後ろに付き、邪魔はするな」とか「あ、いたの?」みたいな扱いで、戦力として全く期待されていないことが悲しくなってきます。

そうはいっても、最後にはケイトがマットやアレハンドロを助けるというこの手の映画にありがちな展開があるのだろうと思っていたら、そういうものもなし。

最後の最後までケイトは使えない奴であり、それほどメキシコとの麻薬戦争はアメリカ国内の犯罪捜査とはレベルが違うということの象徴となっているわけです。

最終的には「君にこの仕事は向いてないわ。どこか田舎にでも行ったら?」とまで言われてプライドをズタズタにされたケイトは、「この作戦の違法性を訴えてやる」と最後の一手に打って出ようとします。

ちょっと余談ですが、CIAはその活動の特性上、一般的な情報開示ができないことから、上院情報特別委員会からのモニタリングを受けています。アクション映画でよく「委員会に訴えてやる」と言うセリフがありますが、それはこの委員会を指しているわけです。

で、本作でもケイトは上院情報特別委員会への訴えを主張していると思われるのですが、それもまたアレハンドロの迫力に押し切られる形で引っ込めざるを得なくなります。

ただし、本件は政府の指示で行われた作戦であり、現場が暴走したということでもなさそうなので、仮に訴えたところでまともに取り合われないだろうと思いますが。

ケイト自身も重々承知の上で、それでも何か言ってやらないと腹の虫がおさまらないという心境でこれを主張したとも思えますが、いずれにせよ悲しいまでに非力な主人公です。

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