あの頃。_ハロプロ知識がないと厳しい【4点/10点満点中】(ネタバレなし・感想・解説)

スポンサーリンク
スポンサーリンク
青春もの
青春もの

(2021年 日本)
ハロプロに詳しい人だと一つ一つの会話を楽しめるのでしょうが、そうではない人にとっては特に感じることのない内容で、これで2時間弱は厳しかったです。アイドルオタクに限定せず何かしらにハマったことのある人なら思い当たる内容にまでテーマを敷衍すれば良かったのですが、狭い範囲に収まってしまっているという印象です。

感想

ハロプロに詳しくないとツライ内容

ベーシストで漫画家でアイドルおたくの劔樹人氏の自伝的コミックエッセイ『あの頃。男子かしまし物語』(2014年)の映画化。

舞台となるのは2000年代前半の大阪で、丁度その頃に私も大阪で学生生活を送っていたことから、物語との接点を感じてNetflixで鑑賞しました。

ただし内容は専らハロオタのリアルな生態を追いかけたもので、大阪という土地や2000年代前半という年代設定はさほど掘り下げられていないので、同時代を生きてきた人間だからと言って即シンパシーを感じられる内容ではありませんでしたが。

映画では第●期の加入とかメンバーの卒業などのハロプロ的に大きなイベントで時代を表現するという方法が取られているために、当時のハロプロに思い入れのない人にとっては共感の接点の少ない作品となっています。

ちなみに私の知識はというと、モーニング娘。を輩出したテレビ番組『ASAYAN』は前身の『浅草橋ヤング洋品店』から見ているほど好きだったので、後藤真希が加入して「LOVEマシーン」を大ヒットさせる辺りまではリアルで見ていました。

オーディションの過程から見てきた子がCDを100万枚売るという絵に描いたような話がガチで起こるので、1999年頃のASAYANは神がかり的に面白かったんですよ。

しかし辻ちゃん&加護ちゃんをメンバーに加えてグループがハッキリと子供受けを狙い始めた辺りから関心を失い、それ以降のハロプロ全体の動きもほぼ押さえられていません。

で、本作の舞台となるのは素人目にも面白かった「LOVEマシーン」辺りの時代ではなく、ファンに特化したビジネスになって一般人との間に溝ができ始めた2000年代前半。

ハロプロに詳しい人が見ると、飛び交うセリフ、口ずさまれる楽曲、画面に見切れるアイテムの一つ一つに「そうそう、こういうのあった!」と感動する内容だったのかもしれませんが、一般人ではほぼ素通りしてしまい、感じるものの少ない話となっています。

私が楽しめたのはヒッポリト星人ネタくらいですかね。コズミンがセブンと言い出した時点で、劔よりも先に「エースでしょ!」とツッコんでしまいましたが、これくらいしか共感できる部分がなかったのは辛かったです。

その他、小さなファンコミュニティ内でも上下関係があるとか、ネット書き込みで熱くなってしまいリアルでの謝罪騒動にまで発展するとか、傍から見ると些細なことに夢中になる様が繰り返し描かれるのですが、それを体験していない人にとってはどうでもいい話だし、かと言って「当時の俺らは馬鹿だったよな」という批評性があるわけでもないので、一般人に通用するドラマに昇華できていません。

この手の映画って、表面上はアイドルオタクを描く内容であっても、ある程度の普遍性は必要だと思います。洋楽オタクでも映画オタクでも格闘技オタクでも、何かしら深くハマった経験のある人が見れば、「そうそう、俺らもこれくらいイタかったよな」と思えるような内容であれば共感が広がっていくのですが、ハロオタの原体験という域に留まっているので厳しいのです。

加えて、作者の体験に忠実に作られているためか終始淡々と進んでいくために、細部に感じるものがない人にとっては全体が退屈なものに感じられます。

「今が一番楽しい」は強者の論理

で、物語は2000年代前半から終盤までをカバーする長期間が描かれ、かつてのオタクコミュニティも緩やかに解体されていきます。

そして、昔は馬鹿なことやって楽しかったねなんて懐かしがりつつも、主人公は「いろいろあったけど、人生のなかで今が一番楽しいです」と言います。

これって表面的には懐古主義に陥らない前向き発言なのですが、常に人生が楽しくなり続けている、思い通りになり続けているというのは、めちゃくちゃ強者の論理でもあるんですよね。

