ゾディアック_怖くて不思議で面白い【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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実録もの

(2007年 アメリカ)
実際の連続殺人事件を映画化した作品。未解決事件だけあって結論のない膨大な資料の山がそこにあったのですが、見事な脚色でこれをエンターテイメントに昇華できており、完全再現された犯行場面の生々しさも不謹慎ながら見所となっています。

あらすじ

1969年、カリフォルニア州ヴァレーホで若いカップルが銃撃を受け、女性は死亡、男性は重傷を負う事件が発生する。その一か月後にゾディアックを名乗る犯人から地元サンフランシスコの報道機関宛に暗号付きの手紙が届き、警察とマスコミは必死に犯人探しを始める。

スタッフ・キャスト

監督は『セブン』のデヴィッド・フィンチャー

1962年デンバー出身。映画好きな父ジャックの影響で自身も映画好きとなり、『スター・ウォーズ』(1977年)に魅了されて映画界入りを決意。高校卒業後にジョージ・ルーカスが経営するVFX工房ILMに入社し、アニメーターとして働きました。

現在の作風からは想像もできませんが、映画人としてのフィンチャーの原体験はスター・ウォーズだったのです。

その後独立して25歳の時にドミニク・セナと共にプロパガンダ・フィルムズを創業。MTVを製作する会社として同社は大きく成長し、1990年には全米のすべてのMTVの1/3を一社で製作するまでになりました。

フィンチャーはMTVであってもストーリー性を織り込むことにこだわりを持っており、その姿勢から『エイリアン3』(1992年)の監督に抜擢されました。ただし『エイリアン3』はスタジオからの干渉に遭ってうまく製作することができず、興行的にも批評的にも苦戦を強いられました。

その後『セブン』(1995年)で持ち直し、『ファイト・クラブ』(1999年)で再び興行的・批評的な苦境に立たされるも(今では傑作扱いですが、公開当時は失敗作と見られており、フォックス社長のクビまで飛びました)、その確実な作風からコアな映画ファンは彼に味方しました。

脚本は『閉ざされた森』のジェームズ・ヴァンダービルド

本作の主人公でもあるロバート・グレイスミスが執筆したノンフィクション小説『ゾディアック』(1986年)を脚色したのはジェームズ・ヴァンダービルド。

1975年ニューヨーク出身。19世紀の鉄道王コーネリアス・ヴァンダービルドの末裔であり、『ダイ・ハード4.0』(2007年)などの俳優ティモシー・オリファントは遠い親戚にあたります。

1999年に名門南カリフォルニア大学を卒業し、2003年には『黒の怨』、『閉ざされた森』、『ランダウン ロッキング・ザ・アマゾン』という3本の作品に脚本家として関わったという早熟ぶりでした。

本作後にはソニーで『アメイジング・スパイダーマン』シリーズ(2012-2014年)のメインライターを務め、同時に『ホワイトハウス・ダウン』(2013年)、『インデペンデンス・デイ リサージェンス』(2016年)とローランド・エメリッヒ作品に二作連続で関わりました。

現在は『ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー』(1997年)の実写化企画に取り組んでいます。

主演は『ブロークバック・マウンテン』のジェイク・ギレンホール

1980年LA出身。映画監督の父と脚本家の母を持ち、姉は『ダークナイト』(2008年)などで知られる女優のマギー・ギレンホールという映画一家の出身です。

名門コロンビア大学を中退して俳優業に専念し、『遠い空の向こうに』(1999年)や『ドニー・ダーコ』(2001年)などの映画ファンからの支持の強い作品に連続して出演しました。

ヒース・レジャーと共演した『ブロークバック・マウンテン』(2005年)でアカデミー助演男優賞にノミネートされて演技派俳優の地位を確立して本作出演に至ります。

たまに『デイ・アフター・トゥモロー』(2004年)や『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』(2010年)のような娯楽作にも出演するのですが、基本的には大人向けのドラマ作品に出演する俳優であり、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『プリズナーズ』(2013年)やダン・ギルロイ監督の『ナイトクローラー』(2014年)が目下の代表作だと言えます。

アイアンマンとハルクが共演

事件を取材する新聞記者役でロバート・ダウニー・Jr.、捜査する刑事役でマーク・ラファロが出演しています。

二人は『アイアンマン』(2008年)からスタートするマーベル・シネマティック・ユニバースの出演者で、ロバート・ダウニー・Jr.はアイアンマンことトニー・スタークを、マーク・ラファロはハルクことブルース・バナーを演じています。

