天国の門_地獄のように長い【4点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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中世・近代
中世・近代

(1980年 アメリカ)
老舗映画会社ユナイテッド・アーティスツを倒産にまで追い込んだ悪名高き超大作。確かに金のかけ方は物凄くて見る価値はあるものの、「脚本がなかったのか?」と言いたくなるほど内容が薄いので、鑑賞中は睡魔との戦いとなります。コンディションの良い日に見ましょう。

スタッフ・キャスト

監督・脚本はアカデミー賞監督マイケル・チミノ

1939年ニューヨーク出身。イェール大卒業後に広告業界に入り、TVコマーシャルの監督となりました。1971年に映画脚本家に転身し、『サイレント・ランニング』(1972年)と『ダーティハリー2』(1973年)の脚本を執筆。

『ダーティハリー2』でのご縁かイーストウッド主演の『サンダーボルト』(1974年)で監督デビューを果たし、長編2作目『ディア・ハンター』(1978年)がアカデミー作品賞を始めとした5部門を受賞し、自身も監督賞を受賞しました。

次いで製作した本作『天国の門』(1980年)が「史上最悪の赤字を出した映画」としてギネスブックに掲載されたほどの大コケをして(後にレニー・ハーリン監督の『カットスロート・アイランド』(1995年)が記録を更新)、製作会社ユナイテッド・アーティスツを倒産に追い込みました。

その後しばらくはチミノを使うスタジオは現れなかったのですが、ディノ・デ・ラウレンティス製作×ミッキー・ローク主演の刑事アクション『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』(1985年)で5年ぶりに監督復帰。

このトリオは『決死の逃亡者』(1959年)のリメイク企画『逃亡者』(1990年)でも顔を合わせるのですが、両作品ともヒットはしませんでした。

結果、チミノは『ディア・ハンター』『天国の門』ほどの映画を作ることは2度となく、2016年に自宅で逝去。

豪華な出演者

  • クリス・クリストファーソン(ジェームズ保安官):全米を代表するカントリー歌手であり、サム・ペキンパー監督作品の常連でもある。
  • クリストファー・ウォーケン(殺し屋ネイサン・チャンピオン):『ディア・ハンター』(1978年)でアカデミー助演男優賞を受賞した演技派。
  • イザベル・ユペール(娼婦エラ・ワトソン):フランス人女優で、セザール賞主演女優賞に15回ノミネートという史上最多記録の保持者。ポール・バーホーベン監督の『エル ELLE』(2016年)でゴールデングローブ主演女優賞受賞。
  • ジェフ・ブリッジス(移民ジョン・L・ブリッジス):マイケル・チミノの監督デビュー作『サンダーボルト』(1974年)でアカデミー助演男優賞ノミネート。『クレイジー・ハート』(2009年)でアカデミー主演男優賞受賞。『アイアンマン』(2008年)でMCU初のヴィランを演じた。
  • ジョン・ハート(牧場主ビリー・アーヴァイン):『ミッドナイト・エクスプレス』(1978年)でゴールデングローブ助演男優賞受賞、『エレファント・マン』(1980年)で英国アカデミー賞主演男優賞受賞。『エイリアン』(1979年)で最初の犠牲者ケインを演じたことでも有名。
  • サム・ウォーターストン(牧場主フランク・カントン):ローランド・ジョフィ監督『キリング・フィールド』(1984年)でアカデミー主演男優賞ノミネート。人気ドラマ『ロー&オーダー』には16シーズンに渡り出演。
  • ミッキー・ローク(移民ニック・レイ):80年代のセックスシンボルで、ロバート・デ・ニーロと渡り合うほどの演技力も併せ持ったスターだった。90年代には低迷したものの、ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞のドラマ『レスラー』(2008年)の主演で復活。
  • ブラッド・ドゥーリフ(移民エグルストン):『カッコーの巣の上で』(1975年)でアカデミー助演男優賞ノミネート。『チャイルド・プレイ』(1988年)シリーズではチャッキーの声を担当した。

作品解説

浪費の連続だった撮影現場

マイケル・チミノが『ジョンソン郡戦争』と名付けた本作の初稿を執筆したのは1971年頃でした。

ただしどのスタジオに持ち込んでもこの企画は拒否され、結局チミノは『サンダーボルト』(1974年)と『ディア・ハンター』(1978年)により世に出ることとなりました。

チミノが『ディア・ハンター』(1978年)でアカデミー監督賞を受賞した後、ユナイテッド・アーティスツは本作の製作開始を決定。1979年3月には当初予算1160万ドルを超過した場合でも製作費を負担し続けるというベラボーな条件の契約を締結しました。

