潜入者【6点/10点満点_情報整理には失敗しているが高いドラマ性でカバーされている】

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実録もの
実録もの

[2016年アメリカ]

6点/10点満点

■プチブーム中の麻薬カルテルもの

2008~2013年にかけて放送された『ブレイキング・バッド』がブームの火付け役になり、2015年にNetflixがリリースした『ナルコス』が決定打となって、ここ数年のハリウッドは麻薬カルテルもののプチブームともいえる状態となっています(リドリー・スコット監督の『悪の法則』、オリバー・ストーン監督の『野蛮なやつら/SAVAGES』、キャサリン・ビグロー製作総指揮の『カルテル・ランド』、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『ボーダーライン』、トム・クルーズ主演の『バリー・シール』etc…)。

そんな中で、ブームの火付け役となった『ブレイキング・バッド』のブライアン・クランストンが主演し、『ナルコス』シーズン1,2の題材ともなったメデジン・カルテルとの戦争を描いた実録ものの本作には、両作品のファンである私としては否応なく期待値が高まりました。

■ゆるすぎる主人公の行動

今回クランストンが演じるのは実在の覆面捜査官・ロバート・メイザーであり、メイザーはメデジン・カルテルの内部に潜入し、資金洗浄組織の存在を暴き出すことに貢献しました。その過程でBCCI(国際商業信用銀行)が資金洗浄において大きな役割を担っていたことが判明したのですが、このBCCIとはクライヴ・オーウェン主演の激シブアクション『ザ・バンク 堕ちた巨像』の題材にもなった極悪銀行ですね。

巨大麻薬カルテルと極悪銀行が結託する資金洗浄を暴いた覆面捜査官の実録ものと来ればスケールと緊張感に溢れた一大サスペンス大作を期待させられるのですが、その点で本作は不発でした。主人公の行動がとにかくゆるいのです。

映画における覆面捜査官とは家族の元を離れて仮の身分になりきり、身も心も犯罪者に毒される寸前のところでギリギリ耐えている孤独な戦士というイメージなのですが、本作のメイザーは普通に家から潜入先に出勤しているし、本来の勤務先である警察署等にも頻繁に出入りしています。実話がこうだったのだから仕方ないのかもしれないのですが、フィクションの世界に慣れている観客にとってはかなりゆるく見えてしまうために、ひと工夫が必要だったと思います。

また、結婚記念日のディナーにと奥さんとレストランに行くとカルテルの人間とばったり遭遇して冷や汗をかくという展開もあったのですが、身バレしちゃいけない立場の人がカルテルの人間が来るかもしれない店をうろついちゃいけないでしょと、こちらでもガッカリさせられました。

■情報の交通整理ができていない

脚本が悪いのか全体的に情報の交通整理ができておらず、主人公の目の前にいるのは一体誰なのか、この人物に会うことで主人公はどんな情報を引き出したいのか、そしてこの人物に正体がバレるとどれほど危険なことになるのかという最低限の情報すら伝わってきませんでした。しかも話がぶつ切り状態で、連続性のないイベントが羅列されたような内容となっているために、物語全体を貫く大きな波のようなものを作れていませんでした。途中までは本当につまらない映画だったんですよ。

■一気に盛り返したクライマックス

ただし、本作はクライマックスで一気に盛り返します。潜入中にやむなくついたウソがきっかけでメイザーは婚約中ということになっていたのですが、このウソを逆手にとって結婚式を偽装し、カルテル関係者を式に集めて一斉検挙するという作戦が立てられます。確かに効率的な作戦ではあるのですが、式に出席するのはメイザーの結婚を心から祝うつもりで来てくれている人たちばかり。中には指名手配中の人物もおり、本来は高飛びしなければならない立場であるにも関わらず、危険を冒してまでメイザーを祝福しに来てくれているのです。

自分を心から受け入れてくれた人たちを逮捕しなければならないメイザーの心苦しさや、心を許していたメイザーが敵であることを知ったヤクザ達の無念の表情など、この場面のドラマ性の高さには心を揺さぶられました。

The Infiltrator
監督:ブラッド・ファーマン
脚本:エレン・ブラウン・ファーマン
原作:ロバート・メイザー『The Infiltrator』
製作:ミリアム・シーガル、ブラッド・ファーマン、ドン・シコースキー、ポール・ブレナン
製作総指揮:マーティン・ラシュトン=ターナー、キャメラ・ガラーノ、ピーター・ハンプデン、ノーマン・メリー、ブライアン・クランストン、ロバート・メイザー
出演者:ブライアン・クランストン、ダイアン・クルーガー、ベンジャミン・ブラット、ジョン・レグイザモ、エイミー・ライアン、サイード・タグマウイ
音楽:クリス・ハジアン
撮影:ジョシュア・リース
編集:デヴィッド・ローゼンブルーム、ジェフ・マカヴォイ、ルイス・カルバリャール
製作会社:グッド・フィルムズ
配給:ブロード・グリーン・ピクチャーズ(米)、クロックワークス(日)
公開:2016年7月13日(米)、2017年5月13日(日)
上映時間:127分
製作国:アメリカ合衆国

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