ワイルドバンチ_初老が大暴れ【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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中世・近代
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(1969年 アメリカ)
時代に取り残された初老のアウトローたちが何とか生き延びようと七転八倒した末に、自らの選択で華々しく散るという骨太の西部劇。状況に流されているようで、節目節目では自分たちで判断しているワイルドバンチがカッコ良すぎる。

作品概要

サム・ペキンパー監督作品

本作の共同脚本・監督は「血まみれのサム」の異名を持つサム・ペキンパー。

ドン・シーゲルの元で修行を積み、『荒野のガンマン』(1961年)で監督デビュー、『昼下がりの決斗』(1962年)で評価された。

しかし『ダンディー少佐』(1962年)のファイナルカット権を巡ってプロデューサーと揉め、続いてスティーヴ・マックィーン主演の『シンシナティ・キッド』(1965年)の監督を下ろされたことから、使いづらい監督との悪評を受けて数年間はハリウッドを干されていた。

そんな不遇の時期、ウォロン・グリーンとロイ・N・シックナーが執筆した本作『ワイルドバンチ』の初稿をペキンパーが手直しし、ワーナーから執筆を依頼されていた別の脚本を納品した際に、この脚本も当時のワーナー副社長に提示したことが、企画の始まりだった。

『明日に向かって撃て!』(1969年)との関係

ワイルドバンチとは19世紀末から20世紀初頭に実在した強盗団であり、有名なアウトローであるブッチ・キャシディ(1866-1908年)らが中心となって設立された。

1967年、脚本家のウィリアム・ゴールドマンはワイルドバンチを離れた後のブッチ・キャシディとサンダンス・キッドの物語を執筆し、フォックスがこれを購入。

ゴールドマンとは『動く標的』(1966年)でも組んだポール・ニューマンが主演に決定し、スティーブ・マックィーン共演で(後に降板し、無名だったロバート・レッドフォードに変更)、『明日に向かって撃て!』(1969年)として製作されることになった。

これを知ったワーナーは、対抗するために本作『ワイルドバンチ』の製作にゴーサインを出した。なお、本作の年代設定はブッチ・キャシディが死んだあとの1913年となっている。

両作の興行成績であるが、『明日に向かって撃て!』の興行成績が1億230万ドル。これは2020年の貨幣価値に換算すると6億6,000万ドルという『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2019年)並みのとんでもない売上で、1969年の年間興行成績No.1となった。

一方『ワイルドバンチ』は1,100万ドルで年間17位という平凡なヒットに終わった。

次に批評面ですが、本作はその年のアカデミー賞の脚本賞と作曲賞にノミネートされたものの、いずれも受賞したのは『明日に向かって撃て!』だった。

劇場版とディレクターズ・カット版の違い

本作にはいくつかのバージョンが存在しているため、その違いについても備忘的に記しておきたい。

まず問題になったのが激しい暴力描写で、このままでは成人指定にされるということから、終盤でエンジェルが引きずられる場面と機関銃掃射の場面が10秒ほど短縮された。

次に問題になったのが本編の長さで、全米公開に当たってプロデューサーのフィル・フェルドマンの手で10分ほど短縮された。その際に削除されたのが以下の場面。

  • ソーントンが捕らえられる過程の回想
  • パイクが恋人を殺され、自身も足を負傷した場面の回想
  • クレイジー・リーがサイクスの孫だったことが明かされるパイクとの会話
  • マパッチ将軍の軍隊がパンチョ・ビラの襲撃を受ける場面
  • 敗走後のマパッチの軍隊の描写
  • エンジェルの村での宴会が1分ほど短い

これらのカットにペキンパーは猛反発しており、1995年にすべてを復元したディレクターズ・カット版がリリース。以降のソフトはすべてこのバージョンであるため、逆に現在では短縮された劇場公開版が希少化している。

DVDやBlu-rayでのリリース実績はなく、劇場公開版を見たい場合に1995年以前にリリースされた中古レーザーディスクを探す必要がある。かつての市場流通量は多かったらしく、ヤフオク!では500円程度で買えるようだ。

リメイク企画について

2010年頃からリメイク企画が数度に渡って立ち上がった。

まずは2011年1月に『ペイバック』(1999年)のブライアン・ヘルゲランドが脚本を執筆中であることが公表された。

監督には、『マイ・ボディガード』(2004年)『サブウェイ123』(2009年)などでヘルゲランドと組んだトニー・スコットが予定されていたが、2012年にスコットが自殺したことから、企画は立ち消えとなった。

2013年5月にウィル・スミス主演で進行中と発表されたが、このバージョンは現代を舞台とし、メキシコの麻薬カルテルとDEA捜査官の話になる予定だった。ここまでくると、もはや『ワイルドバンチ』とは言えないような気が…。

2015年には、ロバート・デ・ニーロ出演のボクシング映画『ハンズ・オブ・ストーン』(2016年)のジョナサン・ヤクボウィッツが脚本・監督を務め、メキシコの麻薬カルテルとCIAの話になると報道された。ヤクボウィッツの脚本はブライアン・ヘルゲランドとデヴィッド・エアーによる推敲を受けたとのこ。

