日々のお勤め、ご苦労様です。
私も気が付けば40代で、すっかり良い歳だ。
この年齢になるとプレイヤーとしては安定してきて、部下を持たされる方も多いと思うが、人や組織のマネジメントも一筋縄ではいかず、日々ストレスで心と頭皮をやられているブラザー・シスターも多いのではないだろうか。
しかし悩んでいるのは我々だけではない。映画のヒーロー達だって人のマネジメントには苦労している。そんな管理職の苦労が描かれた映画を紹介したい。
トロイ_ダメ組織の絶対エース
ホメロスの叙事詩『イリアス』に記載されているトロイア戦争を、膨大な製作費とめくるめくオールスターキャストで蘇らせた、THEハリウッド!な超大作。
公開当時、ヒットこそしたものの作品内容には批判が多かったが、近年では批評面でも持ち直してきている。
トロイア戦争は紀元前13世紀頃に起こったギリシア王国連合vsトロイア王国の大戦争であり、かつてはフィクションだと思われていたのだが、シュリーマンによる発掘で史実であることが確認された(高校世界史の知識の受け売り)。
トロイア王国を率いるのはエリック・バナー扮するヘクトル王子。
ヘクトルは文武に長けた名将として広く知れ渡っており、トロイア戦争初期においても華々しい戦果を挙げる。
一方父王の長年の臣下達ときたら、「我が国の城壁は絶対に破られることはない!」と超楽観的なことを主張したり、「今朝、鷲が蛇を掴んで飛び上がるのを見た。これはわが軍勝利の兆候でしょう」と理解不能な戯言を展開したりと、目の前で大戦争が起こっているという認識に欠けるお花畑ばかり。
そしてヘクトルの弟パリス(オーランド・ブルーム)に至っては、ライバルであるギリシア王国連合においても穏健派だったメネラウス王の妃を寝取り、せっかくの和平交渉を台無しにした、イケメンであること以外に何のとりえもない大バカ者。
すなわち、トロイア王国でまともなのはヘクトルただ一人なのである。
対するギリシア王国連合は、ロックスターのようなカリスマ性と勝負強さを併せ持つ武将アキレス(ブラッド・ピット)、権謀術数に長けた総大将アガメムノン王(ブライアン・コックス)、知性と人間味溢れる中間管理職オデュッセウス(ショーン・ビーン)と、人材の層が非常に厚い。
そして当初は有利に進めていたトロイア王国だったが、その後にいくつもの判断ミスを犯し、最終的には滅亡へと至る。
たった一人のマネージャーでは限界がある、上も下もバカだとどうにもならないという、現実世界の厳しさが描かれた歴史超大作である。
ヒート_判断に私情を持ち込んでしまった
クライム・アクションの大傑作にして、マイケル・マン監督の代表作。
ロバート・デ・ニーロ扮するニール・マッコーリーは、大きな案件ばかりを狙う一流の強盗団を率いていたが、ニール本人は一度も警察に尻尾を掴まれたことのないプロ中のプロだった。
緻密な計画と、当初計画が崩れたと判断した瞬間にプランBに移るという決断力の高さがニールの強みだが、アル・パチーノ扮する鬼警部ヴィンセント・ハナに張り付かれたのがケチのつきはじめ。
ヴィンセントは大学院卒で海兵隊上がりという文武両道であり、仕事のためならプライベートを犠牲にすることも厭わないという、こちらもまたプロ中のプロだったのだ。
相手にするとマズい敵が現れたと察したニールは部下達を集め、予定通りに大きなヤマを踏むか、このまま解散するかの意思決定を行う。
ニールは身軽な独身で「30秒フラットで高飛びする」を信条としてきたが、ちょうどこのタイミングで一回り以上若く、美人なのに自己評価が恐ろしく低いという理想的な彼女ができていた。柄にもなく彼女との甘い引退生活を夢見るニール。
さらに悪いことに、ニール達には一つ前のヤマでアテにしていた金も入っていなかった。
