銀河英雄伝説_あまりの面白さにぶったまげた【8点/10点満点中】(ネタバレなし・感想・解説)

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宇宙
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(1988-2000年 日本)
SFエンタメの皮を被りながらも、国家論や元首論をかなり真剣に描いた含蓄あるアニメ。長編3作、本伝110話、外伝52話という大ボリュームも何のその、あまりの面白さに気づけば全部見終わっていた。

作品解説

銀河英雄伝説とは

田中芳樹のSF小説であり、1982年から1989年にかけて全14巻が発行され、シリーズ累計で1500万部を売り上げている。

80年代にテレビアニメ化が企画され、そのパイロット版として製作された『わが征くは星の大海』(1988年)は劇場公開されたが、テレビ放映の企画自体は行き詰まり、OVAとしてリリースされることに。

当シリーズは大ヒットとなり、本伝、外伝、長編を合わせて135本がリリースされるという超特大シリーズとなった。

その後、漫画化されたり舞台化されたりと様々な媒体でリリースされ、2018年からは再度のアニメ化企画として『銀河英雄伝説 Die Neue These』が進行中である。

本記事では1988年からリリースされたOVA版の感想を記載する。

感想

あまりの面白さにぶったげた

1988年からOVAがリリースされたシリーズだが、媒体面でも内容面でもハードルが高く、リアルタイムでは見ていない。

名前こそ知っていたがあまりの長大さに「見てみよう」という気になれないまま2022年まで未見の状態が続いていたが、この年末に状況が変わった。

2022年12月は仕事がかなり忙しく毎日残業続きだったので、映画を見る時間を確保できなくなっていた。

それでも一日の終わりに何かは見たいので、『伝説巨神イデオン』のために入会し、その後はもっぱらガンダムシリーズを見るために継続していたバンダイチャンネルを漁っていたところ、本作を発見。

古い作品だし、魅力的なロボットは出てこないし、大した期待はないまま「試しに数話見てみるか」という感じで見始めたのだが、あまりの面白さにぶったまげた。

仕事で疲れていた時期だし1日1話で収めておこうと思っていたのだが、ついつい何話も見てしまう。

凄まじい長編だが、寝る前のひと時で見ているうちに順調に消化していったうえ、休日にはまとまった本数を視聴したことから、ほんの1カ月足らずで本伝は全部見終えてしまった。

疲れた中年をここまで夢中にさせた銀河英雄伝説の凄さとは一体何なのかを説明したいと思う。

銀河英雄伝説のここが素晴らしい!

国家論・元首論について深い含蓄

人類が銀河系に進出した遠い未来を舞台に、皇帝による専制政治が敷かれる銀河帝国と、共和主義者たちが建国した自由惑星同盟との戦争が描かれる。

ここで興味深いのが、専制政治は悪、民主主義は善というありがちな図式に落とし込んでいないことで、良き君主が現れれば非常によく機能するという専制政治の良き面にも光が当てられている。

また民主主義も絶対ではなく、判断が遅い、ポピュリストが現れるとめちゃくちゃにされる、そもそも庶民たちに判断能力はあるのかといった難点があって、それらが作劇にきちんと織り込まれている。

実際、劇中で判断ミスを犯すのは圧倒的に自由惑星同盟側であり、国家のために戦っている職業軍人たちの足を引っ張ることも一度や二度ではなく、なんと効率の悪い統治形態かと思ってしまう。

それでも、自由惑星同盟を背負って戦うヤン・ウェンリー司令官は、民主主義こそが最善の統治方法であると信じている。

なぜなら、専制国家において無能や悪意を持った主君が現れるリスクがゼロではないことを考えると、最悪の場合にリーダーの交換が効く民主主義の方が長期的に安定するからだ。

加えて、国民一人一人に意思決定権限が与えられていることから、国家が誤った判断を下して不利益を受けたとしても、自分たちの判断ミスの結果だとして国民全員で納得するしかない。

自分たちで選んだわけでもない無能な皇帝による悪政の被害を受けるよりも、よほど腑に落ちるではないかというわけである。

歴史ものとして作りこまれている

設定上はSFであるが、国家、軍隊、人の在り方を一変させるような超技術は登場せず、情報通信技術は20世紀時点のテクノロジーよりも遅れているくらいで、内容は限りなく歴史ものに近い。

