ヴィレッジ(2023年)_田舎である必然性がない【4点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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クライムサスペンス
クライムサスペンス

(2023年 日本)
日本の村社会の閉鎖性を軸にしたサスペンスかと思いきや、かつてやむにやまれず行ったことが、社会的成功後に返ってくるという、よくある寓話だった。ヴィレッジというタイトルの割に村そのものの存在感は薄く、都会でも成立するような話なので拍子抜けした。

感想

個人的にイマイチなスターサンズ製作作品

本作は日本の映画製作会社スターサンズ製作であり、2022年6月に逝去したプロデューサー川村光庸の最後の作品でもある。

スターサンズは社会性と娯楽性を併せ持つ作品群で近年の日本映画界でも注目度の高い会社であり、代表作は日本アカデミー作品賞を受賞した『新聞記者』(2019年)

そして本作の監督は『新聞記者』(2019年)の藤井道人で、日本映画界のゴールデンコンビの放つ作品である。

…というのが本作の世間的な売り文句ではあるが、個人的にはスターサンズの作品は苦手。本ブログでも過去作品を何作か取り上げているが、おしなべて低い評価を付けている。

新聞記者(2019年)_製作姿勢が内輪に向きすぎ【3点/10点満点中】
ヤクザと家族_面白いけどツッコミどころ満載【6点/10点満点中】
MOTHER マザー(2020年)_全員の行動が不合理で面白くない【4点/10点満点中】
あゝ、荒野_話があまりにも大雑把【5点/10点満点中】

スターサンズ作品の特徴とは作り手側のリベラルな姿勢がはっきりと表れていることで、それがある客層には強烈に受けているのだろう。

ただし思想的に共鳴しない者の目で見ると、作劇はかなり雑。

「こういう構図を作りたい」という作り手側の思いがまずあって、そこに向けて物語を力技で組み立てていくので、社会派を標榜する割にリアリティを感じられない展開を辿ることが多い。

『新聞記者』のオチなんて「安倍首相は加計学園でナチスの生物兵器を作っていた!」だったので、椅子からひっくりこけそうになった。

あと『ヤクザと家族』が象徴的なんだけど、彼らのメディア観はとてつもなく古臭い。SNSの害悪を描きたいのは分かるが、有名人ならともかく一地方公務員の噂話がSNSを駆け巡って職場を追われるに至るなんて、普通考えられない。

これも「SNSは怖いんだぞ~」というある年齢層の観客たちが見たいものを、そっくりそのまま映し出しただけだろう。

そんなわけでナンチャッテ社会派作品の多いスターサンズ製作なので本作にも興味はなかったのだが、2023年4月公開から2カ月もあけずにネットフリックスに上がっていたので、とりあえず見てみることにした。

で、感想だけど、いつも通りのスターサンズ作品だった。早々にネットフリックスに二次使用を認めたことからも分かる通り、この路線は観客からも飽きられているのだろう。

主人公は横浜流星扮する田舎の青年 片山優。優の少年時代に父親が村で罪を犯したらしく、父の死後にも「犯罪者の息子」として肩身の狭い思いをしている。

優が暮らす村では巨大なごみ処理施設が金と雇用を生み出しており、多くの若者はこの施設に就職しているようだ。そんな中で優は村長の息子(一ノ瀬ワタル)からの壮絶なイジメを受けている。

この辺りの閉鎖性が『ヴィレッジ』というタイトルに繋がっているのだろうが、優がなぜそこまでして村での生活に拘っているのかはよく分からない。

この土地に資産を持っているでもなく、家族と言えば借金まみれの母親(西田尚美)のみ。持たざる=身軽ということなのだから、不当な扱いを我慢してまでこの土地に居続ける理由がないのだ。

ともかく辛い日々を送る優だったが、ある時、幼馴染の美咲(黒木華)が東京から村に出戻ってきて、ごみ処理場の広報の職に就く。

美咲は村のアイドルらしく、出戻ってきた彼女に一同色めき立つのだが、黒木華が美人には見えていない私にとっては、この辺りの温度感も掴みづらかった。『フラッド』(1998年)でミニー・ドライヴァーが当然の如く美人扱いで、最初は何の話をしてるんだかよく分からなかったようなものか。

黒木華は『機動戦士ガンダム』のミライ・ヤシマに似た味のある顔で、それはそれで魅力的だとは思うんだけど、かといって誰の目にも美人として映るタイプでもないので、憧れのお姉さん扱いはちょっと違うんじゃないのと思ったりで。

ともかくUターンしてきた美咲は幼馴染の優のことを気にかけていて、ごみ処理場のPR担当を優にさせようと言い出す。

村のアイドルとしての発言力もあって美咲のゴリ押しは通り、優は責任ある立場を任されるのだが、これが思いのほかうまくいって、1年後、村は県を代表する観光地の座にまで上り詰める。そして村の功労者として持て囃される優。

ただしここが本作最大の無理ポイントで、観光資源と言えるものがまるで見当たらないこの村の何が良くて観光客が殺到しているのか、私には皆目見当もつかなかった。

これこそがスターサンズの悪い癖で、筋書きありきで強引にある状況を作り出すので、リアリティが大幅に毀損されている。

そもそも低かった作品に対する私の関心は、ここで一気に地の底にまで落ちたが、この時点でまだ1時間程度。あと1時間も続くと思うと気が滅入ってきた。

田舎である必然性がない ※ネタバレあり

ともかく村の顔役として明るい人生を取り戻した優だったが、以前のどん詰まり過疎村時代に村ぐるみで手を染めていた危険物の違法投棄がタレコミによって明るみに出て、その火消し対応に追われることになる。

さらには1年前に優と美咲でぶっ殺して埋めた村長の息子の死体も掘り起こされて、万事休す。

1年前に埋めた死体が白骨化せずに残っているのはどういう理屈なのだろうかと思ったが、スターサンズ製作なのだからあまり深く考えてもいけないのだろう。

未来のないどん詰まり時代にやらかしたことが、輝きを取り戻した後に露呈する。

そして、守るものができた優は隠蔽側に回り、その過程ではかなり悪質なこともする。

隠す者の心理に迫ろうとしたことが本作の趣旨なのだろうが、この段になるともはや過疎の村である必然性がなくなってくる。都会の大企業を舞台にしたって、ほぼ同じ話が作れるのだ。

これでは『ヴィレッジ』というタイトルに意味がなくなってしまう。

『ガンニバル』(2023年)のようなおどろおどろしい田舎像をもう一度見たかった私にとっては、期待外れに感じられた。

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