グッド・タイム_犯罪者はアホという真理【5点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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クライムサスペンス
クライムサスペンス

(2017年 アメリカ)
泥縄の犯罪計画でどんどん追い込まれていく犯罪者の一晩の物語。展開にはスピード感があり、演技の質も高いものの、クライムサスペンスなのか社会派ドラマなのかブラックコメディなのかを決めかねた演出のため全体が掴みづらい作品となっており、打ち出したテーマの良さとは裏腹に鑑賞後の満足度はさほど高くはありません。

あらすじ

NYの貧困層の若者コニー(ロバート・パティンソン)は、知的障害を持つ弟ニック(ベン・サフディ)を連れて銀行強盗をする。しかし強盗は失敗してニックが逮捕され、一人逃げ延びたコニーはニックの保釈金を掻き集めようとする。

スタッフ・キャスト

監督・脚本は『アンカット・ダイヤモンド』のサフディ兄弟

兄ベニーと弟ジョシュのサフディ兄弟が本作の監督・脚本を務めています。

『神様なんかくそくらえ』(2014年)で東京国際映画祭グランプリと最優秀監督賞を受賞。本作でカンヌ国際映画祭のコンペティションに初参加してパルムドールにノミネートされました。最新作はアダム・サンドラー主演の『アンカット・ダイヤモンド』であり、『神様なんか~』からの3作品連続での高評価を獲得しています。

弟のジョシュは知的障害を持つニック役で本作に出演もしているのですが、実に自然な演技で俳優としても優れています。

主演は『トワイライト』シリーズのロバート・パティンソン

クリストファー・ノーラン監督の『テネット』(2020年)、マット・リーヴス監督の『ザ・バットマン』(2021年)の主演であり、もう大スターの仲間入りをするしかないロバート・パティンソンが、製作費450万ドルの低予算映画である本作で主演を務めています。なお、マット・リーヴスは本作での演技を見て次期バットマンにロバート・パティンソンを選んだとのことです。

2020年2月5日付で、ロバート・パティンソンは黄金比にもっとも近い顔立ちという報道がありましたね。本作ではどうしようもない犯罪者をやってますが、それでも顔は綺麗です。

ロバート・パティンソン、科学が証明する「世界で最も美しい男性の顔」に

作品概要

リアリティへのこだわり

本作の撮影はスタジオではなくロケで行われました。NY市にロケの許可をとってはいたのですが、監督はゲリラ撮影で撮られたかのようなルックスを目指しており、一般人の通行を封鎖せずに撮影しました。また病院や地下鉄も実際に稼働中の場所を使っており、患者や乗客はその場に居た人達です。

ショッピングモールでの追跡シーンに至っては本物の警察官を雇って追跡させており、周囲に映っているのはその場に居た一般客。監督は、本物さながらの追跡劇が目の前で発生した時の人々の生の反応を期待したとのことでした。

コニーの人物像はチャールズ・マンソンなどがベース

主人公コニーは心から正しいと信じて間違ったことをしており、これを演じるパティンソンはカルトを始める人々と同じタイプの人間と考えて役作りをしたと言います。また監督のジョシュ・サフディによると、コニーの人物造形の一部に実在した犯罪者チャールズ・マンソンを反映させたとのことです。

チャールズ・マンソン(1971年撮影)
コニー(ロバート・パティンソン)
風貌をマンソンに似せていますね

感想

犯罪者はアホという真理

ニューヨークの最下層で生きるコニーと弟ニック。2人は銀行強盗を行うが、弟だけが捕まり投獄されてしまう。コニーは言葉巧みに周りを巻き込み、夜のうちに金を払って弟を保釈するよう奔走する。

http://www.finefilms.co.jp/goodtime/

上記は劇場公開時の宣伝資料に記載のあらすじであり、この説明からは『プリズン・ブレイク』(2005年)のようなハイレベルの駆け引きや、『スリーデイズ』(2010年)のようなドキドキのサスペンスを期待させられるのですが、実際の映画はかなり趣が異なりました。

冒頭、知的障害者のニック(ジョシュ・サフディ)は精神科でカウンセリングを受けており、医師は丁寧にニックから家庭環境の問題を聞き出そうとしています。そこに兄コニー(ロバート・パティンソン)が乱入し、「こんなところに大事な弟を置いていられるか!」と言ってニックを無理やり連れ帰ります。

