ヴェンジェンス【6点/10点満点中】面白くはないが心には残るビジランテもの(ネタバレあり・感想・解説)

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クライムサスペンス
クライムサスペンス

(2016年 アメリカ)
まず断っておきますが、↓のジャケットのような、炎を背後にニコラス・ケイジが銃を構えるような景気の良い見せ場はありません。本作はビジランテものの中でも恐ろしく地味な部類に入ります。ディテールも甘く、決して良い出来の映画ではないのですが、貧困地域における犯罪と、それを取り巻く空気感という独特のものは描けており、見るべき価値はあります。

© Patriot Pictures

あらすじ

ナイアガラ・フォールズ市警の刑事ジョン・ドロモア(ニコラス・ケイジ)は、美しいシングルマザー・ティーナ(アンナ・ハッチソン)とバーで知り合うが、後日、ティーナは4人のチンピラにレイプされる。担当刑事としてジョンは迅速に犯人を逮捕したが、法廷は容疑者有利の流れとなっていく。調子づいた容疑者達が被害者への中傷を始めたことから、ジョンは報復を開始する。

スタッフ

監督のジョニー・マーティンという人は聞いたことがなかったのですが、どうやらスタントマン出身の監督のようです。元はニコラス・ケイジ自身が監督を熱望していたとか。

本作の原作を書いたのはジョイス・キャロル・オーツという女流作家で、ピュリッツァー賞に3度ノミネート、ノーベル文学賞候補にも挙げられたアメリカ文学界の実力者です。

そんなオーツの著作『Rape: A Love Story』を脚色したのは、Netflixの人気ドラマシリーズ『ハウス・オブ・カード』の脚本家であるジョン・マンキウィッツで、おおよそニコラス・ケイジ主演のVシネらしからぬ豪華なメンバーとなっています。

感想

ニコラス・ケイジがブロンソン化

タイトルのvengeanceとは復讐という意味。似たような単語でrevengeがありますが、revengeが被害者自身による復讐であるのに対して、vengeanceは被害者の近親者による復讐という意味のようです。また、もう一つの似たような単語であるavengeは、正義感による報復という意味があるようです。

で、本作ヴェンジェンスですが、ちょっと面識のあった女性がレイプ被害に遭い、しかもその犯人達を刑務所にぶち込めそうにもないことから、ニコラス刑事が銃を手に取るというシンプルな内容となっています。

ここでのニコラス刑事は特段優れた刑事という設定ではなく、どこにでもいる中年刑事という位置づけになっています。加えて、貧困の街を舞台にしていることから70年代アメリカ映画のような雰囲気も出ており、私はデス・ウィッシュシリーズを思い出しました。

法廷場面が雑過ぎる

不埒なレイプ犯どもを法で処理できていれば問題ないのですが、そうもいかなかったことが法の埒外での制裁の原因となる。その点で法廷の場面は重要なのですが、これがどうにも納得いかないものなので映画全体の説得力を下げています。

容疑者達は高額報酬と引き換えにどんな犯罪者でも無罪放免にしてみせるカークパトリック(ドン・ジョンソン)という弁護士を雇います。そのカークパトリックが法廷で繰り出した論理とは、

  • 本件は女性の方から持ちかけた売春であった
  • 行為の後で女性が金額を吊り上げたためにトラブルとなった
  • 先に女性が男性に暴力を振るった

という何ともお粗末なものでした。

その場に娘もいるという状況で売春なんて持ち掛けるわけないだろとか、女性が先に暴力を振るったとしても、男4人もいればあんなにボコボコにしなくても抑え込めただろとか、素人の私が考えても容易に反論できるほどの穴だらけの論理はさすがにどうなのかと思います。悪人を弁護するにしても、もっとマシなことは言えなかったのでしょうか。

しかし、法廷はこの弁護士有利で進んでいくわけです。どいつもこいつもバカばっかりなのかと唖然としてしまいました。

ニコラス刑事による制裁が地味だが論理的

法廷で正義が為されないばかりか、悪人たちは増長し、被害者親子への脅迫までをする始末。さすがに黙っちゃおれんとなったニコラス刑事が制裁を開始します。

この手のビジランテものは加害者にいかにして被害者と同等の苦痛を味わわせるのかという方向性を取ることが多いのですが、本作はかなり趣が異なります。

ヴェンジェンスというタイトルとは裏腹に復讐という色合いは薄く、むしろ被害者親子の安全を守るための排除という目的の方が強く出ており、ニコラス刑事は実にエレガントにダニどもを排除していくのです。

一人はこちらの正当防衛が認められるシチュエーションで射殺。二人は国外逃亡を偽装して殺害、最後の一人は自白の遺書を書かせた上で自殺を偽装して殺害と、非常に地に足の着いた方法を取ります。

舐めてた中年刑事が実は殺人マシーンでした的なカタルシスこそないものの、なかなか説得力のある殺害方法ではあるので、これはこれで見応えがありました。

貧困地域の荒れた実状

舞台となるのはナイアガラ・フォールズ市。ナイアガラの滝を抱えているので観光収入で潤っているのかと思いきや、街は寂れて貧困層が多くなっています。

私もナイアガラの滝には観光で行ったことがありますが、市街地が貧困地域だとは知りませんでした。正確には市街地を通らなかったので、そこがどうなっているのかを見ることがなかったんですが。

つまり、滝に来た観光客を市街地にも来させるという導線を作れていなくて、観光客に金を落とさせることができていないのです。商売下手とはこのことですね。

そんな地域での知り合い同士のレイプ事件なので、いろいろと厄介。

犯罪が珍しくもない地域だし、被害者も加害者も貧困層なので、そもそも裁判所が事件を真剣に扱う気がない。被害者女性にも何かしら隙があったんだろ程度にしか考えていないわけです。

映画を見た後に気付いたんですが、ニコラス刑事とティーナが出会う場面、あれは暗に売春に誘っていたんでしょうね。私は額面通りにバーで二人が個人的に打ち解ける場面として見ていたのですが、しょぼくれた中年男にブロンド美人が好意から声をかけてくるなんてことはありえません。

美人が入店してきたのでニコラス刑事の目がついついティーナの方へと向き、その視線を感じ取ったティーナは脈ありの客と判断して接近した。そういうことなんでしょう。

この事件に対し、街の人たちも声を上げません。加害者達の普段の素行を知っている人たちからすれば、その夜何が起こったのかは恐らく察しがついているはず。でも、距離が近すぎて誰も本件と関わり合いになろうとはしないのです。面倒だから。

そしてニコラス刑事による制裁は、その裏返しでもあるわけです。

貧困層のレイプ事件を法曹界がまともに扱わなかったのと同様に、貧困層のチンピラ数名が忽然と姿を消したり、自殺したりしても、誰も真剣に調べようとはしません。彼はそこを突いたのです。

ラストのやりとりでは、弁護士も被害者家族もニコラス刑事がこいつらをぶっ殺したということは分かって話しています。その他の人たちも薄々は勘づいているはず。でも、自殺や国外逃亡って処理にしていいほどに現場が整っていたので、みんな「そうであれば楽だ」という図式を守っているのです。

レイプ事件も報復も何となく流されていく感じが空恐ろしく感じました。

こうして本作の趣旨を考えると、裁判所や容疑者宅にマスコミが殺到する描写は蛇足でしたね。

誰からも真剣に扱われない、興味も持たれない、せいぜい地元紙の片隅に載るくらいのレイプ事件の裏側で、実はこんなことが起こっていたんですよという見せ方にした方が、趣旨がより鮮明に出たと思います。

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