7月4日に生まれて_思想色が強すぎて引く【5点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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実話もの
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(1989年 アメリカ)
信仰心と愛国心に溢れる家庭に育ったロン(ロニー)・コーヴィックは、高校卒業と共に海兵隊に入隊し、ベトナム戦争に従軍する。戦闘中に受けた銃弾で脊髄を損傷したロニーは下半身不随となって帰国するが、帰国したアメリカでは主戦派と反戦派が対立しており、ロニーが英雄として迎えられることはなかった。

©Universal Pictures

作品概要

オリバー・ストーンによるベトナム戦争映画

オリバー・ストーンは1946年に裕福な家庭に生まれ、名門イェール大に進学したお坊ちゃんでしたが、ベトナム戦争が始まると陸軍に入隊し、もっとも死傷率の高かった空挺部隊に所属。1年の兵役後に映画の道に入ったという変わり種です。

ベトナム戦争での自身の経験を元に、70年代に書き上げた脚本『プラトーン』がハリウッド界隈で話題となったことから脚本家としてキャリアをスタートさせ、『ミッドナイト・エクスプレス』(1978年)でアカデミー脚色賞受賞。他に『コナン・ザ・グレート』(1982年)の初期脚本も執筆しました。

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1986年にようやく実現した『プラトーン』(1986年)では監督も務め、従軍経験者ならではのリアリティ溢れる演出が好評で大ヒットを記録。同年に監督した『サルバドル/遥かなる日々』(1986年)も同じく好評であり、アカデミー脚本賞ではこの2作品で同時にノミネートされるという快挙を成し遂げました。『プラトーン』(1986年)は作品賞、監督賞、編集賞、録音賞を受賞し、その年でもっとも評価を受けた作品となりました。

こうしてハリウッドのトップディレクターとなったストーンが、『プラトーン』の2倍以上の製作費と大スタートム・クルーズを得て、再度ベトナム戦争を題材にしたのが本作なのでした。

受賞歴

全盛期のオリバー・ストーンが監督し、伸び盛りの大スタートム・クルーズが主演した映画ということで本作は大評判となり、当時の賞レースの台風の目となりました。

アカデミー賞

  • 作品賞(ノミネート)
  • 監督賞(受賞)
  • 主演男優賞(ノミネート)
  • 脚色賞(ノミネート)
  • 作曲賞(ノミネート)
  • 録音賞(ノミネート)
  • 撮影賞(ノミネート)
  • 編集賞(受賞)

ゴールデングローブ賞

  • 作品賞(受賞)
  • 監督賞(受賞)
  • 主演男優賞(受賞)
  • 脚本賞(受賞)
  • 作曲賞(ノミネート)

ただし、時と共に評価を確立する作品と、時が経過することで観客も批評家も冷めていく映画の2種類がありますが、本作は後者の方だったように思います。現在のIMDBスコアは7.2(2020年1月4日閲覧)とオスカー関連作品としては物足りない数字だし、名作として言及されることもほとんどありません。

感想

トム・クルーズの熱演は見る価値あり

『トップガン』(1986年)が年間興行成績No.1の大ヒット、『レインマン』(1988年)がアカデミー作品賞受賞と、当時のトム・クルーズの勢いには凄まじいものがありました。そんなトム・クルーズが本格的な演技派路線を指向したのが本作であり、そもそも頑張り屋のトム・クルーズが本気出した映画だけあって、そのパフォーマンスは一見の価値ありです。

もともと得意としてきた序盤の青春演技から一転し、障害を負いながらも努力で克服しようとする前半、自暴自棄になり生きる意味を見失いかける後半、活動家として目覚める終盤と、振れ幅の大きな役柄をメリハリある演技で見せます。

ただし、2000年代のレオナルド・ディカプリオ並みに当時のトム・クルーズは頑張ってるアピールが凄く、見ている側に圧迫感を抱かせる演技だったことが玉に瑕であり、「実在の人物ロン・コーヴィックになりきる」を通り越して、「ロン・コーヴィックになりきっている俺を見て欲しい」にまでなっています。もうちょっと力を抜けば自然になったんですけどね。

