消えない罪_重厚で痛ましく、たまに雑なドラマ【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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社会派
社会派

(2021年 アメリカ)
犯罪を犯した人間の生きづらさを描いた作品であり、サンドラ・ブロックの熱演もあって、重苦しくも見ごたえのあるドラマに仕上がっています。多面的な視点を織り込んだ構成は実によく出来ているのですが、たまに不可解な点もあるので、完璧な作品とも言い難いものがありました。

感想

前科者を許せない社会

主人公ルース(サンドラ・ブロック)が出所する場面から物語はスタートします。

彼女は若い頃に保安官を殺害して20年の刑を喰らっていました。

長い長いお勤めを終え、これから社会生活を再開しようとしているわけですが、この世知辛い世の中でそう簡単にはいかないというのが作品の骨子。

後に彼女の代理人を務めることとなる弁護士のジョン(ヴィンセント・ドノフリオ)と、その妻リズ(ヴィオラ・デイヴィス)の会話が象徴的なのですが、「刑期を終えたルースは我々と同じ権利を持っており、それは守られなければならない」と主張するジョンに対し、リズは「そうは言っても犯した罪が罪なので、私たちと同じなんて言えないでしょ」みたいな反論をします。

リズの態度が示す通り、犯罪者は社会との信頼関係を完全に失っており、刑期を終えたからと言って元に戻れるわけではありません。要注意人物という目を向けられながら社会生活を再開しなければならないことが、元受刑者の大問題であるわけです。

で、ルースはあらゆる苦難を受けます。

就職する予定だった職場は初日に就業を拒否。その後はどこへ行っても犯罪者扱いを受けて、誰も彼もが彼女の権利を当たり前のように踏みにじっていきます。

ルースは生き別れになった妹を探しています。刑期を終えて一市民に戻った以上、肉親に会うことは彼女の当然の権利なのですが、これもまた蔑ろにされます。

ようやく妹の養父母と話す機会を得ても「あなたの存在は有害である」の一点張りで、交渉にすらなりません。

こちらは現状を変えるつもりはないという前提を置いているにも関わらずです。

ここまで聞く耳を持たない社会に対しては怒りを覚えるのですが、もしもリアルに元犯罪者と対峙することとなれば、自分自身も同じ態度をとることになるのだろうという点に怖さを感じます。

人間って、いろいろと予断を持って対応する生き物ですからね。

ビジランテは危険な活動

で、ルースへの悪意を向ける筆頭が被害者遺族です。

殺害された保安官には2人の息子がいて、現在はすでに成人で、弟の方は所帯持ちなのですが、この二人はルースへの恨みを抱いています。

それは父の死そのものへの怒りも然ることながら、母はショックで酒浸りとなって現在は寝たきり状態。そして兄弟自身も恵まれた社会的地位にいるわけではないということも、怒りの源泉になっていると思われます。

保安官と言えば一般の警察官とは別格の社会的地位の高い職業であり、もしも父が生きていればちゃんとした教育を受けられて、良い仕事に就けたかもしれない。

しかし憎きルースは父の命と共に自分たちの人生の可能性も奪っていったとして、激しい怒りを抱いているわけです。

で、兄弟はルースを尾行してその挙動を探るのですが、苦しくても頑張って生きているルースの姿も、彼らにとっては「親父を殺しておきながら、のうのうと生活しやがって」と映るわけです。

そうしてどんどん怒りが増幅していくという悪循環。

ルース視点の物語では、この兄弟は要らんことをするヒール的ポジションにいるわけですが、一般の映画において復讐者はヒーロー扱いを受けるのが定番です。

普段、私たちが拍手喝采しているビジランテ行為も、視点を変えると恐ろしい危険性を秘めているという点への気づきも、本作の意義でした。

サンドラ・ブロックが良い!良すぎる!

この通り、とにかく見ているのがつらいほどの作品なのですが、その中心を担うサンドラ・ブロックの演技が光っています。

サンドラと言えば『スピード』(1994年)に代表される明るく気さくなイメージが強い人なのですが、本作では重い過去を背負った口数の少ない女性像を見事体現しています。

また、作品の転換点でついに感情を爆発させる演技にも実に説得力があり、彼女のパフォーマンスは大きな見どころとなっています。

なお、企画開始時点での主演候補はアンジェリーナ・ジョリーだったのですが、断られてサンドラ・ブロックに辿り着いたという経緯があります。

アンジーが断った後にサンドラというパターンは『ゼロ・グラビティ』(2013年)と同様なのですが、二人は類似俳優なのでしょうか?外見もイメージも全然違うような気がするのですが。

いろいろとおかしな点あり ※ネタバレあり

以上、基本的には素晴らしい作品なのですが、ところどころおかしな部分があることがマイナス要素となっています。

IMDBやRotten Tomatoesを見る限り、本作の評価は芳しくないのですが、それは不備部分が影響していると思われます。

まずよくわからないのがキャラクターの年齢設定で、演じるサンドラ・ブロックが57歳なのでルースは結構なお歳のイメージで見ていたのですが、だとするとまだ学生さんの妹キャサリンと年齢が合わないしなぁと釈然としないものがありました。

後半にて「人生の半分を刑務所で過ごした」というセリフがあるので、おそらく彼女は40歳頃、回想パートでは20歳頃という設定だったと推測できるのですが、それだとサンドラ・ブロックの年齢では厳しいものがありましたね。

分からないと言えば妹キャサリンもで、保安官殺害事件が起こったのが5歳の頃で、その後ルースが20年服役したということなので現在は25歳頃と思われるのですが、いまだに養父母と同居中の学生であることから、計算が合わなくなってきます。

また、保安官を銃撃したのは5歳のキャサリンであり、ルースは妹の罪をかぶっただけというドンデンがあるのですが、あの理屈は完全に破綻しています。

舞台となるワシントン州で刑事訴追を受けるのは9歳以上であり、5歳の子が人を殺しても罰することができません。あの場面ではキャサリンが殺したという事実を主張すれば姉妹は安泰だったのに、嘘をついてまで不幸になる道を選択してしまったのです。

その他、保安官の息子二人の動きもよく分からなかったです。

兄が弟の嫁と不倫していたという急展開があり、それに怒った弟がなぜかキャサリンを誘拐しに行くのですが、不倫問題にルースとキャサリン姉妹は関係ないわけで、なぜそこに矛先が向いたのかがよく分かりません。

「妹を預かったぞ」との脅迫電話を受けたルースもルースで、警察に通報すればいいものを、犯人の言うとおりに一人で現場に向かうのだから、阿呆さ全開です。

ドラマ部分はかなりレベル高いのに、なぜこうも雑な部分があるのだろうかと不思議になる完成度の作品でした。

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