原作者の劔樹人氏は夢だったベーシストになり、サブカル界でも確固たる地位を築き、アイドルの話をもっとしてくれと頼まれる側になりました。オタクとしては圧倒的強者ですよ。

しかし大多数のオタクは何者にもなれず、もっと大事なことのために好きなことを減らすか、好きなことを常に中心に置き続けて人生をほぼ投げ出すかの、どちらかの選択を迫られるわけです。

そしてどちらの道を選択したって、楽しいわけはないのです。

断言しますが、時間的余裕があって、何か意義のある活動をしなければならないというプレッシャーからも解放され、豊かではないにせよある程度モノを買う資金力はある大学時代が人生で一番楽しく、それ以降の人生は下り坂でしかありません。

好きなことを収入源にして、放課後の延長みたいな活動を年十年も続けられることは才能ある人の特権であり、一握りの例外でしかないのです。

劇中、「今が楽しい」という劔に対して、先に上京していた先輩は「僕は大阪に帰りたい」と漏らすわけですが、あれが多くのオタクの現実だと思います。

非モテの恋愛事情

そんなわけで全体的には辛い出来だった中で、唯一良かったのは非モテの恋愛事情でした。

モテというのはすべての男に共通する課題なのですが、本当にモテる男はほんの一部であり、ほとんどの男はモテないという厳しい現実があるため、非モテの恋愛事情はかなり普遍性のあるテーマなのです。

実際、あるネット調査によると67%の男性が自分をモテないと認識しており、私自身も異性関係にさほど恵まれない学生時代を送ったので、このテーマは深く深く胸に突き刺さりました。

男だらけのコミュニティ内に「女子が来た!」というだけで全員が色めき立つのだが、一度のチャンスで異性と仲良くなるスキルなど持ち合わせない人間の集まりなので、ただ色めき立っただけで終わるとか、仲間内で一人の女子を巡って諍いが起こるのだが、実のところどちらも付き合っているわけではないとか、すっごーく分かりました。

自分自身もああいう糠喜びを繰り返して恋愛した気になったり、まだ何も始まってもいないのにフラれたと思って勝手に落ちこんだりしてたなぁと。

あと、松坂桃李がデートをドタキャンされるくだりもあるあるですね。

楽しみにしていたデート前日に相手の子から「体調が悪くて行けない」というメールを受けたことは、私も何万回とあります。すんごい体調崩しますよね、女子って。

またあのシチュエーションもよく出来ていて、松浦亜弥のコンサートというのが絶妙なんですよ。当時、ハロオタはほぼ市民権がなかったのですが、松浦亜弥だけは普通の女の子でもカラオケで歌うのでギリセーフという風潮がありました。

なので松浦亜弥のコンサートには誘うことができたのですが、その後に誰かから「ハロプロのコンサートはオタクばかりであなたが思ってるのと違うよ」と吹き込まれて、その子はドタキャンしたんでしょうね。

そこで世間のリアルな反応を知って、オタクを辞めようと思う松坂桃李。そのツラさ分かるよ!

『ハルク』(2003年)を見に行こうと女子を誘って撃沈した夏を思い出しました。あの夏の正解は『パイレーツ・オブ・カリビアン』(2003年)だったんですね、私の馬鹿。

松坂桃李は『孤狼の血LEVEL2』(2021年)で極道刑事を演じた同年にハロオタ大学生をナチュラルに演じるという幅の広さを見せます。リアルでは超絶モテる側にいるのに、作中ではそうは思わせないカメレオンぶりは流石でした。

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
記事が役立ったらクリック
スポンサーリンク

コメント

  1. 匿名 より:

    怒りのあまり、あなた自身がハルクにならなくてよかった。