(2022年 アメリカ)
世界各国の女性エージェントが集まって巨悪と戦うアクション映画だけど、見せ場の連続なのにワクワクもドキドキもしないという娯楽作の末期のような作品だった。5人の主人公が織りなす割と複雑な見せ場に対し、監督の力量が追い付いていなかったのが原因か。
感想
コロナ禍で公開された大コケアクション大作。
本邦での配信開始時に鑑賞したんだけど、あまりにつまらなくて途中で断念。しばらく放置していたんだけど、Amazonプライムのもうすぐ配信終了作品の一覧にのっていたので、駆け込みで鑑賞した。
世界中のどんなデジタルデバイスでも操れるマクガフィン的装置を巡り、これを入手しようとする国際テロ組織と、阻止しようとする各国諜報機関の攻防戦が繰り広げられるというのが、さっくりとしたあらすじ。
現実離れした超兵器の争奪戦は007をはじめとしたエージェントものの伝統芸能で、基本的なストーリーは意図的に紋切型に徹しているのだろう。
では本作の売りは何かというと、5か国のエージェントが協力して事にあたることと、主人公が全員女性であることだ。
- メイソン(米CIA)/ジェシカ・チャステイン
- マリー(独BND)/ダイアン・クルーガー
- ハディージャ(英MI6)/ルピタ・ニョンゴ
- グラシエラ(コロンビアDNI)/ペネロペ・クルス
- リン(中MINISTRY)/ファン・ビンビン
この華のあるキャスティングはどうだ。
野郎を眺めているよりも目の保養になって最高だった。特にペネロペ・クルスの可愛さには参ってしまった。
ただし彼女らにあったのは華だけで、アクションヒロインとしての説得力には欠けた。線の細い彼女らが、ごっつい男たちと格闘してなぜ勝てるのかという点にまったく説得力がないのだ。
全体として、男性エージェントでも通用する話を女性に置き換えただけなので、こうした点で無理が生じてしまっている。主人公が女性のみであるというユニークな設定をもっと突き詰めて見せ場を構築すればいいのに。
またアクション演出もへたくそだった。
製作・監督・脚本を担当したのは、本業が脚本家であるサイモン・キンバーグ。
『X-MEN』シリーズの脚本を多く書いており、またキャリア初期には『トリプルX ネクスト・レベル』(2005年)、『Mr.&Mrs.スミス』(2005年)、『Black&White/ブラック&ホワイト』(2012年)等、エージェントものを多く執筆してきたので、当ジャンルには精通した人物である。
ただし映画監督としてのキャリアはまだ駆け出しで、大コケした『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019年)でデビューし、本作が監督2作目。
『ダイ・ハード』(1988年)のジョン・マクティアナンや、『ボーン・アルティメイタム』(2007年)のポール・グリーングラスなどを見るに、うまいアクション監督は空間演出に長けているのだが、キンバーグにはその辺りのセンスが壊滅的になかった。
人物同士の位置関係や、戦況における優勢・劣勢がスムーズに伝わってこないので、見せ場はド派手なのに手に汗握らないという、娯楽作の末期みたいな状況となっている。ただ撮ってるだけという。
5人の主人公が同時にアクションを繰り広げるという通常よりも複雑な見せ場を抱えた作品なのだから、アクション演出に精通したベテラン監督に任せるべきだったのだろう。
そして見せ場の質が悪いと、脚本のアラにも目がいきがちになってくる(ここからはネタバレ全開で書きます)。
ジェシカ・チャステインの恋人で同僚のセバスチャン・スタンとその上司がテロリスト側に寝返っていたことが判明するんだけど、彼らがなぜ祖国を裏切ったのかがピンとこないので、ドンデンのためのドンデンにしかなっていない。
その結果、身近な人間に二人も裏切り者がいながら、外部から指摘されるまでその正体に気付けなかったジェシカ・チャステインが間抜けに見えてしまっている。
で、この二人の裏切りを暴いたのは中国エージェントのファン・ビンビンなんだけど、こいつの行動原理も分かったような分からないような・・・
回収したデバイスを闇マーケットのオークションに出展し、各国のテロリストだのエージェントだのを勢揃いさせるのだけど、それで彼女が一体何を達成しようとしていたのかはよく分からない。
結果、敵に隠れ家を知られるわ、実の親を殺されるわとロクなことが起こらなかったのだから、阿呆なことしたなぁとしか。
彼女はデバイスを入手した時点でミッション終了して中国に帰国してれば無傷で目標達成だし、テロ組織の手に渡るかもというリスクもなくなったのに、なぜ無駄な動きをしてしまったのか。
アクション映画として充実していれば、あるいはこれらのアラも「あ~面白かった」で有耶無耶になっていたのかもしれないが、アクションが悪いといろいろ目についてしまうので大変だ。
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