チョコレート(2001年)_寂しさゆえに芽生えた愛【7点/10点満点中】(ネタバレなし・感想・解説)

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人間ドラマ
人間ドラマ

(2001年 アメリカ)
ドラマツルギーというものを完全に捨てた先に極限のリアリティを見せる映画で、王道をことごとく外してきているのでかなりクセの強い作風ではあるのですが、それでもかなり見応えがありました。主演二人の演技も素晴らしく、見るべきところの多い作品となっています。

作品解説

ハーヴェイ・カイテルのために書かれた脚本だった

本作のオリジナル脚本を書いたのはミロ・アディカとウィル・ロコスという俳優上がりの脚本家でした。二人は、90年代前半にインディーズ映画の後見人のような立ち位置にあったハーヴェイ・カイテルが出演してくれそうな企画をということで本作の脚本を執筆しました。

結局カイテルが出演することはなかったのですが、この脚本はハリウッド界隈で話題となり、オリバー・ストーンが監督しトミー・リー・ジョーンズが出演するという話になったり、ロバート・デ・ニーロやショーン・ペンに話がいったりと、6年間にわたる紆余曲折を経てビリー・ボブ・ソーントン主演に落ち着きました。

その相手役にはアンジェラ・バセットやクィーン・ラティファが考えられており、ジェニファー・ロペスが出演するのではという話もあったのですが、最終的にハル・ベリーが役柄を勝ち取りました。

ハル・ベリーがアカデミー主演女優賞受賞

本作が公開されるやビリー・ボブ・ソーントンとハル・ベリーの演技は絶賛され、ハル・ベリーはアカデミー主演女優賞を受賞しました。同賞を非白人が受賞したのは初のことであり、また同年のアカデミー賞でデンゼル・ワシントンがアフリカ系アメリカ人としてはじめて主演男優賞を受賞しました。

興行的には成功した

本作は2001年12月26日に公開されましたが、わずか7館での上映だったため初登場29位でした。作品評の高さから2002年2月になると上映館が700館程度にまで増えたのですが、それでも最高ランクは12位であり、トップ10圏内には一度も姿を現しませんでした。

ただし息の長い動員を誇ったことから35週に渡るロングランとなり、全米トータルグロスは3127万ドルと製作費400万ドルの8倍近い金額を売り上げました。

感想

その場しのぎの恋愛

本作はラブストーリーなのですが、そこで描かれるのはお互いに惹かれ合うような激しい愛ではなく、社会の底辺で生きる寂しい男女が、他に選択肢もなくて寄り添い合うというものでした。このアプローチは実に新鮮に感じたし、現実の男女関係の一側面を切り取っているような鋭さも感じました。

大人の男女が付き合うようになるのって、恋人が欲しいと思っていた時にたまたま近くに居てくれて波長が合っただけの人だったりします。大人の恋愛に運命なんてものはなくて、巡りあわせの要素が強いのではないでしょうか。

本作の主人公ハンク(ビリー・ボブ・ソーントン)は刑務所の看守。ハンク一家は親の代からこの職に就いており、息子ソニー(ヒース・レジャー)も同じ職に就いています。

ハンクがプライドとこだわりを持って職務に当たっている一方で、心の優しいソニーは看守として成長しきれず、そのことがハンクをイラつかせる原因となっています。

古い南部の男という風情のハンクはソニーの未熟さを責め、最終的に我が子を自殺にまで追い込んでしまいます。しかしハンクは息子の死という一大事をどう受け止めていいのか分からず、その葬儀では涙を流すこともなく「棺をさっさと埋めてくれ」とまで言い出す有様。

そこからハンクは心にポッカリと穴が開いたような状態になり、生きがいだった仕事も辞めて一人で細々と生きる道を探し始めます。

もう一人の主人公レティシア(ハル・ベリー)は死刑囚の妻であり、服役前の夫との間に授かった一人息子タイレルを女手一つで育てています。ただしこのタイレルが超肥満児で、食べるなと言っても隠れてチョコレートを食べてしまうので、その度に酷く叱りつけ、手まで出てしまいます。

そんなレティシアですが、夫の死刑は執行され、それから間を開けずしてタイレルまでを交通事故で失ってしまいます。

で、タイレルが事故に遭った夜に偶然現場を通りかかったのがハンクであり、その時点では見ず知らずだったハンクがタイレルの病院搬送を手伝ってくれたことで、二人の関係性が始まります。

その夜、レティシアはハンクに自宅まで送ってもらうのですが、一人だと耐えられないほどの精神状態を紛らわせたくて、ハンクに自分を抱くよう求めます。そこには、夫と息子という重荷がなくなったことでようやく女に戻れたという解放感もあったように見受けましたが。

その時点でレティシアはハンクに惹かれていたわけではなく、たまたまそのタイミングで一緒に居たハンクに手っ取り早く関係を求めたという点に、私はリアリティを感じました。恋愛ってそういう側面もあるよなぁと。

そんな感じで二人のロマンスの入り口部分は「誰でも良かった」ということなのですが、それでもハンクはレティシアから求められたことで生きがいを取り戻し、またレティシアもハンクに対する好意を抱くようになります。

ただし通常の恋愛映画のような燃え上がる恋愛感情のようなものはそこにはなく、煮詰まった状態の二人が寂しさゆえに寄り添い合うような関係性となっています。もし選べるのならもっと別の相手が良かったのかもしれないが、自分の人生に選択肢などないので目の前の人で満足していますみたいな。

人生のけじめはつけない

そんなレティシアとハンクですが、本来は対極に位置する存在です。

  • 成人した息子のいた中年のハンクに対して、レティシアはまだ30代
  • 人種差別的なハンクに対して、レティシアは黒人女性
  • 元看守のハンクに対して、レティシアは死刑囚の妻

偶然が無ければ出会うこともなかった二人の人生が交錯したことで、当然のことながら様々な軋轢が生じます。

ただし興味深いのは、二人が問題と向き合ってどう折り合いをつけるのかを考えるという通常の映画らしいプロセスがなく、そういうものだと思って我慢して受け入れる、問題に気付いていないフリをしてその場をやり過ごすという対処をしていることです。

それは二人が従前抱えていた問題についてもそうです。

ハンクは自分の態度が息子を自殺に追いやってしまったという重大な負い目を抱えているし、レティシアはタイレルにツラく当たり過ぎていたことに自責の念を抱えています。

通常の映画であれば、二人がこうした過去にどう折り合いをつけるのかが大きな山場となるはずなのですが、これらの問題もまた有耶無耶にされたまま「Life goes on」という感じで二人のドラマは進んでいきます。

人生のけじめはつけない。厄介事は有耶無耶にして、そのうち時間が解決することを待つ。これもまた人生の一側面を切り取ったような鋭さがありました。

ハル・ベリーは素晴らしいが適役ではない

そんなドラマを支えているのがビリー・ボブ・ソーントンとハル・ベリーの熱演であり、特に一切の台詞を使わずして複雑な感情を表現してみせたクライマックスでのハル・ベリーの演技の説得力は尋常なものではありませんでした。彼女のオスカー受賞も納得なのです。

ただしレティシアという役にハル・ベリーが本当に適役だったかどうかには疑問符がつきますが。

田舎のくだびれた女性像を体現するためにメイクも髪型も地味めにしているものの、それでも隠し切れない圧倒的な美貌とナイスバディ。

底辺で歯を食いしばって耐えている田舎の貧困女性にはどうやっても見えてこないことがツラかったです。

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