実際の国名や歴史上の人物をあげると作劇上の制約を受けることから、便宜的にSFという設定を取っているにすぎないのである。

宇宙開発史や、帝国や同盟がいかにして建国されたのかという前史部分がやたら詳細に作りこまれており、本当にこういう世界があるように錯覚させられる。

また歴史には付き物である運命のいたずらもうまく織り込まれている。

もしも平治の乱で源頼朝が処刑されていたら、もしも本能寺の変が起こらず織田信長が天下統一を果たしていたら…

こうした「もしも」は歴史好きの永遠のテーマであるが、本作にも「もしもこうだったら」という歴史のターニングポイントがいくつか織り込まれており、容赦なく妄想を広げてくれる。

この辺りも憎いほどよくできている。

全体的に後世の歴史家目線となっていて頻繁にナレーションが入るのだが、「この決定が後に禍根を残すことになる」など、次が気になって仕方のなくなる語り口なのも、本作の特徴である。

魅力的な登場人物たち

やたら多い話数が示す通り、登場人物もやたら多い。ただしそれぞれが魅力的で、群像劇としてもすぐれている。

≪銀河帝国≫

  • ラインハルト・フォン・ローエングラム(堀川亮):銀河帝国の青年将校。落ちぶれた貴族の家柄出身で高級貴族達からは「金髪の孺子(こぞう)」と言われてバカにされているが、天才的な軍事の才覚で上り詰めていく。
  • ジークフリード・キルヒアイス(広中雅志):ラインハルトの幼馴染にして陣営のNo.2。人格面でも軍人としての才能面でも申し分のないMr.パーフェクトで、人格的な欠点の多いラインハルトを完璧にサポートする。
  • ウォルフガング・ミッターマイヤー(森功至):ラインハルトの部下で、「疾風ウォルフ」の異名を持つ有能な軍人。人格面においても清廉潔白で曲がったことを許さず、一人の奥さんを愛し続けるという底抜けのナイスガイ
  • オスカー・フォン・ロイエンタール(若本規夫):ミッターマイヤーと並ぶ「帝国軍の双璧」だが、親友ミッターマイヤーとは打って変わって出自に由来する歪んだ精神を持っている。まっすぐなミッターマイヤーとの関わり合いで精神の均衡を保っているようにも見える
  • パウル・フォン・オーベルシュタイン(塩沢兼人):ラインハルトの参謀役で、目的達成のためなら倫理的にいかがな決定も下す冷血漢。まっすぐな軍人の多いローエングラム陣営内では蛇蝎の如く嫌われているが、よくよく聞いてみると正論しか言っていない。ラインハルトに対して口答えできる数少ない人物。

≪自由惑星同盟≫

  • ヤン・ウェンリー(富山敬):自由惑星同盟の司令官。軍事の天才で「魔術師」の異名を持つが、本人は軍隊というものをさほど好んでおらず、平穏な年金暮らしに憧れている。
  • ユリアン・ミンツ(佐々木望):戦争孤児で、ヤンの被保護者。当初はずぼらなヤンの生活の面倒を見る立場だったが、のちに軍人になり、ヤンから受けた教育で才覚を表すようになる。
  • ワルター・フォン・シェーンコップ(羽佐間道夫):帝国貴族の生まれだが、幼少期に自由惑星同盟に亡命してきた。友達感覚のヤン陣営では珍しく軍人然とした人物であり、白兵戦では鬼のような強さを誇る
  • アレックス・キャゼルヌ(キートン山田):ヤンの士官学校の先輩で、主に後方支援を担当する。変わり者の多いヤン陣営では珍しい家庭人であり、公私両面でヤンの世話を焼いている。
  • ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ(納谷悟朗):元帝国の上級将校でヤンとは敵対する立場にいたが、のちに同盟に亡命してヤン艦隊の提督になる。軍人としても人としても尊敬を集める人物で、ヤンのメンター役となる。

どのキャラクターが好きかというと個人差が現れるだろうが、私自身はラインハルトの人柄が見ていて面白かった。

当初は短気で、無能な部下を許さない面もあったが、位が上がるにつれ、部下を認める、信用する、褒める、失敗にも寛大に遇するということを覚えていく。

そして嫌いな人間であっても適材適所で臣下に加えねばならないということにも慣れていくのだが、上になればなるほどわがままを言えなくなり、人格的に穏やかになっていく辺りが興味深かった。

また安全保障局長ラングや政治家トリューニヒトのような卑劣漢も登場するのだが、手段こそ卑劣だがその先にある目的はあながち間違ってもいなかったり、実は陰で善行も行っていたりと、完全な悪人を登場させていない辺りも良い。

人間とは善悪どちらかで括れないという真理を突いていると感じた。

声優陣がやたら豪華

上に主要登場人物の声優も記載したが、主人公のラインハルトはベジータ役の堀川亮、その臣下にセル役の若本規夫や南斗水鳥拳のレイ役の塩沢兼人がいたりと、声優陣がめちゃくちゃ豪華。

