ナルコス:メキシコ編(シーズン3)_シリーズで一番つまらない【5点/10点満点中】

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実録もの
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(2021年 アメリカ)
大好きなシリーズなのですが、本シーズンではサブプロットを増やしすぎで勢いが生まれていないし、見どころであるナルコ(密売人)達の成り上がり物語にも魅力がなくなっており、シリーズで最低の出来だったと言えます。このままジリ貧になる前に打ち切った製作者たちの判断は正しかったかなと。

登場人物

群雄割拠状態だったプラサと呼ばれるメキシコの麻薬密売組織を統合し、強力化したミゲル・アンヘル・フェリクス・ガジャルド(ディエゴ・ルナ)が前シーズンラストで逮捕され、4つのカルテルに分割された時点より本作はスタートします。

4大カルテルの指導者達

アマド・カリージョ・フエンテス(フアレス・カルテル)

第一話では並レベルの運び屋にとどまっていたが、レボジョ将軍に逮捕されて3か月の刑務所暮らしを送り、出所後に娘の死を知らされたことで、娘の死に目にも会えない自分の半端な生き方を悔いる。

丁度その頃、大物政治家ハンク・ゴンザレスから辺鄙なフアレスの土地が欲しいとの要望を受けたことから、1994年1月に発効したNAFTA(北米自由協定)の影響でフアレスが国際物流の要所となろうとしていることに気付き、縄張りをドラッグ密輸の一大拠点にすることを画策する。

ハンクから政治的なバックアップを取り付け、またコロンビアのカリ・カルテルとの連携によりコカイン供給ルートも整備したことから、世界最大の密売人にまで成り上がる。

アレジャノ兄弟(ティフアナ・カルテル)

サンディエゴに接しているという地政学上のメリットを最大限に生かし、フェリクス収監後の覇者になっていた。また財力を生かして政界や法曹界とも結びつき我が世の春を謳歌していたが、シナロア・カルテルとの抗争がケチの付き始め。

財力でも兵力でも勝るティフアナは終始シナロアを圧倒していたものの、空港での銃撃戦で枢機卿を含む大勢の市民を巻き沿いにしたことから国民の怒りを買い、本格的な包囲網を敷かれるに至る。

エル・チャポ(シナロア・カルテル)

4大カルテルで唯一、アメリカ国境を持っておらず、ティフアナに払う通行税に苦しめられていた。このままではジリ貧だと焦ったエル・チャポは国境ルートを奪うべくティフアナのアレジャノ兄弟に奇襲をかけたが、失敗。

逆に怒り狂った兄弟に追われる身となり、その過程でアレジャノ兄弟が起こした銃撃戦において、どちらかと言えば被害者側であったにもかかわらず、首謀者の一人と見られるという不運な扱いを受けた。

銃撃戦の件で刑務所に収監されたが、そこでドン・ネトの指導を受けてカルテルを遠隔操作で動かす術を身に着け、刑務所内からカルテルを再興させる。

フアン・ゲラ(ガルフ・カルテル)

タヌキ親父ぶりでフェリクスを翻弄したシーズン2での栄華も今は昔、大病をやったこともあって衰退気味。本シーズンでは数秒しか出番がない。

カルテルを追う者達

ウォルト・ブレスリン(DEA捜査官)

シリーズ通しての視点人物。

DEAエルパソ支局勤務だが、フアレス・カルテルをターゲットにした作戦が失敗したこともあって仕事のやりがいを一時的に見失い、奥さんの転職に付き合ってシカゴ支局への異動を申し出る。

異動が決まった折、アレジャノ兄弟が空港での銃撃戦を起こし、それまで足を引っ張る側だったメキシコ政府が本格的な麻薬密売業者摘発に乗り出したことから、異動願を翻してティフアナでの合同作戦に名乗りを上げる。

レボジョ将軍(メキシコ軍)

空港での銃撃事件により重い腰を上げたメキシコ政府がティフアナに派遣した将軍。第一話でアマドを逮捕した人物であり、押収した麻薬も金もその場で燃やすことで買収には乗らないことを示した高潔な人物。

…のはずだが、『トラフィック』(2000年)のサラザール将軍のモデルになった人物なので、その本性はお察しの通り。

アンドレア(ティフアナの地元紙”ラ・ボス”の記者)

本シーズンのナレーター。

地元のティフアナ・カルテルへの潜入取材によって、カルテルと政界や法曹界の癒着体質を突き止め、それを記事にした結果、テロの標的となる。

それでも諦めず不振な金回りを探り、フアレス・カルテルの金が大物政治家ハンク・ゴンザレスに流れていることを突き止める。

ビクトル(フアレスの元警官)

元は正義感のない凡庸な警察官だったが、失踪した姪を探してほしいという女性から賄賂を受け取り、形ばかりの捜査を始めたところ、フアレスで若い女性が相次いで殺害されており、捜査もされず放置されている状況を知る。

発見した遺体に残ったDNAの検査をしたいが、地元警察では不可能であったことからDEAに接触を図り、麻薬密売情報の提供と引き換えにDNA検査をして欲しいとの要望をする。

その後人員整理で警察を解雇され、アマドの弟ビセンテの店の用心棒となったが、女性失踪事件の捜査は継続する。

その他

パチョ(カリ・カルテル)

パブロ・エスコバルの死によって麻薬ビジネスの覇権を握ったコロンビア カリ・カルテルの流通責任者。

アマドと個人的に親しいことからフアレス・カルテルへのコカイン供給に積極的であり、他の幹部に対してもアマドを推薦して、カリとフアレスの同盟を実現させた。

マヨ(フリーの密売人)

