(2023年 アメリカ)
前シーズンをすっかり忘れた頃に配信開始されたシーズン3で、最初はさっぱり話が分からなかった。複雑な陰謀劇は相変わらずで、その中心人物であるシリの能力が何なのかが分からないまま勝手に盛り上がってる感もあったのだが、その弱点を補って余りあるほどインパクト絶大な化け物が現れるので、なんだかんだで見ごたえがあった。vol.2も楽しみ。
登場人物
ゲラルトと仲間たち
- ゲラルト:怪物退治を生業とするウィッチャー。驚きの子であるシリの命を守ることを第一としているが、やまない追跡に対してこちらから打って出る必要性を感じ、一時的にシリをイェネファーに託して炎の魔法使いリエンスの撃退に走る。
- シリ:シントラ国の王女にして、古き血脈の末裔。その特殊な血筋ゆえに世界中から狙われているが、魔法と剣術を身に着けたこともあって本人は自信満々の様子で、行く先々でトラブルに巻き込まれる。
- イェネファー:魔法使いで、シリの保護者。隠れ家を転々とする生活に限界を感じ、かつて自分自身も修行をした魔法学校アレツザでシリを保護することにする。併せて、急変する世界情勢に対応すべく魔法会議の招集を呼び掛け、ニルフガードに対して北方諸国が一致団結することを促す。
- ヤスキエル:吟遊詩人でゲラルトの友人。差別を受けるエルフを逃亡させるイソシギとしても活動している。レダニア国王の弟ラドヴィッドと親しくなる。
ニルフガード
- エムヒル:ニルフガード国王にしてシリの父。この世界の覇権のカギであるシリを探している。
- カヒル:ニルフガードの騎士で、エムヒルの腹心。ソドンの戦いでの敗北後に魔法協会の捕虜になったが、処刑寸前でイェネファーに命を救われてニルフガード領シントラに帰還。しかし戦果についてウソをついたためにエムヒルによって捕えられた後、さらなる忠誠を示して再度の復権を図る。
- フリンギラ:イェネファーの同期で、ニルフガードの宮廷魔法使いだったが、カヒルと共に戦果についてのウソをついた罪でエムヒルに囚われ、毒見役として死ぬまで酒を飲まされる立場に落とされた。
レダニア国
- ヴィジミル2世:レダニア国王だが、私生活では気の強そうな王妃の尻に敷かれ、政治面では相談役ディクストラの暗躍を許し、あまり優秀ではない様子。シントラ国の覇権の鍵となるシリを手中に収めるべく弟ラドウィッドを動かす。
- ラドヴィッド:ヴィジミル2世の弟で、遊び人。兄からの命令でシリ獲得に乗り出すが、力による抑圧ではなく保護を提案するなど、意外と的確な交渉力を示す。その過程でヤスキエルと親しくなる。
- ディクストラ:ヴィジミルの相談役で、シリを手中に収めるべく謀略を張り巡らせているが、金ばかり使って成果を残せていない点を王からなじられている。趣味はSM。
- フィリパ:レダニア王家につかえる魔女で、フクロウに変身する。ラドヴィッドと共にヤスキエルを懐柔する。
エルフ
- フランチェスカ:エルフの王で、数十年ぶりとなるエルフの赤ん坊を出産したが、後に何者かに赤ん坊を殺された。子供を殺したのはレダニア国だと思い込み(実際はエムヒル)、その復讐に打って出る。
- ギャランティン:エルフの戦士でゲリラ集団のリーダー。フランチェスカの方針には同意しておらず、ニルフガード配下に入るべくカヒルと共にエムヒルに謁見する。
- ダーラ:シーズン1では逃亡するシリと一時的にかかわりを持ち、現在はフランチェスカが率いるエルフの団体に身を置く。もとはレダニアのディクストラから送り込まれたスパイだったが、現時点で関係は切れている。
その他
- リエンス:もとはシントラ国で幽閉されていた炎の魔法使いだが、現在はシリを付け狙っている。彼の雇い主は現時点で不明。
感想
激しさを増すシリ争奪戦
2023年6月29日の配信開始日にシーズン3第1話を再生したが、前シーズンの内容を全く覚えていなかったので、何が何だかさっぱりだった。数年のブランクが空く場合もある海外ドラマの恐ろしさがこれである。
隣接するシーズン2最終話を見れば大枠を思い出せるかと思って戻って見てみたが、それでも難しかった。
そこでシーズン1第1話から見直すという総復習に踏み切ったのだが、あらためて見返すと忘れていることばかりで驚いた。自分の記憶力は一体どうしてしまったんだろうかと。
コンテンツの供給過剰状態が指摘される昨今だが、日々多くのドラマや映画をフォローしていると、見る端から忘れていくという現象が起こるようだ。皆さんはこの現象にどう対応されているのだろうか。
兎にも角にも準備万端状態でシーズン3に突入したおかげで、本編の理解はばっちりだ。
