アイ・ケイム・バイ_怖くも面白くもない【4点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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サイコパス
サイコパス

(2022年 イギリス)
スリラーとしてはパンチが弱いし、ミステリーとしては作りこみが甘いし、社会派としては訴求力が弱いという、全方位で失敗している駄作。最近のネットフリックスの不調を象徴するような作品である。

感想

スリラーとしてもミステリーとしても中途半端

ここんところのネットフリックスは不調である。

2022年第一四半期、それまで右肩上がりに伸び続けてきた会員数が初の減少に転じたことで、株価は半額にまで暴落。

加えてライバルからの猛追も受けており、ディズニープラスやHuluを合計したウォルト・ディズニーの動画配信サービスの会員数は2億2110万人に達し、ネットフリックスは長年に渡って守り続けてきた首位の座を明け渡した。

こうした事態に対し、ネットフリックスはこれまでやらないと言ってきた広告付き低額プランの開発に入るなど対応に追われているが、根本的な問題はコンテンツの質低下ではないかと思う。

動画配信黎明期、ライバルたちがDVDレンタルの代替という道を模索していたのに対して、ネットフリックスは「ここでしか見れない」というオリジナルコンテンツへのこだわりでブルーオーシャンを開拓してきていたが、そのオリジナルコンテンツの力が弱まっている。

前置きは長くなったが、本作もまさにその流れの中にある一作。

主人公は富裕層の家に侵入して”I came by(参上!)”という落書きを残す活動を行っている若者で、いつも通りに侵入した家が実は伏魔殿で、住人からの思わぬカウンターを受けることとなるというのが、ざっくりとしたあらすじ。

このあらすじからは『ドント・ブリーズ』(2016年)のようなサバイバル・スリラーを連想させられるのだが、実のところ拷問やグロ描写は皆無に近いし、命がけの脱出劇も描かれないので、その筋を期待すると肩透かしを喰らう。

当初は富裕層の家に侵入する若者目線だった物語が、途中から行方不明の彼を探す友人と家族の視点に切り替わるという『サイコ』(1960年)のような構造をとっているので、実はミステリー要素の方が強い。

行方不明になるのは『1917 命をかけた伝令』(2019年)のジョージ・マッケイ扮するトビーで、23歳にしてお母さんと同居中のニート。

セラピストとして働く母親リズ(ケリー・マクドナルド)に家事全般をお任せしつつ、家庭が悪い、社会が悪い、富裕層が悪いと外にばかり不満を向ける典型的な甘ちゃんである。

トビーは幼馴染のジェイ(パーセル・アスコット)と一緒に落書きをしてきたのだが、同居する彼女を孕ませてしまったジェイは、「いつまでもバカはしていられない」というわけで引退を表明。

残されたトビーはたった一人で元判事ヘクター・ブレイク卿(ヒュー・ボネヴィル)の屋敷に忍び込むが、こいつがやべぇ奴だったというわけである。

後半は行方不明になった彼を探す母リズと親友ジェイ目線に切り替わるのだが、両者ともに失踪当夜にトビーと仲違いしていることから、彼はただ単純に家出しただけで、事件性はないという可能性も残されている。

この不透明さを作劇にも織り込めばよかったのに、場面選択の取捨選択がうまくいっておらず観客にとっては何が起こったのかが明白なので、ミステリー要素が随分と薄まっている。

加えて、当のリズとジェイも家出の可能性をほぼ考えておらず、ロクな根拠もないのに「あの屋敷で何かあったはずだ」と決めつけているので、謎解き過程に説得力がない。

このあらすじならば「あの夜、なぜ私はあんなことを言ってしまったんだろう」という後悔の念も織り込むべきだったと思うのに、二人ともに迷いがないのがおかしかった。

マイノリティ問題へのツッコミも甘い ※ネタバレあり

物語全体としては、社会的な力関係がテーマになっている。

ブレイク卿の家が怪しいということを有色人種のジェイが主張しても聞き入れてもらえず、白人のリズが訴えてようやく警察は動いてくれる。

ただし貧困層であるリズの発言力も相対的には弱いもので、警察が一度調べて何も出てこなければ二度目はなく、リズは独自調査に移らざるをえなくなる。

「誰が言うか」で対応が変わってしまう階級社会の理不尽が描写されているというわけだが、かといって警察が動かなかったために好機を逃したという焦らしもないので、観客の側はさほどのフラストレーションをかかえない。

そしてブレイク卿自身も性的にはマイノリティであり、自身のセクシャリティを隠さざるを得ない立場にいたことが、拉致・監禁という行為に繋がっていたという背景も明らかになる。

彼もまた差別社会の被害者であるという設定こそ置かれているのだが、それがドラマに対して有効に機能していないので、さほど感じるものがなかった。

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