(2021年 アメリカ)
ソニー・スパイダーマン・バースの総決算的作品であり、20年間付き合ってきたファンが泣いて喜ぶ要素てんこ盛り。上映時間の長さを感じさせないほど楽しめました。ただし、よくよく考えればおかしな部分があったり、マルチバースってどうなのよという感想もあったりしましたが。
感想 ※ネタバレ全開です
実写化20年の集大成
過去作品の敵が再登場!
というのは日本の特撮でもよくあって、仮面ライダーやウルトラマンではしょっちゅう昔の敵が甦っちゃまた始末されを繰り返しているのですが、本作が凄いのはオリジナルキャストで復活させているということです。
ウィレム・デフォー、ジェイミー・フォックス、アルフレッド・モリーナが一堂に会する様には、20年間ソニースパイダーマンに付き合ってきた観客の一人として熱いものを感じましたね。
彼らが「あいつはおかしくなってピーターに殺された」と批評し合ったり、世界観を共有していない初対面のヴィラン同士で「なんだあれは」と言い合う辺りは妙におかしかったです。
特に人間の面影をほとんど残していないリザードに対する視線の厳しさですね。奇人・変人揃いのヴィランの目からしても「あいつだけはないわ」という感じで、ほぼネタキャラ化するという。
よくよく考えてみれば、エレクトロはスパイダーマンの正体を知らずに倒されたので今回のルールでここにいるのはおかしいだろとか、逆にピーターと深い因縁のあるハリー・オズボーンがいないのはなぜとか、いくつか疑問もわいてくるわけですが、まぁ細かいことは気にしないってことで。
かつてスパイダーマンを苦しめてきた彼らが、その特殊能力を全開にして襲い掛かってくるという見せ場の連続には興奮の嵐だったのです。
以下にいろいろと文句も書きますが、基本的には面白い映画でしたよ。
あ、デアデビルだ!
前作ラストでミステリオに正体をバラされたピーターは、さっそくエライことになります。
マスコミの報道は過熱し、スパイダーマンとしての活動を非難する市民も現れる。そして政府からも拘束される。
世界的大企業スターク・インダストリーズの権力で何とか揉み消せなかったのかと思うのですが、本件に関してはハッピー・ホーガンもあまり力を貸してくれません。
で、政府から彼を解放してくれたのはマット・マードックという弁護士で、Netflixをご覧の方ならお馴染み、この方はNetflix版『デアデビル』の主人公です。
昼は盲目の弁護士、夜はクライムファイターという二足のわらじを履く男であり、ヒーロー稼業の辛さが分かることから、ピーターの代理人を引き受けたと思われます。
Netflix版『デアデビル』はMCUと世界観を共有しており、特にシーズン1では『アベンジャーズ』(2012年)でNYが戦場になったことが作品の背景となっていました。
よって、本作にマット・マードックが出てくるのは、実に自然なことなのです。
あ、ドクターストレンジだ!
政府からは解放されたものの依然として社会生活は厳しく、ピーターとMJ、ネッドは、志望していた大学からも「世間を騒がせているあなた方を入学させるのはちょっと…」ということで、お断りをされてしまいます。
自分だけならともかく、MJとネッドの人生まで変えてしまったのは忍びない、この状況を何とかしなければということでピーターが頼ったのが、サノスとの戦いでご一緒したドクターストレンジでした。
弁護を引き受けるのがデアデビルだわ、助けを求めるのがドクターストレンジだわ、物凄い町内です。
ピーター=スパイダーマンという情報を世界中の人たちの記憶から消してしまえばいいのねということで、意外と簡単に引き受けてくれるドクター。
なのですが、魔法を唱えるドクターに向かってピーターが「この人は除外」ということを何度も言ってしまい、ユニバースが混乱してしまいます。かくして、他のユニバースからヴィラン達がやってくるという事態に。
ヴィラン達の行動はいい加減
こうしてやってきたヴィラン達ですが、彼らはスパイダーマンに退治されてきた者たちでもあります。
ディズニーが母体となるMCUに組み込まれた影響か、トム・ホランドのスパイダーマンはヴィランを殺してこなかったのですが(ミステリオは自滅)、トビー・マグワイアとアンドリュー・ガーフィールドの時代にはほぼほぼヴィランは死亡しており、生きて戦いを終えられたのはサンドマンだけでした。
彼らは元のユニバースに戻されれば死ぬ運命にあり、それでは可哀そうだということで、トム・ホランドが彼らの邪悪さを取り除いてやろうとします。
ヴィラン達からしても、死ぬのは嫌なのでトム・ホランドからの提案に乗ります。サンドマン以外は優秀な科学者なので、治療法を開発する能力は持っているし。
ここに、スパイダーマンと歴代ヴィラン達が協力して事に当たるという一風変わった構図が置かれてワクワクしたのですが、残念ながらその関係は早晩崩壊します。
きっかけはノーマン・オズボーン(ウィレム・デフォー)にグリーン・ゴブリンの人格が戻ってしまったことなのですが、ノーマンが離脱したのは仕方ないとして、後の4人までがピーターを裏切る理由がよくわかりません。
特にドクター・オクトパスは暴走の原因だったチップを正常化された後なのだから、あそこで暴れる意味がないのですが。
かと思えば、最終決戦ではいい奴として戻ってくるし。
また、そもそも殺される運命にはないサンドマンは元のユニバースに戻られればそれでよく、グリーン・ゴブリンに従ってスパイダーマンに反旗を翻す動機が存在していません。
そんなわけで、ヴィラン一人一人の事情まで踏まえると、一体何のために戦っているのかがよく分からない話となっています。
先輩からの説教は感動的だが…