それはヤン陣営も同じくで、ヤンは古代進役でおなじみ富山敬、その被保護者のユリアンは浦飯幽助役の佐々木望、メルカッツ提督役は銭形警部役の納谷悟朗など、錚々たる顔ぶれが並んでいる。

その他、古谷徹、池田秀一、鈴置洋孝らガンダム組、羽佐間道夫(ロッキー)、水島裕(サモ・ハン・キンポー)、安原義人(ミッキー・ローク)ら洋画吹替組も参戦しており、日本国内の著名な男性声優はほぼ全員関わってるんじゃないかってくらい豪華である。

人が死ぬタイミングが常に絶妙

で、これだけの登場人物がいて、なおかつ戦争ものなので当然のことながら死者も出るのだが、そのタイミングが絶妙すぎる。

ネタバレになるので具体的には触れないが、主要登場人物は意外なタイミングで死ぬので、毎度驚かされた。

古い作品なのでネット上にはネタバレがそこかしこに転がっているが、そういった情報には極力触れずに鑑賞していただきたい。本当にびっくりするから。

ここがヘンだよ銀河英雄伝説

なぜ狭い回廊しか航路がないのか

銀河の一方の端に銀河帝国領があり、もう一方の端に自由主義同盟領があって、この2拠点を繋ぐのはイゼルローン回廊とフェザーン回廊という二つの航路のみというのが本作の地理的な特徴となっている。

で、両回廊をどう押さえるのかを巡って両軍は頻繁に衝突するのだが、そもそもワープ航法で数千光年を数週間で移動できるような人類が、この二つの回廊にこだわっている理由がよく分からない。

宇宙の三国志を作るためかなり無理な設定を置いているようにも感じるが、この設定に対して合理的な説明を付してほしいところだった。

ゼッフル粒子という超科学

進みすぎた科学技術があると製作者のやりたいことを実現できなくなるため、ある特定の技術を無効にするための超科学というものがSFではよく登場する。

代表例が『機動戦士ガンダム』のミノフスキー粒子で、これによって飛び道具無効、MSによる肉弾戦しかないというシチュエーションが生み出されたのだが、本作においてはゼッフル粒子というものがこれに該当する。

どうやら凄まじい爆発力があるらしく、レーザー銃などで引火するので、これを撒かれると肉弾戦をするしかなくなるらしい。

なんだけど、こうも露骨に著者にとって邪魔なものを排除するための超設定が登場すると冷めてしまう。

地球教が有能すぎ

本作は遠い銀河を舞台にしているのだが、ではその頃の地球はどうなっているのかというと、完全に廃れてしまっている。

人類文明の中心地は随分と前に銀河の遥か彼方に移行しており、多くの人々にとって地球とは人類発祥の地として知識面で知っているだけで、実際に行ったこともなければ、特に気に留めることもない辺境の一つにまで落ちた。

なのだが、地球を聖地とする地球教なるカルト宗教が発生し、帝国、同盟の両領土内でひそかに信徒を増やしている。

ただしその規模は本当にささやかなもので、帝国・同盟両政府はこの宗教の実態すら掴めていないのだが、それでも地球教徒達の目的は壮大で、地球を人類文明の中心地として返り咲かせようとしている。

そこで彼らは策謀を張り巡らせ、要人暗殺やテロなどあらゆる悪事に手を染めるのだが、それらがことごとくうまくいき、人口規模でまったく比較にならない帝国と同盟の国家基盤までを危うくしかける。

この通りシリーズ通しての悪役と言えるのだが、ここまでの少人数で幾多のテロを成功させる手腕の確かさ、あらゆる組織にシンパを送り込み、策謀発動までは隠密行動を徹底させるという水も漏らさぬ管理体制は、凄いを通り越して非現実的でもある。

地球教徒がここまで有能揃いなら、妙な気など起こさずとも自力での地球再興も可能じゃないかとも思ったりで。

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コメント

  1. なつめ より:

    こんにちは。
    銀河英雄伝説おもしろいですよね。
    作者の田中氏がいろいろな歴史に造詣が深いらしいので、設定をSFにして、
    実際の歴史イベントをうまくエンタメにしている感が個人的にはあります。
    自分は学生時代にがんばってDVDボックスをそろえました。

    ある時代までの声優のほとんどがかかわっていることから、
    一部では「銀河声優伝説」とも言われているそうです(笑)

  2. あああ より:

    僕もこのブログを見て鑑賞初めて見ました
    3期のエンディングは泣けます