ボーダーライン: ソルジャーズ・デイ_後半失速する【6点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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エージェント・殺し屋
エージェント・殺し屋

(2017年 アメリカ)
前半は社会派アクションとしてよく考えられていたし、見せ場の出来も良かったのですが、後半のトーンダウンがいただけませんでした。本作には更なる続編の構想があるらしく、そのために後半でネタが温存されたのかななんて気もしますが、そんなペース配分などせず、本作一本でやりきって欲しいところでした。

© 2017 – Lionsgate

あらすじ

アメリカ国内で無差別爆破テロが起こり、大勢の一般市民が犠牲となった。テロリストの入国経路を調査したCIAは、ムスリム系のテロリストがメキシコ国境から不法入国していることを突き止め、不法入国ビジネスを行っているメキシコの麻薬カルテルを潰すことこそが、アメリカの安全保障にとって重要との認識を持つ。CIAエージェント マット(ジョシュ・ブローリン)とフリーの殺し屋 アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)は、他のカルテルの仕業と見せかけて麻薬カルテルの娘を誘拐し、カルテル同士の戦争を起こさせるという非公式作戦を開始する。

スタッフ・キャスト

『ゴモラ』のステファノ・ソッリマ監督のハリウッド進出作

1966年ローマ出身。ポリスアクション『バスターズ』(2012年)がモスクワ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞、ノワール・アクション『暗黒街』(2015年)がイタリア・アカデミー賞で5部門ノミネート。

テレビシリーズ『ゴモラ』(2014-2016年)も高評価を獲得しており、クライムアクションの分野で一目置かれていたステファノ・ソッリマ監督が、本作でハリウッドデビューしています。

次回作はトム・クランシー原作の『ウィズアウト・リモース』(2021年)であり、本作でも組んだテイラー・シェリダンが脚色を担当しています。

なお、本作の監督は当初ジェレミー・ソルニアが考えられていたのですが、スケジュールが合わずに降板。こちらも『ブルー・リベンジ』(2013年)や『グリーンルーム』(2015年)といった素晴らしい映画を撮ってきた人物だけに、ジェレミー・ソルニア版『ボーダーライン』もぜひ見てみたいところでした。

テイラー・シェリダンが脚本を続投

1970年生まれ。元々俳優で『CSI』や『サンズ・オブ・アナーキー』といった人気ドラマに出演し、また映画ではジェリー・ブラッカイマー製作の『ホース・ソルジャー』に出ていました。

ただしこの人を世界的に有名にしたのは俳優業ではなく脚本家業であり、初クレジットの『ボーダーライン』(2015年)でいきなり高評価を獲得し、『最後の追跡』(2016年)はその年のアカデミー賞で作品賞・脚本賞・助演男優賞・編集賞にノミネートされました。

そして監督デビュー作の『ウインド・リバー』(2017年)も高評価と、現在のハリウッドでもっとも勢いのある人材の一人となっています。

登場人物

ラテン・アメリカ

  • アレハンドロ・ギリック(ベニチオ・デル・トロ):元はコロンビアの検事だったが、麻薬カルテルによって妻と娘を殺された過去を持つ。本作にて、その娘はろうあ者だったことが判明する。現在はフリーランスの殺し屋となっているが、過去の恨みから麻薬カルテル関係の殺しは優先的に引き受けている様子で、メキシコの麻薬カルテルを潰すという今回のミッションも当然引き受けた。
  • イザベル・レイエス(イザベラ・モナー):メキシコの麻薬カルテルトップの娘で、高校生。学校で殴り合いの喧嘩をするほど血の気が多い。今回のCIAの作戦にあたってアレハンドロに誘拐された。

アメリカ合衆国

  • マット・グレイヴァー(ジョシュ・ブローリン):汚れ仕事を担当しているCIAエージェント。米国内で起こった無差別爆破テロの犯人の足跡を辿ってソマリアにまで行ったところ、ムスリム系のテロリストはメキシコを経由して米国に不法入国している事実に行き当たり、アメリカの安全保障のためにメキシコの麻薬カルテルを潰すという作戦を国防長官に提案した。
  • ジェームズ・ライリー(マシュー・モディーン):アメリカ国防長官。米国内で起こった無差別爆破テロに対して断固たる措置を国民に対して約束。その後、マットからメキシコの麻薬カルテルを叩くことでテロリストの入国経路を潰すという非公式作戦にゴーサインを出した。
  • シンシア・フォード(キャサリン・キーナー):マットの上司の女性。現場主義のマットとは対照的にデスクワークで出世したような人物で、現場都合をあまり考えない。
  • スティーヴン・フォーシング(ジェフリー・ドノヴァン):CIAエージェントで、マットと常に行動を共にしている。メガネにチョビヒゲという岩井ジョニ男みたいな見た目とは裏腹に戦闘スキルは高く、現場で信頼できる男の一人。
スティーヴン
岩井ジョニ男
©浅井企画