ヴィラン達に脱走された上に、その過程でメイおばさんを殺されてしまったトム・ホランドは途方に暮れるのですが、何やかんやあって歴代スパイダーマン2名と合流します。
今度はスパイダーマン3人で事に当たることとなるのですが、メイおばさんを殺された件でトムホの内面にある激しい怒りを感じた先輩方は、復讐の虚しさを説きます。
トビー・マグワイアはベンおじさんを亡くし、またアンドリュー・ガーフィールドはグウェンを亡くしたわけですが、暴力や復讐で心の問題は解決しなかったと、実に感動的な説教をします。
見ている私の目頭も熱くなったほどの感動的な説教であり、これにはトムホも心打たれて、復讐という線はきっぱりと否定します。
しかしクライマックスでグリーン・ゴブリンと対峙すると、ボコボコに殴っちゃうんですよね。トビー・マグワイアが止めに入んなきゃいけないくらい。
言葉で煽ったゴブリンも悪いんですが、それにしても説教が全然響いていなかったというのはどうかと思います。
要はMCUからの切り離し企画
何やかんやありつつも本件のカタは付きそうになった矢先、その他の無数あるユニバースからもヴィラン達が雪崩れ込もうとするという、にっちもさっちもいかない状況が出現します。
なんか強引な危機だなと思ったのですが、とりあえずそういうことらしいです。
で、これを防ぐ唯一の方法は、ドクターストレンジの魔法ですべての人間からピーター・パーカーの記憶を消し去るということで、他に選択肢もないので魔法は実行されます。
その対象にはドクターストレンジを含むアベンジャーズメンバーも含まれており、これによりピーター=スパイダーマンはアベンジャーズのメンバーでもなくなったわけです。
『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年)以降、ソニーがMCUに借し出している状態だったスパイダーマンを、ソニー独自企画に戻すための儀式だったということですね。
追い打ちをかけるようにポストクレジットではトム・ハーディ=ヴェノムが登場し、これからはソニーズ・スパイダーマン・ユニバースで仲良くやらせていただきます宣言が入るし。
版権からみのゴタゴタがはっきりと反映されたプロットって萎えますね。
マルチバースって微妙
あと、そもそもの部分に対しての異論ですが、マルチバースって微妙ですよね。
苦しくてもちゃんと辻褄を合わせるということがヒーローものの大きな醍醐味なのですが、マルチバースを採用すると辻褄なんて考えず自由にクロスオーバーさせることが可能となります。
作り手側にとっては実に便利であっても、見る側からすれば、タイムスリップや死者の復活と並んで、安易に連発されると本気で見る気が失せる概念だと思います。
≪スパイダーマン シリーズ≫
スパイダーマン_前半最高、後半残念【7点/10点満点中】
スパイダーマン2_良質な青春ドラマ【8点/10点満点中】
スパイダーマン3_豪快に破綻した最終章【4点/10点満点中】
アメイジング・スパイダーマン_改悪部分多し【5点/10点満点中】
アメイジング・スパイダーマン2_悪くはないが面白くもない【6点/10点満点中】
スパイダーマン:ホームカミング_バルチャーだけが良かった【5点/10点満点中】
スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム_前作からドラマ断絶しすぎ【5点/10点満点中】
スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム_面白いけど微妙な部分も【7点/10点満点中】
コメント
ドッグオクは暴れたんじゃなくてエレクトロ止めようとしただけでしょ。
そのエレクトロはどう見ても力に取り憑かれてたし。
サンドマンはよう分からんがこりゃ帰りたくないゴブリンとエレクトロにやられちまうって感じで逃げたんじゃない?
確かにドックオクはエレクトロを止めてましたね。
私が読み違えてました。
ただ、あの状況でそのまま姿消すなよって感じですよね。
私はアメコミファンなので楽しめましたけれど、初見には厳しい映画でしたね。
それにマルチバースが苦手な人は楽しめない作品ですよね(私はSF作品なら並行世界、並行時空設定よりも、直列時空で親殺しのパラドックス論ベースの作品の方が好きです)
ちなみに、ストレンジが最後に消したのは、
ピーターの記憶だけで、スパイダーマンの記憶は全世界の人にも残っています。
(ニュースキャスターが最後に「スパイダーマンは招待を明かすべき…」といつもながらに、誹謗中傷をしています)
つまりアベンジャーズにもスパイダーマンの記憶はあるので、アベンジャーズとの関わりが無くなったわけではなく、「スパイダーマンの正体」と「ピーター」と深く関わった所のみの記憶が消えてリセットされただけだと思います。
(多分、アベンジャーズもストレンジも「スパイダーマンと一緒に戦ったことはあるけれど、正体は誰だっけ?」になっているんだと思いますよ
マルチバースとか魔法の連発は厳しいですね。
都合よくピーターだけの記憶を消す魔法とか、そういうのができるようになると、都合の悪くなった設定は全部なかったことにできるよなぁと。
ドクター・ストレンジ2はマルチヴァース自体を扱う作品になりますし
ロキ関連もマルチヴァースですから一体どこでマルチヴァースに区切りをつけるのか心配
ケヴィン・ファイギはドクター・ストレンジをMCUの中心人物にすると言い出したし、科学者や軍人上がりのキャラが中心だったフェーズ3とは打って変わって、魔法やマルチヴァースが今後の標準になりそうですね。
死者の復活やパワーのインフレで取り留めのないことになったドラゴンボールZみたいなことにならなければいいのですが。