オレの獲物はビンラディン_ケイジの怪演【6点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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実話もの
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(2016年 アメリカ)
アメリカと神をこよなく愛する貧乏中年ニコラス・ケイジが終始ハイテンションな怪演を見せる。とにかくケイジの演技が凄いんだけど、見どころがそれだけなのはちょっと残念だった。

感想

ニコラス・ケイジの名演が光る

Amazonプライムのもうすぐ配信終了欄に入っていたので慌てて見たけど、近年のニコラス・ケイジ主演作の中では上出来な方だと思う。

内容はというと、「ビン・ラディンを殺しに行くぜ!」といきり立ち、本当にパキスタンにまで行ってしまったアメリカのおじさんの実話。

ゲイリー(ニコラス・ケイジ)は貧乏な中年白人で、家もないものだから仕事場に寝袋を持ち込んで寝泊まりしたり、友人宅に居候したりしている。

そんなうだつの上がらないおじさんだがアメリカを愛する気持ちだけは人一倍で、寝袋は星条旗柄だし、客として訪れたホームセンターでは見ず知らずの他人にまで国産品のすばらしさを説いて回っている。

そんな地道な愛国活動を続けてきたゲイリーが、ある時「パキスタンに行ってオサマ・ビンラディンを殺してこい」との神の啓示を受ける。

恐らくこれは人工透析中の幻覚症状なのだが、疑うことを知らないゲイリーは見たものを見たまま理解してしまい、愚直にも実行に移そうとする。

この筋書きが示す通り、基本的にはモノを知らないおじさんの奇行を突き放した視点で描く作品なんだけど、ゲイリーに扮するニコラス・ケイジの演技のおかげで類型的なブラックコメディに終わっていない。

『グランド・ジョー』(2013年)でも思ったんだけど、ニコラス・ケイジに貧乏白人を演じさせると本当に素晴らしい演技を見せてくれる。

このゲイリーという男は決して精神を病んでいるわけではなく、ただの馬鹿である。馬鹿なんだけど、それは恐ろしく素直ということでもあり、人柄は良いので彼を受け入れてくれる友人も恋人もいる。

そしてバイタリティに溢れており、そのまっすぐさでどんどん障害を突破していき、本当にパキスタンにまで行ってしまう。

周囲からは「無理だ」と馬鹿にされながらも、パキスタンに行くというところまでは実現してしまうのである。

相手が警察だろうがCIAだろうが外国人だろうがまったく怯まず、最後まで目標に向けてひた走ることのできるゲイリーという男を、ニコラス・ケイジは終始エネルギッシュに演じる。

何かに目覚めて人を殺そうとする人間と言えば『タクシードライバー』のトラビスを筆頭に孤独なアブナイ奴というのが定番なんだけど、陽の個性でこれを演じてみせたニコラス・ケイジの演技には一見の価値がある。

さすがは元オスカー俳優である。

そしてゲイリーは冒険の中で少しずつ成長していく。

アメリカから一歩も出たことがなく、外国のことを知らないのに「アメリカがNo.1だ!」と熱弁していたゲイリーだが、任務で訪れたパキスタンを好きになり、ちょっとだけ見聞が広がる。

また最初は神様ベッタリだったのだが、ビンラディン捜索がうまくいかない中で神様に対して「全知全能ならビンラディンの居場所を教えてくれ」と、割かしまともなことを言い出す。神に対するスタンスの変化もまた、彼の成長と言えるだろう。

そういえばオサマ・ビンラディンという目標設定も良い塩梅で、もしもターゲットが国内の有力政治家だと、覚悟と執念次第では本当に殺せそうなので、笑って見ていられない。

それがアメリカ軍が総力を挙げて捜索しても見つからないオサマ・ビンラディンというターゲットならば、おじさん一人がいきり立ってもどうもならんわけで、本当に殺すことはあり得ないので笑って見ていられる。

批評性が足りていない

そんなわけでニコラス・ケイジの演技は素晴らしいんだけど、ゲイリーの珍道中で終わってしまうのでブラックコメディとしてはやんわりしすぎという印象である。

作品内容は対テロ戦争を聖戦と捉えたキリスト教原理主義者全般を皮肉ったものなんだけど、ゲイリーという阿呆な個人の物語を敷衍して、社会全般を斬るという形になっていない。

確かにゲイリーは馬鹿なんだが、多くのアメリカ人には何かしらゲイリーと重なる部分があるよねとドキっとさせるべき内容だったと思うんだけど、そのような批評性がないので国際情勢を扱った作品らしいパンチがない。

監督は『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』(2006年)のラリー・チャールズ。

ダークな笑いを通じてアメリカ、宗教、思想のすべてを批評したチャールズの手腕があれば、本作もさぞかし辛辣かつ面白い作品になっただろうと思うが、どうも全力を出し切れていないもどかしさがある。

どうやらファイナルカットの権限は監督になかったようで、プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインに編集されたことをニコラス・ケイジが悔やむ発言もしている。

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