その住人たちは_中年男の就活が切ない【6点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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(2020年 スペイン)
よくあるマイホーム乗っ取りものの一種ではあるのですが、被害者目線で描かれることが圧倒的に多いこのジャンルにおいて、加害者目線ということが本作の新機軸です。その成果は序盤部分で遺憾なく発揮されており、仕事に失敗した中年男の残酷物語として実によくできています。しかしドラマをどう発展させるのか、どう終わらせるのかで失敗しており、全体としては凡庸な作品に留まっています。

©Netflix

あらすじ

広告会社の元役員であるハビエル(ハビエル・グティエレス)は求職中だが、職探しは難航しそれまで暮らしていた高級マンションから安い集合住宅へと引っ越す。かつての生活を忘れられないハビエルは手元の合鍵を使って高級マンションへの出入りを続けており、新しい住人であるトマスとララ夫婦とも、自らの身元を偽って関係を構築する。そのうちハビエルは、トマスを陥れることを思い付く。

スタッフ・キャスト

監督・脚本はデヴィッド&アレックス・パストール

バルセロナ出身の兄弟監督。致死率100%(!)のウィルスが蔓延する世界で感染を免れた若者達がグダグダのサバイバル劇を繰り広げる『フェーズ6』(2009年)、パンデミックで建物の外に出られなくなったので下水道を歩いて恋人に会いに行く『ラスト・デイズ』(2013年)と、コロナ・ウィルス騒動を先取りしたかのような映画を撮っています。

加えてライアン・レイノルズ主演の『セルフレス/覚醒した記憶』(2015年)の脚本も書いており、一貫してSFドラマを得意としてきた兄弟です。本作はSFではありませんが。

セルフレス/覚醒した記憶【8点/10点満点中_B級を越えたB級映画】

主演はゴヤ賞受賞のハビエル・グティエレス

1971年スペイン出身。2000年頃からテレビドラマに出演するようになり、その後映画にも出演するようになった俳優で、『マーシュランド』(2014年)でゴヤ賞主演男優賞受賞。また『オリーブの樹は呼んでいる』(2017年)でゴヤ賞助演男優賞ノミネート。

マイケル・ファスベンダー主演のハリウッド大作『アサシン クリード』(2016年)にも小さな役で出演しています。本作と同じNetflix作品では『嵐の中で』(2018年)にも出演。

登場人物

  • ハビエル(ハビエル・グティエレス):広告代理店の元役員で、スペインで誰もが知る広告を手掛けた実績も持つ。何らかの理由で古巣をクビにされて現在求職中だが、転職活動はうまくいかずここ1年は無職。
  • マルガ:ハビエルの妻。落ちぶれたハビエルを見捨てることなく、「こんなに高い家に住む必要はないわよ」と言って家計負担を軽くしようとしたり、無職の夫に代わって働きに出たりする良妻。ハビエルの異常行動に気付いている。
  • トマス:ハビエルが転居した後の高級マンションの住人。若くして大手運送会社の副社長を務め、奥さんと娘に恵まれた一見すると非の打ちどころのない人生を送っているが、かつてはアルコール依存症に苦しみ、酒気帯び運転で妻子に怪我をさせたこともある。現在でも依存症患者が集まるグループセラピーに通っている。
  • ララ:トマスの妻で、トマスが務める運送会社の社長令嬢。夫は仕事ばかりで家庭に非協力的だという不満を抱えている。

感想

中年男の就活が切ない

主人公ハビエル(ハビエル・グティエレス)は広告代理店の元重役で、現在求職中。

面接で代表作を披露して「このCM覚えてます!子供の頃見てました!」と自分よりも遥かに若い面接官達に感激されたのも束の間、「最近はどんな作品を出されました?」と聞かれると、誰の記憶にも残っていない作品しか出てきません。広告マンとしてのピークは完全に過ぎちゃったんだなという微妙な空気。

続けて「これも数年前の仕事ですよね。最近は何をされてるんですか?」と聞かれ、「1年ほど前に会社を退職しまして、最近は特に…」。慌てて「前の会社ではできない野心的な仕事をしたいので飛び出しました!」「気分を変えるというのも大事ですからね!」と取り繕っても、この人はどこからも拾われていないんだなということがバレバレになってしまうわけです。

…ツライ、ツラすぎる。

この冒頭を見るだけで、胃が引きちぎれそうになりました。もはや新しいことを始めようのない年齢になった中年男性が、そのキャリアを断頭台に乗せて若い面接官による沙汰を待つ。こんな切ないことがありますか。

案の定、はっきりとお断りされて今回の面接も失敗します。「えらそうにしているお前らなんて、俺の若い頃の足元にも及ばんわ!」と叫びたかったはずです。叫んでもいいよ、ハビエル。

とりあえず駐車券の一枚も出せないと言ってきた融通の利かない下っ端の事務員に当たり散らして帰宅します。

家は男の城

ハビエルが帰る家は1年間無職とは思えないほどの高級マンション。しかも家政婦付き。この家は彼にとって最後の砦であり、これを明け渡すと二度と再起できないんじゃないかという恐怖を抱えているのではないかと思います。