風雲急を告げる国際情勢の中で、各国が血眼になって探し回っているのがシリ。
シントラ国の王女である彼女との血縁を得ることで、王国の覇権を握ることができる。そうした政治的な意図でシリを追っているのがレダニア国ら北方諸国である。
同時にシリは古き血脈の末裔であり、エルフの予言では救世主とされているため、国を持たず差別に苦しむエルフ達も彼女を探している。
また彼女は魔法など超常的なポテンシャルも秘めているらしく、得体の知れない化け物からも狙われている。
加えて、目的の不明な炎の魔法使いリエンスもちょいちょい彼女に手を出してくる。
まさに大人気状態のシリであるが、本人にその自覚は乏しく、祭りに出たり見世物小屋で遊んだりしては、毎度毎度トラブルに巻き込まれる。
いい加減、賢く振る舞ってくれよと見ているこっちはイライラしてくるが、思えばシーズン1第1話から王宮での暮らしに満足できず、庶民に混じって遊んでいたことを考えると、これが彼女の本性なのだろうとも思ったりで。
至って普通の感性を持つ少女が、たまたま特殊な血筋に生まれ付いたばかりに世界中から狙われる話だと思うと、それはそれで不憫にも感じられてくる。第1話から見直したからこその気づきだろうか。
そんな彼女のドラマを象徴するのが本シーズンにおけるアレツザからの家出騒動で、保護者役を買って出たイェネファーは良かれと思って魔法学校での修行を薦めるものの、シリ本人の意向がまったく確認されない中での押し付けだったので、彼女は家出してしまう。
無防備になったシリはワイルドハントと呼ばれる異世界の略奪者に襲われるのだが、ちょうど良いタイミングで駆け付けたゲラルトの活躍によって事なきを得る。
彼女を付け狙う者達がそれぞれの目的を胸に秘めているのとは対照的に、ゲラルトとイェネファーは疑似的な家族愛から生じる無償の愛情を根拠に、シリを守ろうとしている。その対比が鮮明に描かれた一幕だった。
ゲラルト、イェネファー、シリのドラマはよく機能していると感じた。
陰謀劇は分かりづらいのが難点
一方でスッキリとしないのがシリ争奪戦を基礎とした陰謀劇である。
上述の通り、シリは様々勢力から付け狙われており、王家の血筋を理由としたレダニア国あたりはまだ分かりやすいのだが、エムヒルが実子であるという以上の理由から彼女を捜索していること、異世界の化け物たちにまでターゲットにされていることには、いまだ明確な理由付けがない。
また追跡者としてしばしば現れる火の魔法使いリエンスの雇い主も依然として不明であり、何の理由があるんだかよく分からないまま進行する陰謀劇には、見ていてツライものがあった。
シリの秘密はこれから明らかにされていくのだろうが、現時点では視聴者側に理由が分からないまま登場人物だけが勝手に盛り上がっているような状態であり、これ以上続けられると付いていけなくなるよと言いたい。
またシーズン1の時点から語り口の分かりづらさが指摘されていたが、本シーズンvol.1のクライマックスである魔法会議では、その悪い癖が再燃している。
それぞれに思惑を持つ登場人物が一堂に会した場であり、案の定、剣を使わない攻防戦が繰り広げられるのだが、「〇〇が実は××でした!」というドンデン返しがとにかく分かりづらく、製作者側が意図したほど面白くはなっていない。
もう少し流ちょうな語り口であればスリリングこの上なかったのに!と言いたくなる展開が、こちらの理解不足のまま何となく流される展開に歯がゆい思いがした。
トラウマ級の怪物出現
そんな中での敢闘賞は、中盤に登場した少女の合成獣である。
火の魔法使いリエンスを追う過程で、ゲラルトはある洞窟に入る。洞窟の壁からは3人の少女の生首が出現し、「私を助けてぇ」とか言ってくる。
この時点で十分に気味が悪いのだが、その直後に複数人の人間の体を合成したような化け物がゲラルトを襲ってくる。
咄嗟に反撃するゲラルトだが、化け物の体を斬りつけると、壁の生首が「痛い!」と言う。彼女らの首から下を合成したのがこの化け物だったのだ。
生首少女たちは可哀そうではあるが、そうは言っても目の前の化け物を倒さなければこっちの身が危ないってことで、ゲラルトは怪物を容赦なく斬りつける。その度に「痛い!」「やめて!」と叫ぶ生首たち。
地獄である。
最終的に化け物と生首は絶命するのだけれど、ここまで壮絶な描写をまさかの実写でやり切った本作クリエイター達の創意工夫には恐れ入る。
子供が見たら本当にトラウマになりかねないので、視聴には注意されたい。
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