アイアンマンとハルクは絡みも多いことから、それ以前に二人が共演していた本作ではニヤリとさせられる場面が結構あります。

登場人物

  • ロバート・グレイスミス(ジェイク・ギレンホール):サンフランシスコ・クロニクル誌の風刺漫画家だが、元よりパズルのファンだったことからゾディアックの暗号解析に夢中になり、そこからゾディアック事件そのものにのめり込んで10年以上にわたる独自調査を行う。
  • デイブ・トースキー(マーク・ラファロ):サンフランシスコ市警所属で、映画『ブリット』のモデルにもなったスター刑事。ゾディアック事件を担当する。
  • ポール・エイヴリー(ロバート・ダウニー・Jr.):サンフランシスコ・クロニクル誌のエース記者で、ゾディアック事件を担当する。ロバートが非常に詳しい調査をしていることに気付き、ロバートと共に調査を行うようになる。
  • アーサー・リー・アレン(ジョン・キャロル・リンチ):捜査線上に浮上したゾディアック事件の容疑者。刑事からの質問に対して明らかに何かを知った上で応えているような雰囲気や、彼のライフイベントとゾディアックの犯行がピタリと整合していることから、捜査関係者達はほぼほぼ彼が犯人だと確信している。

作品解説

ゾディアック事件とは

ゾディアック事件とは1968年から1974年にかけてサンフランシスコで発生した連続殺人事件であり、具体的には以下の犯行が行われました。

  • 1968年12月20日:ハーマン湖で未成年カップルを射殺
  • 1969年7月4日:ヴァレーホの駐車場で19歳男性と22歳女性が銃撃され、男性は重傷、女性は死亡。
  • 1969年9月27日:ベリエッサ湖畔で20歳男性と22歳女性がナイフで襲われ、男性は生存したが女性は死亡。
  • 1969年10月11日:タクシー運転手が射殺され、財布を奪われる。

本件が特殊なのは警察やマスコミに犯行声明文が送り付けられた劇場型犯罪だった点であり、当時全国民が推理に熱狂したことから社会全体を巻き込む一大ムーブメントとなりました。

加えて、ここまで派手な犯行が行われながらも事件は未解決に終わったことも、事件への関心をより高めるという方向に作用しています。

事件研究の第一人者ロバート・グレイスミスが原作者

本作はロバート・グレイスミスのノンフィクション小説『ゾディアック』(1986年)を原作としています。

ロバート・グレイスミスは劇中でジェイク・ギレンホールが演じている人物であり、本来はサンフランシスコ・クロニクル誌の風刺漫画家でした。

クロニクル誌在籍中にゾディアック事件に遭遇し、関心を持ったことから仕事とはほぼ無関係な個人的活動として独自調査を行い、その結果を著作『ゾディアック』(1986年)にまとめて大ベストセラーになりました。

彼に対しては賛否両論あるようなのですが、ともかくゾディアック研究の第一人者という評価は確立しているようです。

興行的には失敗した

本作は2007年3月2日に全米公開されたのですが、オープニングでは同時期のジョン・トラボルタ主演作『WILD HOGS/団塊ボーイズ』(2007年)の1/3しか稼げず、大差をつけられて初登場2位に甘んじました。

翌週にはザック・スナイダー監督の大ヒット作『300 〈スリーハンドレッド〉』(2007年)が公開されてより厳しい状況となり、4週目にしてトップ10圏外へと弾き出され、全米トータルグロスは3308万ドルにとどまりました。

世界マーケットではやや持ち直したのですが、それでも全世界トータルグロスは8478万ドルであり、劇場の取り分や広告宣伝費までを考慮すると6500万ドルという製作費は回収できていないものと思われます。

感想

圧倒的な密度の物語

本作の上映時間は158分。サスペンス映画としては異例の長尺なのでゆったりとした映画を想像していたのですが、実際は逆でした。

情報の密度が凄まじいことになっており、僅かでもセリフを聞き逃すと何の話をしているんだか分からなくなるという壮絶なことになっています。

ジェームズ・ヴァンダービルドが書いた本作の脚本は200ページにも及んだと言います。脚本1ページは上映時間1分に相当すると言われており、普通に撮れば3時間20分という『ゴッドファーザーPARTⅡ』(1974年)並みの上映時間を要するところ、デヴィッド・フィンチャーは俳優達に間を取らせず早口で喋らせることで40分も尺を縮めているのです。

フィンチャーのこの手法は後の『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)で確立されることとなるのですが、尋常ではないスピード感と、観客に脳のフル稼働を要求するという一風変わった映像体験は本作の時点でもかなり刺激的でした。

殺人場面の極限のリアリティ

有名なゾディアック事件を扱った本作ですが、被害者が生存していた1968年7月のヴァレーホ駐車場の事件と、1969年9月のベリエッタ湖畔の事件が劇中でも詳細に描写されます。

生存者がいる事件のみがチョイスされている点からは極力第三者の想像を挟まないという製作者側の真摯な姿勢が感じられ、実際、これらの再現場面は普通の映画の殺人場面とはかなり趣が異なっており、そこに極限のリアリティを感じました。