感想

エミリー・ブラント不在でより硬派な作風に

前作『ボーダーライン』(2015年)は合衆国とメキシコ麻薬カルテルとの壮絶な戦いを描いた作品であり、その前線に立つ米軍やCIAは銃撃・殺人・拷問と何でもあり状態で、ほぼ常軌を失った状態にありました。

そんな異常な戦場と観客との間の橋渡し役だったのがエミリー・ブラント扮するFBI捜査官ケイトであり、彼女がCIA捜査官マットに「なんてことするのよ!」なんて食ってかかることで話が進んでいきました。

続編の製作にあたり、前作から引き続き担当する脚本家のテイラー・シェリダンと、クライムアクションの経験豊富な監督ステファノ・ソリマは、現場の紹介はすでに終わっているのだからケイトの存在は不要との考えで一致したようです。

これは英断だったように思います。なぜなら、前作の時点でケイトは結構ウザかったから。

戦い方とは敵に応じて変わるものであり、メキシコの麻薬カルテルという極めて残忍で、しかもメキシコ国内の警察や政治家までを自由に操ってルール無用になった組織が相手ならば、アメリカ側も同等の手段を使わなければ勝てないはず。なのに、いちいち普通の犯罪捜査しか知らない人間の立場で意見を言ってくるので、見ていてストレスでした。

ケイトを不在にした本作前半のスピード感は気持ちの良いほどでした。

序盤の爆弾テロに憤った米国民に対して、マシュー・モディーン扮する国防長官は徹底した対応を約束。CIAのマットに作戦概要を説明させるや、「よし、やれ」とスピード決裁が下されます。

もちろん、これを正義の鉄槌だと信じているわけではなく、自国民の命を守るためには自分の手を血で染めることも必要なのだという覚悟のもとで下された決断であり、ここで薄甘い正論を言う人間がいなかったことは、硬派な空気をより高めていました。

相変わらずの見せ場の面白さ

全作と同様に見せ場はハイクォリティ。

アメリカの車両がメキシコ領内に入っていき、対象物を確保。しかし敵地のど真ん中なので誰が敵か分からない、いつ攻撃を受けるか分からないという緊張感があって、案の定、銃撃戦が始まるというこのシリーズの王道パターンなのですが、この流れはやっぱり盛り上がりますね。

加えて、撮影監督がアーティスティックな傾向のある前作のロジャー・ディーキンスから『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのダリウス・ウォルスキーにバトンタッチしたことで、娯楽性はより高まったように思います。

飛び回る武装ヘリ、列をなして進む軍事車両、派手な銃撃戦と、かっこいい見せ場の連続にテンションが上がりました。

後半のトーンダウンが残念

しかしCIAの現場部隊が麻薬組織に買収されたメキシコ警察と銃撃戦をしてしまい、その様子がフォックスニュースで流されたことと、国際テロリストがメキシコ経由で入国しているというそもそもの推測が誤りであり、爆弾魔は米国内で生み出されたテロリストだったことが判明して、作戦は打ち切りとなります。

これを受けてCIAは、アレハンドロとイザベルを見捨てることを決定。

二人は危険なメキシコ領土からアメリカ国境を自力で目指すこととなり、ここから映画は不正に国境を越える者を取り締まる側の物語から、主人公達がどうやって国境を越えるのかという正反対の物語へと切り替わります。

こうした視点の切り替えは興味深く感じたし、その過程では、亡くなった自分の娘とイザベルを同一視したアレハンドロが、殺人スキルを全開にしてイザベルを守り切るという激アツな展開を期待したのですが、そのどちらの点でもうまくまとめられていないかったことが、作品のボトルネックになっています。

まずアレハンドロが不法に国境を越える側になるという点については、アメリカ政府やメキシコ政府が力を入れている取り締まりがアレハンドロの行く手を阻んだり、逆に取り締まる側の手の内を知っているからこそアレハンドロがうまく裏をかくような、この構図から当然に想定される展開がなく、何とも味気ないことになっています。

アレハンドロの殺人スキルに至っては、ビックリするほど行使されませんでしたね。地元のチンピラに銃を突き付けられて言いなりになっているだけで、反撃などほとんどしません。あれだけの殺人マシーンだった男がここまで大人しくなるのかとガッカリでした。

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