ここに映るコニーは宣伝から連想されるような頭のキレる犯罪者ではなく、街のチンピラです。医師によるカウンセリングにおかしな部分はなく正常な対処だったと言えるのに、コニーはカウンセリングの何たるかも知らない状態で「弟を精神科に置いておくのは可哀そうだ」という思い込みのみで行動しています。

そして、次の場面ではニックを連れて銀行強盗に行きます。鑑賞前の勝手な推測では、「付いてくるな」と言っていたにも関わらずいくつかの手違いが重なって知的障害者の弟が強盗現場に来てしまい、運悪く逮捕されてしまうという話を連想していたのですが、まさかコニーは知的障害者の弟を強盗計画に引き入れていたとは。完全にアホです。

銀行強盗の過程においても、カウンターから完全に死角になる奥の部屋にまで銀行員に現金を取りに行かせ、バッグと現金に細工される隙を自ら作っています。で、実際に染料パックを仕込まれて逮捕に繋がるのだから、アホとしか言いようがありません。

さらに、逮捕されたニックの保釈金を支払う際には染料で汚れた札束を持ち込み、せっかく弟が共犯者について黙秘を貫いてくれていたにも関わらず、コニー自ら強盗の証拠を第三者に見せて指名手配犯となります。

NY版『ファーゴ』

本作を見て思い出したのは、コーエン兄弟の傑作サスペンス『ファーゴ』(1996年)でした。同作はアカデミー脚本賞を受賞し、後にテレビシリーズが製作されたほどの人気作ですが、基本的なテーマは「犯罪者はアホ」ということでした。

それはそうです。合理的な判断のできる人間なら捕まった時のリスクの高い犯罪なんてやるはずがなく、「これをやるとどうなるのか」という想像力が働かない人間だけが犯罪者になるのです。マイケル・マンの映画で描かれるような犯罪のプロフェッショナルなどは幻想にすぎません。

本作のコニーも同じくで、場当たり的な行動で事態をどんどんこじらせていき、自ら墓穴を掘っていきます。

囚人からの暴行を受けてニックが病院に収容されているという情報を知ると、コニーはすぐに病院に行き、鎮静剤で眠らされているニックらしき男を車椅子に乗せて持ち出します。しかし、ちゃんと確認していなかったので後に別人だったことが判明。

その男はレイという名前で、最近仮釈放されたのだがLSD取引をしているところを警察に見つかり、逃げる最中に大怪我を負って病院に収容されたとのことでした。警察から逃げる過程で遊園地に大金を隠したらしく、さっそく二人でその大金を回収しに行くことにします。しかし無計画に侵入したものだから警備員からの反撃に遭うわ、警察がやってくるわ、肝心の現金は見つからないわで大失敗に。

二人は何とか逃げ切り、現金の代わりに回収したLSDを換金しようとします。まだ粘るのかという感じですが、そこに警官隊が現れて今度こそ御用となります。

何でしょうか、この無駄さ加減は。どんどん墓穴を掘っていく様は。犯罪って労多くして益少なしなんだなということがよく分かります。

逆『アイ・アム・サム』

最終的にコニーは逮捕され、ニックは釈放されます。釈放されたニックは精神科に戻され、科内の教室に入れられます。最初は戸惑うニックでしたが、教師からの質問にアクションでYesかNoかを答えるというセラピーによって、兄に問題があったということを初めて表明します。

コニーの兄弟愛自体は純粋なものだったが、無知ゆえに当のニックのためにならない愛し方をしていました。そして、迷惑な兄の愛情から解放され、公的セーフティネットに引っかかったことで、ニックはようやく必要な対応を受けられるようになったのです。

これを見て思い出したのはショーン・ペン主演の『アイ・アム・サム』(2001年)でした。『アイ・アム・サム』は公的セーフティネットを否定して家庭こそが最善の場所であるとの結論を出しましたが、本作はその逆。家庭がその構成員に対して悪影響をもたらすケースもあり、その場合には公的セーフティネットの方が有効であるとしています。

両作を見比べて、どちらの主張が正しいのかを考えてみても有意義ではないでしょうか。

鑑賞し方の難しい映画

以上の通りテーマやメッセージはしっかりとした映画で見たことに意義はあったのですが、クライムサスペンスにしては緊張感が足らず、社会派ドラマにしては切実感がなく、ブラックコメディにしては湿っぽさが多く、どの視点で楽しめばいいのかを掴みきれないまま90分強の上映時間が過ぎていきました。

意義深くはあったが面白くはなかったというのが正直なところです。この映画の軸は一体どこにあるのかをもっと鮮明にしていればよかったと思います。

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