そこからチミノの浪費は止まらなくなり、製作費はものすごい勢いで膨らんでいきました。

チミノは何もないモンタナの砂漠のど真ん中に巨大オープンセットを建設。一般にロケ撮影というのはそこにあるものを撮影することなのですが、チミノは撮影するものを一から作らせたのでした。

また建造したセットの道幅が狭いといって、建物を一度解体させて作り直させました。

序盤のワンシーンを撮るために19世紀当時の機関車を全米を探し回って見つけ出し、ロケ地のモンタナにまでわざわざ運び、レールを敷いて走らせました。物語の主題と何の関係もないのに。

これがセット…
‘Heaven’s Gate”Heaven’s Gate’ film – 1980

かと思えば、セピア色の空気感を出すためにすべての場面でスモークを焚き、歩けば砂埃が立つというリアリティにもこだわったことから、贅を尽くしたオープンセットがほこりでよく見えないというとんでもないことも起こっています。

こうしたこだわりが炸裂した結果、一日あたり20万ドルもの経費が消えていった上に、撮影も遅れ気味で撮影開始後6日目の時点ですでに5日の遅れが生じました。

またロケ地の使用料としてあまりに大金を払いすぎているとしてスタジオが調査すると、その土地の所有者はチミノだったという笑えない不正もあったようです。

さすがに危機感を持ったスタジオは監督の解任に向けて動き出し、『夜の大捜査線』(1967年)のノーマン・ジュイソンに依頼したのですが断られ、チミノ体制は維持されました。

最終的な製作費は4000万ドル、撮影済フィルムは220時間分にのぼりました。

複数のバージョン

ワークプリント版(325分)

1980年6月26日、マイケル・チミノは325分(5時間25分!)のワークプリント版をユナイテッド・アーティスツに納品したのですが、スタジオ幹部たちはこの長さでの公開を拒否。監督の解雇までが検討されましたが、チミノが再編集に応じることで事態は収拾しました。

後述する149分の全米公開版を製作する際にこのバージョンのネガが直接編集されたために、本バージョンは現存しないとされています。

プレミアカット版(219分)

その後、本編はチミノ自身の手で219分にまで縮められました。それでも3時間39分あるので異例の長尺であることに変わりはありませんが。現在広く流通しているのはこのプレミアカット版です。

本バージョンは「ノーカット版」や「ディレクターズカット版」などとラベリングされることも多いのですが、ワークプリント版の存在を考えるとこのバージョンも本質的には「不完全版」であると考えられます。

1980年11月にNYでのプレミア上映が行われたのですが、このレビューが最悪だったためにチミノはスタジオ幹部たちに再編集を申し出て、全米公開は1981年4月に延期されました。

全米公開版(149分)

チミノは149分にまで物語を圧縮。これが全米公開となりました。

ただしこのバージョンも非常に評判が悪かったことからVHS等でのリリースがなされず、本作の評価がそもそも高いフランスにおいて2017年にようやくソフト化がなされました。

21世紀に入り作品の再評価の機運が高まった時、この再々編集は「映画史上最大の愚行のひとつ」とまで言われました。

興行的・批評的惨敗

本作は1981年4月に全米公開されたのですが、東欧移民の迫害というアメリカ人にとって気分の悪い話であるうえに、事前のマスコミレビューも最悪だったことから客入りが非常に悪く、4400万ドルの製作費に対して興行成績は348万ドルにとどまりました。

これによってユナイテッド・アーティスツは経営危機に追い込まれ、MGMに買収されることとなります。

またその年のゴールデンラズベリー賞ではマイケル・チミノが最低監督賞を受賞するという不名誉も受けました。

ただし、当初より219分のプレミアカット版が劇場公開されたヨーロッパでは評価が高く、1981年のカンヌ国際映画祭ではコンペティション部門に出品されました。

感想

素晴らしい映像美

冒頭のハーバード大学卒業式から漂う「本物感」「嘘臭さのなさ」。時代劇を突き詰めるとここまで来るのかという圧倒的なビジュアルがそこにありました。

舞台が西部に移るとそれは加速し、建物も衣装も本物にしか見えず、すべてのショットは絵画のように完璧に構成されています。

陽の光、雲の動き、風に舞う砂ぼこりまでが画面の構成要素として完璧にコントロールされており、テレンス・マリックが『天国の日々』(1978年)で試みたことが、ついに本作で完成したかのように感じました。