女性からするとバカバカしく感じられるかもしれませんが、家や車は男にとって自分自身の象徴であり、そのグレードを下げるということは、人生そのものの退行を意味するほどに深刻なことです。

加えて妻子から「親父にはこの生活を維持する力が残っていない」と思われることのツラさ。奥さんは気を使って引越しを勧めてくれてるんですけど、就活が全然うまくいっていないことが家族にバレバレというのは、それはそれで苦痛です。

ハビエルは極限まで耐えていたものの経済条件を変えることはできず、現実を受け入れざるをえないところにまで追い込まれて城を手放す決意をします。切ない…。

デキる男のイヤな一面

公営住宅のような安い物件に引っ越したハビエル一家は心機一転やり直すこととし、妻マルガは勤めに出て行きます。ハビエルもプライドを捨てて職業訓練学校へ通い始めるのですが、相変わらず就活はうまくいきません。

そんなある日、ハビエルは一人息子を趣味のランニングに誘います。息子は肥満体形で、身長は高いのに声変わりをしていないソプラノボイスと、明らかに学校で舐められそうなキャラを纏っています。

親子のランニングはのどかに始まったのですが、思いのほか息子のペースが悪いのでハビエルは指導モードに入りはじめ、呼吸はこうするんだとか、この坂を登りきれとか、ついつい熱が入ってきます。で、坂道の途中でゲロを吐く息子。

帰宅すると息子の異変に気付いたマルガから何があったのかと問い詰められ、「あんな感じじゃ学校でイジめられるだろ。ちょっとくらい厳しくして男らしくしてやらなきゃ」とハビエルは反論します。

「あの子がイジめられてることは私だって知ってるわよ。でもこうなるからあなたには言いたくなかったのよ」と言い返すマルガ。

ハビエルにはデキる男特有のイヤな一面があります。部下とか家族に対して「そんなこともできないのか」とか「俺だったらこんなことすぐ終わるぞ」とか平気で言ってしまい、付いてこられない人間を意図せず傷つけてしまうような。

しかし今まではそれでもよかったんです。実際ハビエルは優秀で、弱肉強食の社会において強者の側にいたから。しかし無職になって家に張り付くようになると、今までは仕事や収入で覆い隠されてきた問題点が一気に露呈します。

妻の一言で妻子は俺のイヤな面に我慢してきたんだなということを悟り、余計に家に居づらくなるハビエル。これまた切なすぎます。

論理的に積み重ねられた見事な導入部

そんなこんなで社会にも家にも居場所を失ったハビエルは、帰巣本能で引き寄せられるかのように古巣の高級マンションへと向かっていきます。

正面の通りに車を停めて部屋の窓を眺めていると、そこには30代そこそこと思われる男と美人の奥さん。あの年齢でこんな高い物件に住めるとは一体何してる野郎なんだと気になったハビエルは、後日、手元に残っていた合鍵を使って部屋に侵入します。

PCを見ると飲酒運転で妻子に大怪我をさせたことが判明し、机の引き出しからはグループセラピーで使われる断酒メダルを発見。もうちょっと彼に接近してみたくてグループセラピーが行われる教会へ行ってみると、スタッフから呼び止められてハビエルもセラピーに入れられてしまいます。

ランニングが趣味のハビエルはアルコール中毒とは無縁の健康体なのですが、そうは言っても元広告マンで言葉を紡ぐことは得意なので、口から出まかせの言葉で場の空気に馴染み、ターゲットであるマンションの住人とも親しくなります。

男の名はトマス。国内有数の運送会社の副社長を務めるやり手である上に性格も良くて、ハビエルの断酒を手伝ってくれると言います。かくして、ハビエルとトマスの関係はスタートしました。

最初、ハビエルは古巣がどうなったのかを見に行っただけなのですが、そこから偶然が重なってトマスとの関係性が出来上がるという本筋の導入部は実によく出来ていました。

※注意!ここからネタバレします

話の展開のさせ方が超下手くそ

トマスは良い人間で個人的な恨みはないのですが、そうは言ってもハビエルが失ったものをすべて持っているので、妬ましくて仕方のない存在ではあります。ハビエルはトマスを破滅させる行動に移り始めるのですが、ここから話が急激につまらなくなっていきます。

ハビエルはトマスとその妻ララに対して二枚舌を使い、夫婦間の不信感を増大させていくという作戦をとるのですが、常識的に考えて「あのおじさんの言うことおかしいよね」と思われて、以降は距離をとられて終わりのような気がします。

その辺りの、なぜトマスとララは嫌なことが起こり始めたのにハビエルとの付き合いを控えなかったのかという点が浅いので、物語が説得力を欠いています。

また中盤には変態の庭師を介入させるのですが、こちらも本編にうまく絡まないまま退場していきます。

最後はトマスを殺害した後にハビエルがララを寝取って家も家族も仕事も奪い尽くすのですが、ハゲたおっさんが若奥さんをゲットできた点に説得力がなく、苦し紛れのオチのような気がしてなりませんでした。

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