こうした諸々から、普通なら30秒フラットで逃げ出すであろう場面であるにも関わらず、ニールは案件に飛び込むことにする。これが運の尽きだった。
ヴィンセントは思いのほか強力なライバルであり、ニール達をどんどん追い詰める。
その果てに起こった大銃撃戦は映画史に残る大迫力で、これはこれで良かったような気もしてくるが、ニール側の物語を考えると、重要な意思決定に私情を挟んでしまったことが失敗だったと言える。
その他にもニールの判断ミスは多々ある↓
- 強奪した無記名債権を持ち主に売りつけるという割と無茶な取引でウィリアム・フィクトナーとトラブっていた
- 銀行強盗当日にメンバーのトレホ(演じるのはダニー・トレホ。役名をつけられていない・・・)が離脱して黄色信号が灯っていたにも関わらず、街で偶然見かけた刑務所仲間を引き入れて計画続行
- チームにとってのリスク要因であるウェイングローの口封じに失敗
- 逃げたウェイングローを追いかけず、必要な対応策を怠っていた
- 事が起こった後は一転してウェイングロー処刑を逃走よりも優先
冷静に振り返るとニールがちゃんとしてれば問題なかったんじゃないかとも思えてくるが、それでも優秀でかっこいい上司に見せるあたりが、稀代の名優ロバート・デ・ニーロの凄味なのだろう。
【傑作】ヒート_刑事ものにして仁侠もの(ネタバレあり・感想・解説)
ディファイアンス_重責に押しつぶされたリーダー
第二次世界大戦下において、ナチスからの迫害を逃れポーランドの森の奥深くに集落を築いた1000人のユダヤ人の物語。
その集落のリーダーになったのが、人目につかない森や裏街道にやたら詳しい密輸業者トゥビア・ビエルスキ(ダニエル・クレイグ)だった。
アウトローのトゥビアが、その反社的な知識やスキルを駆使して同胞を救う!
・・・という激アツなお話にはなっていかないのが、本作の魅力である。とにかくトゥビアはマネジメント面での苦労が絶えない。
森での生活となると物資は常に不足し、全員が飢えや寒さと戦っている。
トゥビアは屈強な男たちと人里に下りて物資を収奪し、それを配給することで細々と集落を維持しているのだが、身を危険に晒している男たちからは「俺らに優先的に物資を回せ」という要求が上がってくる。
自分を特別扱いしろという要求に応えていたら集団の秩序は守れないが、こいつらにヘソを曲げられると集落はより困窮するというジレンマに陥るトゥビア。増長したエースをどう処遇すべきかは、管理職の永遠のテーマである。
また別の場面。こんな極限状態なので妊娠は厳禁としてきたが、その掟に反して若いお姉ちゃんが妊娠してしまう。
確かに彼女はルール違反を犯したので処罰は必要だろう。しかし妊婦さんを処罰していいものか、そんなことをすれば人は自分についてこなくなるのではないか。ルールとモラルの狭間で難しい判断を迫られるのも管理職あるあるだ。
そんなこんなを経て、トゥビアはリーダーとして強く成長する!
・・・というわけでもないのも、本作の魅力だ。
クライマックス、集落の存在はついにナチスに知られるところとなり、ドイツ陸軍から追われる身となる。リーダーとしての采配を求められるトゥビアだが、この土壇場において彼は真っ白になってしまう。
どちらへ逃げるのかと聞いてくる部下の前で意思決定を放棄してしまうトゥビア。映画においてこんなリーダーを見たのは初めてだが、「その辛さ、俺にはよくわかるぜ!」という共感も抱いてしまう。
真っ白になったトゥビアとユダヤ人集落がどうなったのかは映画でご覧になっていただきたいが、マネジメントに完全に失敗してしまった男の物語という、一風変わった伝記映画として、本作をお楽しみいただきたい。
脚色が過ぎると原作者からはクレームが来たそうだが、それはそれとして!