論理的に整理された見事な脚本

アカデミー脚本賞にノミネートされ、ゴールデングローブ賞では脚本賞を受賞していることからも分かる通り、本作の脚本は非常によくできています。

  1. ゴリゴリの保守派の母親に育てられた愛国青年ロニーは、打ち込んできたレスリングの大会で負けたことへの喪失感もあって、自己実現欲求を満たしてくれそうな海兵隊に志願する。
  2. 出征したベトナムの戦場では、誤って非戦闘員一家を殺してしまうわ、戦友を誤射して死なせてしまうわ、自分自身も銃弾を受けて下半身不随になるわと散々な目に遭う。
  3. 収容された傷病兵向けの病院は劣悪な環境で、国のために負傷した兵士への敬意がないことに憤る。
  4. 故郷に戻ると一般市民レベルでも主戦派と反戦派に二極分化されているという世相を実感し、「文句がある奴は国から出ていけ」を口癖のように連呼するようになる。
  5. 同じくベトナムに出征した幼馴染との再会で、自身がPTSDの症状を抱えていることを告白した上で、戦場で戦った末に障害を負ったことへの後悔を初めて口にする。
  6. 進学した初恋相手の大学へ行くと学生運動の真っ最中だった。そこで警官が市民に対して暴力を振るっている光景を目の当たりにし、信じてきた国家にも正義がないことを知る。
  7. 信じるものを失って自暴自棄になり、酒でのトラブルを頻発させるようになる。扱いに困った家族からの勧めもあって、戦争で障害を負った元兵士が集まるメキシコの保養地へと行く。
  8. 男の楽しみと言えば酒と女だが、障害が原因で女を楽しめないことから結局自分は国家や戦争という問題からは逃げられないことを実感し、運動家としてアメリカに戻る。

本作のあらすじを要約するとざっとこんな感じになるのですが、軍国青年が反戦活動家へと180度転換するまでの過程が実に論理的に整理されています。

ポイントは5.と6.ですね。負傷後もロニーはうわべでは軍人としての誇り、名誉の負傷みたいなことを謳っていたものの、陰ながら揺らぎを抱えていました。そんな揺らぎを国家への忠誠と反戦派への批判で誤魔化しているような状況が直前にまであったのですが、同じ境遇にいる幼馴染に対しては気を許して、ぶっちゃけトークをします。勇敢に戦ったかどうかなんて誰も気にしていないんだから、足を撃たれた時点で戦闘を放棄していればよかった。そうすればこんな障害を負わずに帰国できていたのにと。こうして内面のモヤモヤを初めて言語化したことで、固く閉ざされていたロニーの心の壁が一枚崩れます。

次にロニーは初恋相手に会いに行くのですが、彼女はロニーが批判していた反戦活動に精出しています。しかし惚れた相手に向かって「文句があるなら国から出ていけ」なんてことは言いようがなく、彼女の活動を肯定も否定もせずに話を合わせているうちに「お前も仲間やんな」みたいな雰囲気になっていって、反戦派の活動内部へとどんどん入っていきます。ロニーが意図せず反戦活動内部に入っていく過程が実にスムーズに描かれます。

そこで反戦派は反戦派で必死に理想の国家像を追っていることを知り、また国家が市民に暴力を振るう光景を目撃し、ロニーは完全に愛国青年ではなくなります。ここでロニーの心の壁がもう一枚崩れるのですが、名脚本家オリバー・ストーンの面目躍如、人間の心がどう変化していくのかを実に自然に見せてくれます。

後半は思想色強すぎて引く

ただし、共和党の党大会で暴れたり、民主党の党大会で壇上に上がったりといったラスト30分は、あまりに思想色が出過ぎていて引きました。共和党は悪の巣窟ですよとでも言いたげな描写はやりすぎです。もっとニュートラルな描写にした方がむしろ多くの共感を得られたように思うのですが、これでは民主党支持者だけが喜ぶ映画になってしまいます。

あと、ロニーは「俺は国家に騙された」と言うのですが、どこぞの独裁国家ならともかく、民主主義が正常に機能しているアメリカでその主張はないでしょ。

「強いアメリカ」という国家像を無理やりに押し付けられたのではなく、一人一人のアメリカ国民がそれを選んだのではなかったのか。開戦時には自分達もノリノリだったのに、うまくいかなくなれば国家が悪い、俺達は騙されたと文句を言い始める。悪質クレーマーを見ているようでした。

だいたい、アメリカがベトナムへの軍事介入を開始したのは民主党のケネディ政権時代であり、もしロニーの主張通りに国民が政府に騙されて戦争を始めたのだとすれば、文句を言いに行くべき先は民主党でしょ。なのに、民主党が始めた戦争を引き継いだ共和党に文句を言いに行き、そもそも開戦を決断した民主党を正義の味方のように扱っているのは論理的におかしくありませんか。

他者を批判している時には勢いがあるが、自分達の論理矛盾はさほど気にしていないという姿勢が、本作の大きな欠点となっています。

なお、オリバー・ストーンはこの論理矛盾に対して、後に製作した『ニクソン』(1995年)できっちり回答を出しています。アンソニー・ホプキンス扮するニクソン大統領は、「国民が戦争を終わらせろと言うから終わらせたのに、終わらせたら終わらせたで文句を言うのか」と嘆き、当時の共和党が置かれていた厳しい状況が描かれています。

まとめ

全盛期のオリバー・ストーンとトム・クルーズが組んだ映画だけあって、見るべき価値は十分にあります。ただし、思想の押し付けが酷いラストには失望させられるので、総合的には満足度低めでした。

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