オーバードライヴ(2013年)_無茶する親父のデカすぎる背中【8点/10点満点中】(ネタバレなし・感想・解説)

スポンサーリンク
スポンサーリンク
実録もの
実録もの

(2013年 アメリカ)
ロック様が街のダニ掃除を買って出るような痛快アクションではなく、ヒリヒリとした潜入の緊張感が前面に出ており、また親子の情愛に感動させられるような情感のたっぷりのクライム・サスペンスでした。加えてアメリカの司法制度の問題点を追及するような社会派な一面もあって、コンパクトながら様々な味わいのある秀作でした。

©2012 Snitch Film Holdings, LLC

あらすじ

高校生のジェイソンが麻薬密売容疑で逮捕される。別居している父ジョン(ドウェイン・ジョンソン)は逮捕に至るまでの経緯を聞き、ジェイソンが友人に騙されて密売容疑をかけられていることを知る。息子の罪を軽くするためには別の密売人の名前を挙げて司法取引をするしかないが、ジェイソンは友人の密告はしないと言う。

そこでジョンは自分が麻薬の運び屋として犯罪組織に潜入し、証拠を連邦検事に渡すという危険な行動に出る。

スタッフ・キャスト

監督・脚本は『ブラッド・スローン』のリック・ローマン・ウォー

監督のリック・ローマン・ウォーは、スティーヴン・ドーフが家族との再会を願って刑務所での囚人や看守の嫌がらせに耐える『プリズン・サバイブ』(2008年)、飲酒運転で投獄されたエリート金融マンがギャングの大物になる『ブラッド・スローン』(2017年)など、犯罪映画ばかりを撮っている人です。

最大のヒット作はマイク・バニングシリーズ第3弾『エンド・オブ・ステイツ』(2019年)で、全米初登場No.1を獲りました。

豪華な出演者

  • ドウェイン・ジョンソン(ジョン・マシューズ)
  • ジョン・バーンサル(マシューズの会社の従業員ダニエル)
  • バリー・ペッパー(DEA捜査官クーパー)
  • スーザン・サランドン(連邦検事キーガン)
  • ベンジャミン・ブラット(麻薬カルテル幹部エル・トポ)

作品概要

まさかの実話

麻薬密売で収監された未成年の息子の減刑を勝ち取るため、他の売人の情報を提供しようと潜入捜査するド素人の親父という、いくらドウェイン・ジョンソン主演のアクション映画でもぶっ飛びすぎだろというお話なのですが、これがまさかの実話。

事件が起こったのは1992年のこと。ジョーイ・セッテンブリーニが逮捕されたのですが、改正麻薬法により共犯者を密告すれば最低限の罪で済むことを父ジェームズが知り、他の売人の情報を提供することで検察に協力しました。

本作の製作陣はこの話をドキュメンタリーで知り、映画化の着想を得たのでした。

感想

親子のドラマが感動的

高校生のジェイソンが自宅でドラッグの入った宅配便を受け取り、DEAに逮捕される場面から始まります。

実際にはジェイソンはドラッグを受け取るだけで金を稼げるという友人からの誘いにも反発しており、宅配業者が家のチャイムを鳴らしてもギリギリまで受け取りを躊躇していたのですが、「これくらいなら大丈夫だろ」と一瞬だけ魔が刺して、宅配便を受け取ってしまいます。

一部始終を見ていた我々観客は、ジェイソンが僅かな判断ミスを犯しただけの真面目な青年であることを知っているのですが、DEA的には立派な密売人。このままいけば懲役10年という恐ろしい事実が告げられます。

ドウェイン・ジョンソン扮する父・ジョン・マシューズが息子逮捕の知らせを受けて拘置所へとやってくるのですが、離婚後は息子と別居し、新しい家族とやり直しているジョンは息子の身を案じるというよりも、恥さらしな行動しやがってみたいな釣れない態度。元妻に対しても「お前の育て方が悪かったんだろ」と高圧的な言動をとります。

しかし数日後に息子に面会に行くと顔中アザだらけで、さすがのジョンも心配になります。一方息子は父親を心配させたくないのか拘置所内のことには一切触れないし、逮捕されたことについて友人や捜査機関に対する文句や悪口も言いません。

「ドラッグに対する興味はちょっとあったんだ」と自分自身のささやかな心の闇と向き合い、続けて父の新しい家庭を妬ましく思っていたとの罪の告白をします。

ええ子!