2018年にはメル・ギブソンが共同脚本及び監督することが発表された。メルギブは現代劇に変更するという従前のリメイク企画を踏襲せず、オリジナルと同じ舞台設定でプロットも1969年版を引き継ぐとコメント。低予算SF映画『L.I.N.X.』(2000年)を監督したブライアン・バグビーと共に脚本を執筆した。

マイケル・ファスベンダー、ピーター・ディンクレイジ、ジェイミー・フォックスが出演するという噂もあったのだが、コロナ禍以降の続報がないことが気になる。

感想

初老の強盗団

冒頭、軍服で偽装したワイルドバンチの面々が映し出されるのだが、アウトローと言うにはちぃと厳しいほどのしわっしわの顔をしている。

リーダーのパイクを演じるウィリアム・ホールデンは51歳、その女房役ダッチを演じるアーネスト・ボーグナインは52歳。今でこそ50代のブラッド・ピットがイケメン扱いだったり、還暦のトム・クルーズがアクションをやったりしているが、1960年代の50代は立派な初老である。

彼らは大金が運び込まれてくる鉄道事務所を襲おうとしているのだが、チームは腕利きらしいジジィと、アブなそうな若いもんとで構成されており、何だかバランスの悪い組織に見えてくる。

体力の落ちたジジィだけでは実行できない計画だし、かと言って有能なミドルも見つからなかったので、「若くて動ければいい」くらいの低い採用基準で人数合わせをしたような。

ただし今回の案件は彼らを追っている鉄道会社の罠で、現場では賞金稼ぎ達に待ち伏せされていた。大銃撃戦で若いもん達は死亡、初老たちは命からがら退散。途中で力尽きた仲間を埋葬する余裕もなく、ワイルドバンチはなかなか無様なところを見せる。

彼らは落ち目なのだ。

当人達にもその自覚があるらしく、今回のタタキを引退資金にしたいと考えていたのだが、その目論見は外れる格好となった。

その後、メキシコに逃亡したワイルドバンチはメキシコ政府軍のマパッチ将軍と会い、高額の成功報酬と引き換えにアメリカの軍用列車を襲うことにする。

今回は確かな情報源だったので作戦は成功し、初老たちは実に良い笑顔をするのだが、逆にそれが痛々しく感じられたりもする。今まで本当に失敗続きだったんだろうなという事情が透けて見えてくるから。

兎にも角にも彼らは念願の引退資金の目途を立てたのだった。ここで上がれば見事な引き際だ。

引退か死か

ワイルドバンチは報酬を受け取るためにマパッチ将軍の前に出ていくのだが、そこで仲間の一人エンジェルが反政府ゲリラに武器を横流ししたことがバレてしまう。

「エンジェルは置いて行け。他の奴らは報酬を受け取って消えろ」と言うマパッチに対してワイルドバンチの面々の表情が一瞬こわ張り、場に緊張が走るのだが、すぐに笑顔に戻って「いいっす、いいっす、そんな奴。友だちでも何でもないので好きにしちゃってください」と言って退散する。

マパッチの軍隊200人の目がすべてこちらに向いている状況で暴れたところで、一瞬で全員射殺されて終わり。ここはひとまず引くしかないと即座に判断したわけだが、この辺りの喧嘩慣れした感じは流石だった。修羅場を掻い潜ってきた者という感じがする。

そうは言っても引退資金を得たので本当にエンジェルを置いて退散してしまう道もあるにはあったはずなんだけど、結局彼らはそうしない。

娼館で今生との別れを告げてからマパッチの陣地へと殴り込みをかけるのだが、この時の彼らの心境は「仲間を置いて行けない」だけではなかったような気がする。

それまで漠然とした目標だった引退が現実的になったことで楽観的なイメージを持てなくなり、ここで華々しく散るのが良いという判断があったのではないかと。

言葉を使わず視線だけでコミュニケーションを交わし、「やっぱお前らも同じことを考えてたよな」みたい顔をするアーネスト・ボーグナインの演技は最高だった。

死の舞踏

かくしてクライマックスへと雪崩れ込んでいくのだが、ここでも本作独特の間があるのが印象的だった。

マパッチはエンジェルを解放すると見せかけて射殺し、怒ったパイクはマパッチの心臓を撃ち抜く。ここから軍隊との大銃撃戦が始まるのかと思いきや、 リーダーが射殺されるという想定外のことでその場の兵士達は動けなり、場を静寂が包み込む。

直後、「やっちゃうぜ、いいな?いいな?」と仲間に目配せをしてから、パイクが号砲のような一発をズドンと撃ち込む。

あのまま後ずさりすれば逃げられたような気もしただけに、ワイルドバンチ自らが最後の決戦の火ぶたを切って落としたという辺りが印象的だった。

そして、ここから始まる銃撃戦は現在の目で見ても壮絶の一言。

大量の銃弾が飛び交うクライマックスを『俺たちに明日はない』(1967年)に先取りされたことを常々悔しがっていたペキンパーは、あれを越える銃撃戦をと言わんばかりに膨大な量の火薬と血糊を使った銃撃戦を構築。

そして「死の舞踏」とも言われたスローモーションを用いる独特の映像表現が、男たちの散り際を容赦なく盛り上げる。これには大変な見応えがあった。

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