事件発生後まもなくは被害者と犯人の会話がまったく噛み合いません。

ある日突然殺人鬼に襲われた被害者がすぐさま状況を認識して怯え始めるという通常のサスペンス映画やホラー映画のやりとりこそが不自然であり、首尾よくいかない本作のやりとりこそが現実的なのでしょう。

そして不条理な会話の途中で突然刃物が出てくるというショッキングな演出もモノにしており、本作の殺人場面にはかなりのインパクトがありました。

殺し方も犯人が感情をこめて刃物を振り下ろすというものではなくて、ザクっザクっと機械的な様子がかなり気味悪く感じました。

大事件に飲まれた者達の物語

ただし本作は殺人事件そのものを描いた映画というよりも、殺人事件に没頭して人生を狂わせていく人々のドラマに主軸が置かれています。

主人公ロバート・グレイスミス(ジェイク・ギレンホール)は地元紙の風刺漫画家なのですが、元よりパズル好きだったことからゾディアックの出した暗号ゲームにのめり込み、そのうちゾディアック事件の個人的な調査がライフワークのようになっていきます。

物語は10数年に及び、その間にロバートは再婚し、また離婚することになるのですが、家庭よりもゾディアック事件の方に関心があり、暇さえあれば事件を調べ回って家族を呆れさせるという事件マニアぶりがかなりイタイ感じでした。

一方、ポール・エイヴリー(ロバート・ダウニー・Jr.)は仕事としてゾディアック事件に関わりました。彼は地元紙のエース記者であるため社会的関心度の高いこの事件の担当となったのですが、やはり謎解きに夢中になって途中からは仕事という感覚を失うようになります。

世間の関心が薄れてもゾディアック事件への取材をやめることはなく、そのうちゾディアックマニアのロバートと一緒になって取材とも言えない取材を行うようになり、社内での信用を損ねてエース記者の立場を失います。

最終的には全国レベルの批判を受けるほどの大誤報をやらかしてしまい、そのショックで飲んだくれ、業務態度を注意してきた上司と喧嘩して会社を辞めてしまいます。

デイヴ・トースキー(マーク・ラファロ)はサンフランシスコ市警のスター刑事で、『ブリット』(1968年)でスティーブ・マックィーンが演じたフランク・ブリットのモデルにもなった人物でした。

ポール・エイヴリーと同じく、社会的関心の高い事件には最高の人材をということでこれを担当することとなったのですが、彼もまた仕事であることを忘れるほどゾディアック事件にのめり込みます。

その結果、長年の相棒は付いてこられなくなって他部署へと移っていくのですが、相棒から転属願いのことを聞かされるまで、彼が不満を抱えているということにすら気付かないほど周りが見えなくなっていました。

そして彼もまた捜査の過程で功名心ゆえの不正を疑われて社会的信用を失ってしまいます。

ゾディアック事件には特有の魅力があり、それにのめり込んだ者達は人生をも狂わされていく。それこそが本作のテーマだったと言えます。

目の前の容疑者を挙げられないというもどかしさ

では、なぜゾディアック事件にこれほどの魅力があったのかというと、明らかに怪しい容疑者が一人にまで絞り込まれているのに、物的証拠が出てこないために目の前のホシを挙げられないという、極めて特殊な状況が発生したためです。

その名はアーサー・リー・アレン(ジョン・キャロル・リンチ)。なんと劇中でも実名が使われており、映画はアレンが犯人だとほぼ断定して作られています。

メジャースタジオのワーナーがここまではっきりと一個人を容疑者と決めつけて映画を作っていることには良い意味でも悪い意味でも驚かされました。これほど腹の座った製作姿勢には確かに感銘を受けたのですが、一方でメディアによる冤罪事件を扱った『リチャード・ジュエル』(2019年)を最近見たこともあって、法的には無罪である人間をここまではっきりと名指ししてもいいんだろうかと。

ともかくこのアレンは怪しさ全開であり、捜査線上に上がってきたこの男と会った誰もが「こいつだ」と確信するわけです。

この「こいつだ」という瞬間が本作の重要ポイントだったわけですが、フィンチャーは見事な演出でこの瞬間を切り取ることに成功しており、登場人物達と同じく観客も「こいつだ!」と叫びたくなるように出来ています。

しかし、絞り込まれた犯人と現場の物的証拠を結びつける作業がまったくうまくいかないわけです。正解は目の前にある。もう少しでゴールなのに物的証拠という最後のピースが見つからないというもどかしさ。

あとちょっと探せば事件を終わらせる何かが出てくるのではないかという点が、マニアたちを事件に縛り付ける大きな誘因になっているのです。

結局、ゾディアックと繋がる物的証拠が出てくることがないまま、アレンは1992年に心臓発作で死亡。事件の真相は永遠に謎となる目算が高くなりました。

とにかくこの映画は面白いのですが、それはゾディアック事件そのものを扱っているようでいて、実際には事件にハマる人達は何に惹き付けられたのかを克明に描いているからなのだろうと思います。

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