ヘルボーイ(2019年)_ゴア描写の宝石箱や~【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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(2019年 アメリカ)
ファンタジー寄りだったデル・トロ版からは一転し、『ディセント』(2006年)のニール・マーシャル監督は本作を文字通り地獄絵図のようにしており、絶え間なく繰り出されるゴア描写には度肝を抜かれました。映画としても面白く仕上がっており、全米での酷評が何かの間違いではないかと思うほど楽しめました。

作品解説

ダークホースコミック初のリブート作品

『ヘルボーイ』はマイク・ミニョーラ作のアメコミシリーズであり、1994年にダークホースコミックから出版されました。

その実写版は後のオスカー監督ギレルモ・デル・トロ×主演ロン・パールマンで2004年に製作されました。

この第一作が興行的にも批評的にもまずまずの成果を収めたことから、2008年には同じメンバーで続編『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』を製作。更なる続編を匂わせる終わり方をしたのですが、興行成績が伸び悩んだことから製作は塩漬け状態となりました。

その後、2014年にマイク・ミニョーラが『ヘルボーイ3』の脚本執筆を開始。主演のロン・パールマンだけを残し、ギレルモ・デル・トロには監督を降板させてプロデューサーのクレジットのみを与えるというビジョンでした。

しかしデル・トロは自分自身で監督・脚本できないのであればということで同プロジェクトへの関与を断り、そしてデル・トロが関与しないのではということでパールマンも降板しました。

こうして企画は続編からリブートへと転じ、ダークホース社にとって初めてのリブート作品となりました。

ホワイトウォッシング問題

本作のキャスティングを巡ってはひと悶着がありました。

2017年8月、主要キャストの一人に『ゲーム・オブ・スローンズ』でダーリオ・ナハリスを演じたエド・スクレインを起用と発表されたのですが、彼が演じる予定のベン・ダイミョウは原作では日本人の設定だったことから、ホワイトウォッシングではないかとの批判が起こりました。

この批判を受けてスクレインはすぐに降板し、代わって『LOST』の韓国系俳優ダニエル・デイ・キムがキャスティングされました。

日本人役に韓国人俳優をキャスティングするのは問題ないのかいって感じなのですが、英語に堪能で、演技もアクションもこなせて、それなりの実績と知名度のある日本人俳優がハリウッドで育っていない以上、この判断に他意はなかったのだろうと思います。

ただし、本作の騒動はこれだけに終わりませんでした。

もう一人の主要登場人物アリス・モナハン役にはアフリカ系アメリカ人とマオリ系ニュージーランド人の両親を持つサッシャ・レインがキャスティングされたのですが、モナハンという姓からも分かる通り原作のアリスはアイルランド系という設定。

これに対し、本来は白人が演じるべき役柄を有色人種に演じさせることは迎合的であるという、先ほどとは逆の批判が起こったのです。

製作側からすると「どうせぇっちゅーねん」って話なのですが、さすがに有色人種のアクターを白人に交代させるわけにもいかず、サッシャ・レインは維持されました。

興行的には惨敗した

本作は2019年4月12日に全米公開されたのですが、同じくアメコミ原作の『シャザム!』(2019年)とコメディ映画『リトル』(2019年)に敗れて初登場3位と低迷。

翌週には10位までランクを落とし、全米トータルグロスは2190万ドルと大惨敗を喫しました。

国際マーケットでも同じく低調で全世界トータルグロスは5506万ドル。製作費5000万ドルの作品としては何とも寂しい売り上げでした。

続編を匂わせる終わり方をするのですが、このコケ方では続きはなさそうです。

感想

ホラー風味10割増し

このリブート企画の特徴を知るに当たって、まずご覧いただきたいのが主人公ヘルボーイの見た目です。

2004年版のヘルボーイ。角の少ないコミック風の見た目
2019年版のヘルボーイ。髪は落ち武者状態、顔は傷だらけ。

2004年のデル・トロ版がコミックのキャラクターがそのまま実写化したような見た目だったのに対して、本作のヘルボーイは劇画調の荒々しく汚らしい見た目となっています。

ここに作風や作家性の違いが端的に現れています。

前作のギレルモ・デル・トロもドロドロベチョベチョはやっていたのですが、それでもファンタジー要素を毀損しないレンジに収めており、基本的には異形の者達への愛着を強く感じさせる作風となっていました。