マイケル・チミノは恐らく本作をビジュアルを楽しむ映画として製作しており、その一義的な目的は果たされています。

冗長でピンボケしたドラマ

物語の舞台は19世紀末のワイオミング州。ホームステッド法制定により、自分の土地を持てるかもというアメリカン・ドリームを追いかけて東欧移民が多く移住していました。

ホームステッド法とは1862年にリンカーン大統領が発行した法律であり、未整備の荒野が広がっていた西部開拓を目的として、公有地で5年間農業を行った者に対しては、160エーカーの土地が無償で払い下げられるという内容でした。

ただし、それまで広大な西部で自由に牛を放牧していたWASP系の牧場主達からすれば、ロクに言葉も通じない移民達が大勢やってきて区画を主張するようになったので放牧をやりづらくなったし、そのうえ間違って区画に入ってしまった牛を移民達が盗むようになり、まったく歓迎できない状況が出現していました。

そこで牧場主グループのリーダーであるフランク・カントン(サム・ウォーターストン)は、牛泥棒根絶を掲げて移民の処刑リストを作り、大勢の殺し屋を雇ってリストに記載された125人の殺害計画を進めようとしていました。

地元保安官のジェームズ(クリス・クリストファーソン)は事前にこの計画を掴むのですが、カントンは持ち前の政治力を駆使して知事や大統領をも巻き込んでいたことから、すでに法律の範囲内で虐殺を止めることは不可能。

ジェームズは保安官としてどうやって移民達を守るのかが本作の主題となります。

この主題を見る限りはなかなか燃える西部劇を期待させられるのですが、実際には本筋と関係あるんだかないんだか不明確なプロットの積み重ねで観客の集中力はどんどん削がれていくし、しかも一つ一つの描写が異様に長いものだから睡魔に襲われ続けます。

何せ、牧場主たちが移民の処刑を決定するという本筋開始部分が開始後40分経過地点ですからね。それまでの40分は、一体何の意味があるのかも分からないハーバード大学の卒業式や、駅前での人間模様などに費やされます。

本来は短い上映時間で簡潔に描くべきだったアクション映画に対して異常な予算をつけてしまった結果、要らぬ要素が無駄に肥大化してすべてがピンボケした映画になってしまったという印象です。

不完全な人物描写

主人公のジェームズ保安官(クリス・クリストファーソン)はハーバード大卒のエリートでありながら保安官職を選び、しかも西部のド田舎で移民たちと同様の質素な生活を送っています。

「あなたは名家の出身で資産も持っているのに、なぜこんな生活を?」という質問が劇中にあるのですが、ジェームズははぐらかし続けます。劇中の登場人物同士の会話でこれがはぐらかされるのはいいのですが、観客にとってもその理由が謎のままというのは不親切すぎるでしょう。

冒頭の卒業式において学長がノブレス・オブリージュについてスピーチする場面があり、何となくそれと関係あるのかなとは思うのですが、ジェームズ本人がその辺りについて一切言及しないので実際のところはよくわかりません。

そんなジェームズ保安官の旧友であるビリー・アーヴァイン(ジョン・ハート)は牧場主。カントンの主張する移民殺害計画には反対しているものの、かといって牧場主グループから去ることもできず、結果的には計画の一員となっています。

内心では殺害計画に反対しつつも自分のコミュニティを抜け出す勇気はない、さらにはジェームズ保安官との関係もあり難しい立場に置かれるという本来はおいしいはずのキャラクターなのですが、これがまったく機能していません。

それは殺し屋ネイサン・チャンピオン(クリストファー・ウォーケン)も同じくです。ネイサンは東欧系移民でありながら牧場主に殺し屋として雇われており、牛泥棒をした同胞の処刑を行っています。

必死に読み書きを覚えたり、家の壁一面に英語の新聞を貼ったりという行為から、彼がアメリカ社会になじもうと努力する移民像であることはわかるのですが、旧来のアメリカ社会と移民社会の間で板挟みになる人物としての深みがありません。

この通り、本作は登場人物の描写に失敗しており、何を考えているのかよくわからない人物たちが歌ったり踊ったり撃ち合ったりするだけの映画に終わっています。

盛り上がらない見せ場

3時間ほど我慢した後、ついに移民と牧場主は大規模衝突を迎えます。

実際にはこの衝突は避けられたようなのですが、そんな史実に反してまで作られたクライマックスの見せ場は、豪華で大規模だが盛り上がらないものとなっています。

数百の人馬が決戦の地へと向かうさまは圧巻なのですが、いざ戦いが始まっると砂ぼこりが立ちすぎていて全体像が見えないし、勝敗ラインの明示もないので攻防戦には緊張感が宿っていません。

加えて、それまでのドラマとうまく嚙み合っていないので忍従の末についに衝突という感情的な盛り上がりも逃しており、観客は物凄い物量の見せ場を、特に何も感じることもなく眺めることとなります。

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