シナロア出身のフリーの運び屋であり、ビジネス面ではティフアナ・カルテルと懇意にしていた。

優秀だったことからシナロア、ティフアナの両カルテルから自陣営への参画を打診されていたが、「自分のボスは自分でありたい」を信条にフリーの立場を守ってきた。

しかし抗争により両組織が傷ついたタイミングでシナロア・カルテルへの在籍を決意し、獄中のエル・チャポからの指示の実行者として優秀なところを見せ、シナロア・カルテルの再興に貢献する。

アレックス(ティフアナ・カルテルの若者)

ティフアナの富裕層出身だが、実兄からの勧めもあってティフアナ・カルテルで小遣い稼ぎをするようになり、本来の気質とは無関係に犯罪者になってしまう。

カルテル討伐を始めたメキシコ軍に捕まり、違法な形で収監されて拷問を受けるが、隣町サンディエゴ出身の二重国籍者であることが判明し、アメリカ人としての保護の対象となる。

感想

複線化しすぎで勢いがない

本シーズンはナルコスシリーズにおける異色作であると言えます。

これまでのシリーズは麻薬王とDEA捜査官の二つの視点から描かれていたのですが、本作においては、

  • ティフアナの女性新聞記者アンドレア
  • 女性失踪事件を追うフアレスの元警官ビクトル
  • ティフアナ・カルテルの構成員として厳しい立場に置かれた高校生アレックス

これら三者の視点が加わっており、物語はかつてないほどの複線化が図られています。

歴代、DEA捜査官がナレーションだった中で、本作では新聞記者アンドレアがナレーションを務めるという変更もなされているし。

シリーズのマンネリを解消するための策だったと言えますが、果たしてこれが功を奏したかと言われるとそういうわけでもなく、テコ入れ要素がことごとく不発に終わっています。

新聞記者アンドレは最終的には大金星を挙げることとなるのですが、中間プロセスでは本筋である麻薬捜査との連携がイマイチうまくいっておらず、最終話を除いてはほとんど独立した物語となっているので、全体の勢いを奪う方向に作用しています。

それでも本筋との関連性があるだけマシで、フアレスの警察官ビクトルに至っては、ほとんど本筋に影響を及ぼしていません。

彼はフアレスのフェミサイドに辿り着き、それはそれで意義のあるテーマだとは言えるのですが、麻薬王の摘発という本筋とは無縁であることから、ほぼ完全に独立した物語となっています。

唯一、ティフアナの高校生アレックスのエピソードだけは本筋との関連性をしっかりと持っているのですが、富裕層の出身で金に困っているでもないアレックスがカルテルに絡んで自滅する様は当然の成り行きに見えてしまい、あまり感じるものがありませんでした。

ドラッグに関わっておきながら、いざ逮捕されると「拷問しないで」とお願いするのも、なんか違うような気がするし。そういうハードな世界に自分の意思で関わってしまったのだから、これはもう受け入れるしかない運命であり、彼を可哀そうだとは感じませんでしたね。

ピカレスクロマンとしての魅力が減衰

では本シーズンの本筋って一体何なのって言うと、ティフアナvsシナロアの抗争と、それを脇目に見ながら漁夫の利を得る形で勢力を伸ばしていくフアレスのパワーゲームだろうと思います。

特にティフアナの陰に隠れがちだったフアレス・カルテルを最強化していくアマドの物語が本シーズンの主軸だったと言えます。

実際、アマドの登場場面は視点人物であるDEAのブレスリン捜査官の次に多いのですが、ギラギラとした麻薬王がのし上がり、行き過ぎた成功から周囲をドン引きさせ、そのうち自分自身も欲望に蝕まれておかしくなっていくという、この手の犯罪ドラマの王道をおそらくは意図的に外した展開には、コレジャナイ感もありました。

アマドは娘の死を悼み、キューバ人の彼女との穏やかな生活を夢見る理想的な人格を持つ男として描かれており、できれば彼女と二人の時間を過ごしたいのだが、携帯電話によってビジネスに引き戻されるという描写もあります。

またビジネスにおいては血みどろの騙し合いが繰り広げられてきた従前シリーズとは一線を画し、カリ・カルテルのパチョとの熱い信頼関係と友情が描かれています。

終盤で捜査機関に追い立てられてもパブロ・エスコバルのような狂った暴れ方などせず、『ヒート』(1995年)のロバート・デ・ニーロのように、彼女との安住の地を目指すどこまでもクールな犯罪者として描かれ、どこのヒーローですかと言いたくなるほどの破格の待遇を受けます。

ただ、ナルコスに私が期待するのはアンチ・ヒーローの武勇伝であり、常人の理解を遥かに超えるレベルで暴れまわるモンスター達の醜態なのですが、本シーズンは美しくかっこよくまとめすぎで盛り上がりに欠けましたね。

加えて本シリーズの特色だったえげつない暴力も鳴りを潜めており、人が死ぬ場面ではほぼ銃が使われていて、打撃をメインとした見るからに痛そうな場面が減ったことも、パンチ不足につながっています。

『ナルコス』シーズン1が始まった頃は、テレビじゃないので規制がないことがNetflixの売りでしたが、全世界の視聴者数が1億7000万人ともいわれる今では社会的責任を負い、おいそれと暴力を描けなくなったのかなという寂しさもありますね。

本シリーズはここで打ち止めのようですが、最終シーズンがこの迷走ぶりでは、本格的にジリ貧になる前にやめておいて正解だったと言えます。

エル・チャポことホアキン・グスマンのエピソードも残ってるっちゃ残ってるのですが、たぶんパブロ・エスコバルを描いた頃と同じような話の暴力抜きみたいな生ぬるい仕上がりにしかならないだろうし。

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