その点、本リブート版の監督ニール・マーシャルはゴリゴリのホラー監督であることからゴア描写に全力投球し、意図的にファンタジーから離れて行っているように感じます。そして異形の者への愛着ではなく恐怖を煽る演出を全般に施しており、基本はホラー映画となっています。

ブラッドクィーン・ニムエ(ミラ・ジョヴォヴィッチ)が首をはねられる冒頭から執拗に繰り返される人体破壊描写の数々に、魔物たちの気味の悪い動き方。それらすべてが衝撃的だったのですが、中でも堪えたのが中盤にてヘルボーイに振る舞われる人間の子供のスープでした。

余りに惨たらしいので詳細を書くことは控えますが、夜な夜なホラー映画を見て残酷慣れしているつもりの私でも引きました。本作のゴア描写はアメコミ映画という枠を超えて、通常のホラー映画すら霞ませるレベルに達しています。

そしてニール・マーシャル監督がうまいなと思うのが、こうしたゴア描写によって本作特有の空気感を醸成することに成功しており、同じ題材を使いながらもデル・トロ版とはまた違った作品を生み出せているということです。

で、原作に対する愛着のない私にとってはどちらが良くてどちらが悪いかという確たる価値観はなく、デル・トロのもよくできていたし、今回のもイケるよね!って感じで、両方楽しめました。

ヘルボーイの逡巡がちゃんと描かれている

そして、本作がデル・トロ版と比較して明確に上回っていると言えるのが、魔物側に付くのか人間側に付くのかというヘルボーイの逡巡がちゃんと描かれているということです。

ヘルボーイは「悪魔の力身に着けた正義のヒーロー」(©永井豪)であり、人類滅亡のために生み出された魔界の生き物でありながらも、人間に育てられたことでその守護者となっています。

で、己の出自を巡るヘルボーイの葛藤や、人間の悪い面を知りながら、それでも彼らを守るのかという逡巡こそがこのキャラクターのドラマの骨子部分を為しているはずなのですが、デルトロ版ではここがちょっと弱かったので全体的なストーリーが弱いものとなっていました。

もちろんデルトロの事なのでこの辺りは計算済であり、ヘルボーイの逡巡は続編以降で描くつもりだったのだろうとは思います。

実際、第二弾『ゴールデンアーミー』(2008年)では人間界と魔界の相克みたいなものがテーマになっており、第三弾ではいよいよヘルボーイも立ち位置を鮮明にせざるを得なくなるのではという含みを持たせていました。

このように、デルトロ版は三部作全体によって個別作品の評価も高まるという構成が意図されていたものと推測するのですが、結局完結編が製作されなかったために個別作品レベルの完成度が低いものとなってしまいました。

この点、本リブート版では個別作品でもヘルボーイのドラマが一巡するように作られており、デル・トロ版よりも映画としての完成度は上がったように感じます。

助っ人を頼まれたオシリスクラブからの騙し討ちを受け、人間界に対しては常に善意を持って接してきたヘルボーイが「お前、魔界の者だろ」と言われて攻撃を受けるという不条理。

オシリスクラブからの襲撃を跳ね返したヘルボーイは続けて巨人との戦闘に突入するのですが、魔物には魔物なりの事情がある中で、人間と敵対したからという理由で彼らを駆除する行為に本当に正義はあるのかという疑問も湧いてきます。

この辺りは『ウルトラセブン』的でもあり、ヒーローものらしい逡巡を本作は描いています。

さらには、魔物たちからは魔界の王ヘルボーイの覚醒を願う声をかけられ続けます。

人間側に絶対の正義があるわけでも、魔物側に絶対の悪があるわけでもない中で、ヘルボーイは同胞を裏切ってまで人間側に付き続けるべきなのだろうか。

そんな葛藤の中にいるヘルボーイを繋ぎとめるのが育ての親であるブルッテンホルム教授(イアン・マクシェーン)であり、超常現象調査防衛局の仲間達です。

彼らとの共闘の中でヘルボーイが人間側に踏みとどまる決断をするという展開もよく考えられており、ラストバトルはドラマとアクションが高次元で融合しており、私は大満足できました。

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