ハウス・オブ・ダイナマイト_前半最高、後半微妙【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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社会派
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(2025年 アメリカ)
米国本土に核ミサイルが飛んでくる!キャスリン・ビグロー監督は8年ものブランクを感じさせないほどの演出のキレでこの危機を見せるのだが、後半に向けて平凡になっていくのが作品の欠点だろう。あと、アメリカ合衆国は弾道弾迎撃用ミサイルをたったの50発しか持っていないというのは本当なのだろうか?

感想

『デトロイト』(2017年)以来、実に8年ぶりのキャスリン・ビグロー監督作品にして、ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門で公開された、ネットフリックスの勝負作。

物語は静かな朝にスタートする。

日本海上空で観測された一発のミサイル。

当初はホワイトハウスも日本政府も「北朝鮮のいつものアレね」くらいの認識でいたのだが、日本近海に着水するはずのミサイルがいつまで経っても落ちない→アメリカ本土を目指しているようだ→着弾まで残り19分と、どんどんヤバイ状況になっていく。

モニター越しに映し出されるミサイルの様子と、それを眺めながら限られた時間内での対応を迫られる指令室の面々のみで構成された作品であり、絵面はとてつもなく地味。

それでいて世界レベルの危機であることを観客に対して強烈に印象付けているのだから、これがとてつもない演出力の下に製作された映画であることが分かる。

全体的な印象はポール・グリーングラス監督の『ユナイテッド93』(2006年)に近いのだが、現実に起きた事件を可能な限り忠実に再現した『ユナイテッド93』に対して、こちらは架空の出来事である。

これを臨場感たっぷりに表現したキャスリン・ビグロー監督の演出力が光る。前作から8年ものブランクとは思えないほどの驚異的な手腕である。

面白いのは、全面核戦争の引き金を引く国を北朝鮮に設定しているということ。

ロシアや中国といった大国相手ならば複数の交渉窓口が確保されているだろうし、彼らにだって守りたいものがあるのだから話し合いでの危機回避もある程度は可能だろう。

しかし北朝鮮のような小国が一か八かで仕掛けてくれば、どこの誰と話せばいいのかすら分からない。

これが核拡散の怖いところである。

物語は3部構成となっており、着弾までの19分間が、視点を変えて都合3度繰り返される(ホワイトハウスのシチュエーションルーム、アメリカ戦略軍司令本部、米大統領)。

白眉は刻一刻と状況が悪化していく様がリアリティをもって描かれる第1部であり、このままいけば『未知への飛行』(1964年)に比肩する傑作になるんじゃないかと思った。

がしかし、第2部、第3部と状況の観測から政治的な判断に視点が移っていくと、作品はやや平凡になる。

北朝鮮を相手としたことのデメリットがここでドバっと出てくるのだが、交渉のオプションがあまりにもなさすぎて、もはやどうしようもないのだ。

大統領はほとんど何もしていないに等しく、国防長官は自分の娘すら救えない無力さから自殺を図る。

リアリティにこだわったゆえのこの内容なのだろうが、観客の目にもある程度は実現可能だと思われるオプションが提示され、その目論見が崩れていく様を描いた方が、映画としては面白くなっただろう。

また尻切れで終わる結末もイマイチだったかな。

ミサイルがシカゴに着弾することはほぼ確。

問題は次の一手であり、米国の混乱に乗じてどこから二発目が飛んでくるのか分からない状況である以上、先手を打って全世界のミサイル発射基地への一斉攻撃をするか、しないかである。

一斉攻撃をすれば世界大戦、しなければアメリカが侮られ二次攻撃を受けるリスクが高まる。

行くも地獄、戻るも地獄なんだけど、「あなたならどうしますか?」と視聴者にも考えさせるほど論点が整理されていないので、社会派サスペンスとしては作りが浅いのではないかと思う。

また大都市を目指して飛んでくるミサイルに対して、迎撃ミサイルをたった2発しか発射しないというのは本当なのだろうか?

劇中のセリフだと、迎撃ミサイルはたったの50発しかないので、次に飛んでくるミサイルに備えて出し惜しみをしなければならないという。

廃棄待ちを含めて5000発以上の核ミサイルを持つアメリカ合衆国が、国土防衛のための迎撃ミサイルは50発しか持っていないという話が本当ならば、なんちゅー阿呆なことだろうと思う。

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コメント

  1. Yujin23duo より:

    おととい見ました。マジで第一部の緊張感が半端なかっただけに第二部以降がねぇ……本当に第一部だけは神がかってました。

  2. なつめ より:

    こんにちは。ほんと第一部は完成度高くておもしろかったですよね。
    一方、核ミサイルの規模も不明なのだし、国防長官、シカゴなら地下鉄もあるし娘にそこに逃げ込めと言ってもよかったのでは…とか思ったりもしましたね。
    地下に逃げ込んで息を呑む…みたいなシーンを勝手に想像したりしました。