「絶対にこの子を出してあげないといけない!」という思いで主人公と観客は一致して本編へと突入していくのですが、主人公の感情的背景が描かれたこの導入部は素晴らしい仕上がりでした。

素人の潜入捜査に冷や冷やしっぱなし

改正麻薬法では捜査機関に別の売人を密告すれば罪は軽減されることから、ジョンは夜の街で売人に接触します。

しかし本作でのドウェイン・ジョンソンはあくまでガタイの良い素人なので、不自然な動きを売人に悟られ、銃を突き付けられてボコボコに殴られてしまいます。

素人考えで危険な場所に片足突っ込んでいく様には『スリー・デイズ』(2010年)のラッセル・クロウ並みに冷や冷やさせられました。お父さん、いくら捨て身とは言え無計画で危なっかしすぎるよと。

自分の家族のために他人の家族を犠牲にするということ

売人にボコられたジョンは考えました。経営する会社は運送業なので、従業員の中に前科持ちは何人かいるはず。そいつらを使って裏社会に入って行けば、良い証拠を入手できるんじゃないかと。

そこで浮上したのがジョン・バーンサル扮するダニエルでした。ダニエルはサービス残業も厭わず真面目に働く新入社員なのですが、かつては「イーストサイドのサメ使い」と呼ばれて街のチンピラたちを震え上がらせるほどの筋金入りのワルでした。

このダニエルの物語も感動的で、イーストサイドにいれば悪い仲間から逃れられないということで、妻子と共に別の街に引越し、貧しいながらも堅実にやり直すことを誓っています。

なので、高額報酬と引き換えに昔の伝手を紹介してくれというジョンに誘いには乗ってきません。それどころか、こんな話をしていること自体が保釈を危なくするから、頼むから近寄らないでくれとまで言います。

ここで観客は複雑な感情を抱くこととなります。

ジョンが息子を救うためにはダニエルの協力が必要。しかしダニエルにギャングへの道案内をさせることは彼の社会復帰を妨げ、妻子を路頭に迷わせることになるかもしれない。

ジョンの家族を救うということは、ダニエルの家族に大きなリスクを負わせるということなのです。実際、息子を救うことで頭がいっぱいのジョンはダニエルがどうなるかなんてことにはほとんど関心を持っておらず、彼を騙してでも利用しようとしています。

息子のためならどんな汚い手でも行使するというジョンの気持ちは分からないでもないし、せっかく真面目にやり直そうとしているダニエルがギャングに再接近して欲しくないという気持ちも沸いてきます。

一体何が正しいのかということに答えは出てきません。

見ごたえあるカーチェイスもあり

半ば騙されるような形でダニエルはジョンの計画に引き入れられ、メキシコの麻薬カルテルにまで辿りついたことから、二人は後戻りができなくなります。

このメキシコのカルテルが本当にヤバイ連中で、白昼堂々の犯罪行為をまったく厭いません。そして、彼らの登場によって銃撃戦やカーチェイスなどの見せ場が連続するようになります。この辺りの構成もうまくできていると感心しました。

特に素晴らしいのがクライマックスのカーチェイスで、かなりド派手で楽しめるのですが、クライム・サスペンスの枠をはみ出すことのないよう、やりすぎになる一歩手前で踏みとどまっており、現実味をギリギリ感じられる見せ場となっています。

≪ジョン・バーンサル出演作≫
フォードvsフェラーリ_ドラマも見せ場も素晴らしすぎる【9点/10点満点中】
ウインド・リバー_半端な社会派サスペンス【5点/10点満点中】
パニッシャー(シーズン1)_コミックを越えたバイオレンスヒーロー【8点/10点満点中】
パニッシャー(シーズン2)_すべてが失敗しており全く面白くない【4点/10点満点中】

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
記事が役立ったらクリック
スポンサーリンク
公認会計士の理屈っぽい映画レビュー

コメント