アンシーン/見えざる者【3点/10点満点中_つかみだけがOKなポンコツSFドラマ】

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得体の知れない脅威
得体の知れない脅威

[2016年カナダ]


© Goonworks Films

3点/10点満点中

■特殊メイクアップアーティストの監督デビュー作

ジェフ・レドナップという監督名は初めて聞いたのですが、調べてみるとこの人の本業は特殊メイクアップアーティストであり、1990年代後半よりキャリアをスタートさせ、『ウォッチメン』『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』『デッドプール』、最近では『ザ・プレデター』などの錚々たる作品を手掛けてきたということでした。

ただし、特殊メイクアップアーティストの監督デビュー作といって私の頭にまず浮かぶのは『ザ・フライ2/二世誕生』であり、こちらではベテランアーティストのクリス・ウェイラスが監督デビューしたものの、『1』にはあった何とも言えないエグさや、その奥にある人間ドラマを半分も再現できておらず撃沈。やはり餅は餅屋であり、特殊メイクアーティストと監督では使う脳が違うということを思い知らされたのでした。

■クローネンバーグ作品のような雰囲気は良い

そんな感じで私にとって本作は要注意物件ではあったのですが、意外や意外、物語の導入部分はよくできていました。田舎で孤独に生きる男の日常が淡々と描写され、行きつけのバーの女主人から迫られても断るという男としてあるまじき行為から「この人には何かあるのだな」と思わせておいて、実は体が透明化しているプロセスの最中にあるという描写がいきなり入り、かなり引き付けられました。デヴィッド・クローネンバーグ、ドゥニ・ヴィルヌーヴ、ヴィンチェンゾ・ナタリなどカナダ映画界からは寒々しい雰囲気の中で特異な世界観を紡ぐ監督が何人も輩出されているのですが、本作もその系譜に連なる作品として仕上がっています。

特に、透明人間という古典的なSF設定を可能な限り現実的な物語として描いた点や、変貌の過程にドラマを見出しているという点でデヴィッド・クローネンバーグ作品に非常に酷似しているのですが、異形の者の苦悩を描いた『スキャナーズ』や『デッドゾーン』のような雰囲気の醸成には成功していました。序盤のみに限った話ですが。

■支離滅裂なドラマ

本筋に入ると映画は一気に破綻します。経験不足の監督では透明人間に変貌する男の話だけでは行き詰ったのか、急な方向転換が何度もあって何を考えながら映画を見ていいのかが分からなくなってきました。主人公が地元のチンピラの運び屋を引き受ける辺りから「そういう方向性で行くの?」と不安になり、その後には死んだとされていた主人公の父親の話や娘の話までが挿入されて方向転換が止まりません。

そもそも主人公は裏社会と関係があったらしいのだがどんな距離感で付き合っていたのかが不明だったり、運び屋を依頼してきたチンピラは「ブツさえ運んでくれたら、後は好きに遊んでくれていいよ」と結構良い人っぽい感じだったのに、なぜか主人公側からこのチンピラに盾突くような言動をとって無闇に敵を増やしているし、彼が何を考えてるんだかサッパリでした。そもそも後先どうなるか分からない人生で家族との時間を大切にしたいという思いで街に帰って来たのに、なぜその平和を乱しかねないトラブルを自ら呼び込むんだろうかと不思議で仕方ありませんでした。

また大事な娘が誘拐されるに至ってもチンピラとの余計なトラブルを収めに行かないし、誘拐事件の解決後にもチンピラに突き止められているはずの自分の家に娘と一緒に戻って行って、案の定、娘を危険にさらすし、まぁバカで見ていられませんでしたね。

■不安定な世界観

序盤の時点では、透明化は主人公固有の症状で、それゆえに彼は人里離れた場所でウルヴァリンの如く隠遁生活を送っているものと思っていたのですが、中盤にて透明化は彼の血筋だったことが判明し、さらには精神病院や漢方屋の中国人が長年透明人間の研究をしている様子で、より広い範囲で見られる奇病のような扱いとなっていきます。こうなってくると主人公の抱える心の闇や生き辛さの捉え方が相当に変わってくるので、この世界における透明化とは一体どんな現象なのかという説明はしっかりとして欲しいところでした。

また、主人公は透明化を隠して生きているし、元嫁や娘すら透明化の認識は持っていない様子だったのですが、他方で街の若者の溜まり場を提供しているおっさんが主人公から行方不明の娘の居場所を問い詰められた際に「お前と同じ病気の娘な!」とこの一族が抱える奇病を以前から知っていたかのような捨て台詞を吐いているし、また娘の友人も同様の発言をしており、彼らの症状の認識の度合いがあまりにまちまちで、この世界をどう理解していいのかに迷いました。

The Unseen
監督:ジェフ・レドナップ
製作:ジェフ・レドナップ、ケイティ・ウィークリー
脚本:ジェフ・レドナップ
撮影:スティーヴン・マイアー
音楽:ハーロウ・マクファーレン
出演:エイデン・ヤング、カミール・サリヴァン、ジュリア・セーラ・ストーン、ベン・コットン、アリソン・アラヤ
公開:2016年7月17日(カナダ)、2017年8月1日(日)
上映時間:104分
製作国:カナダ

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