ハート・ロッカー_部下からそっぽ向かれたプレイングマネージャー
言わずと知れたキャスリン・ビグロー監督のアカデミー賞受賞作。
イラク戦争真っ只中の2004年、殉死したガイ・ピアースの後任として、ジェレミー・レナー扮するウィリアム・ジェームズ軍曹が中隊長として赴任する。
ジェームズは、プレイヤーとしては優秀だが組織を持たされたのは初めて。2名の部下たちは、そんな未熟なマネージャーに振り回されることとなる。
なまじ優秀な分、ジェームズの行動はしばしば部下たちを置いてけぼりにする。この辺りはプレイングマネージャーあるあるだろう。
苦楽を共にする中で、ジェームズと部下たちが心通じ合わせる瞬間もあるにはあった。こうしてジェームズはリーダーとして成長し、チームは固い結束で結ばれることに・・・ならないのが本作の面白いところ。
当初は任務として向き合っていたイラク戦争において、ジェームズは個人的な善悪を感じ始め、正しいことのために行動しようとする。
しかしそうした善意に根付く行動はことごとく失敗し、部下たちからは恨み言を言われ続ける。
ついに隊が崩壊した後、別れ際の部下から「お前と離れられてせいせいするぜ!」という捨て台詞まで吐かれるのだから報われない。
私はリーダーとしてチームを壊したことが二度ほどあるので(その節はごめんね)、目標達成に躍起になりすぎる余り、部下を置いてけぼりにしてしまうジェームズの心境は死ぬほど理解できてしまう。
こちらもまた機能不全を起こしたリーダー像の作品であるが、上記の『ディファイアンス』と同年に製作されたのは偶然ではないだろう。
正義のために起こした対テロ戦争で、アメリカは苦汁を舐めた。
歓迎されるはずの戦争で、救ったはずの人々から罵られ、自らも深く傷ついた。
そんな世界警察の悩みが色濃く反映されたのが本作なのである。
ワンス・アンド・フォーエバー_部下の失敗をカバーするマネージャー
ここまでマネジメントの失敗事例っぽい映画ばかり紹介してきたので、最後は成功事例を取り上げたい。
1965年11月、アメリカ陸軍と北ベトナム軍の間で発生した大規模な軍事衝突、いわゆる「イア・ドラン渓谷の戦い」を描いた戦争巨編。
アメリカ軍側は『地獄の黙示録』のキルゴア中佐も所属した由緒正しき米陸軍第1騎兵師団である。
そのリーダー ハル・ムーア中佐に扮するのは、後の人種差別発言やDV疑惑で随分と男を下げたものの、本作製作当時は男の中の男として通っていたメル・ギブソン。
メル隊長は家父長制が服を着て歩いているかのような男であり、公私を越えたサポートをして部下たちのハートを鷲掴みにする。
そんな部隊に出征命令が下り、彼らはイア・ドラン渓谷に降り立つが、そこでは北ベトナム軍の大部隊が待ち伏せをしていた。
ほどなくして両軍の間で凄まじい銃撃戦が開始されるが、銃弾飛び交う戦場にあってもメル隊長は一切怯まず、腹心である上級曹長とは立ち話という余裕を見せる。
そんなメル隊長をもってしても戦況は厳しく、米軍は徐々に追い込まれていき、ついに投入可能な全航空機による総攻撃「ブロークン・アロー」を決断するに至る。
このブロークン・アロー、味方の安全を考慮しないという凄まじい性質のものであり、歴史上、このコールサインが下されたのはイア・ドラン渓谷の戦いでの一度きりのことらしい。
地上部隊は上空の航空機に対してナパーム投下地点のナビゲートをするが、ある部下がミスって味方を誤爆してしまう。
目の前に広がる阿鼻叫喚の図と、完全に動揺する部下。
すかさずメル隊長は「今のは忘れろ!味方を救うため指示を出し続けろ!」と部下に発破をかけ、攻撃を続行させる。
この発破で部下はナビゲートを続行し、結果敵を弾き返すに至るが、動揺する部下に対して「今の失敗は忘れろ!」と言える度量こそが、土壇場のリーダーシップに求められるものだったりする。
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