ウィッチャー(シーズン1)_金かかってますなぁ【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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ファンタジー
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(2019年 アメリカ)
作り込まれた世界観、成功したキャスティングと、非常にしっかりとしたダークファンタジーでした。ただしシーズン1はサーガの序章といった感じで盛り上がりには欠けるので、「完璧な出来!大好き!」とまではなりませんでしたが。

作品解説

小説→ゲーム→実写ドラマ

本作はポーランドの作家アンドレイ・サブコフスキの小説を原作としています。

小説はスラブ神話をベースにしたもので、1986年に短編としては発表された後、1994年から1999年にかけて5本の長編小説が発表されました。

本国ポーランドでは90年代から2000年代にかけて漫画化されたり映画化されたりテレビシリーズ化されたりしていたのですが、世界的な知名度を獲得したのはゲーム化がきっかけ。

2007年に第一弾、2011年に第二弾、2015年に第三弾がリリースされ、うち第三弾『ウィッチャー3 ワイルドハント』は日本版も発売。私はプレイしたことないのですが、なかなか好評の様子ですよ。

で、2019年よりネットフリックスが実写ドラマ化を開始。

元は映画化するつもりだったようなのですが、長大な小説を一本の映画にまとめることは不可能と判断されたことからドラマシリーズという形式が選択されました。

そしてショウランナー(ドラマ制作を統括する責任者)としては、『デアデビル』『ザ・ディフェンダーズ』『アンブレラ・アカデミー』などのネットフリックスドラマで製作と脚本を務めてきたローレン・シュミット・ヒスリックが雇われました。

ヒスリックはシーズン7までの計画を立てている様子で、私としてもぜひ完走をお願いしたいのですが、再生回数が減れば話の途中でも容赦なく打ち切ることでお馴染みのネットフリックスのこと、物凄く金のかかるこのシリーズにどこまで付き合ってくれるかは未知数です。

また現状の隔年リリースというペースだとシーズン7のリリースが2031年末ということになるので、視聴者も出演者もゴールまで持たない可能性もあります。

完走するためには、本作がベンチマークとした『ゲーム・オブ・スローンズ』のように毎年リリースにペースアップしないと厳しいでしょう。

世界観の整理

いろいろ特殊な作品なので、その世界観を備忘的に記録しておきます。私は小説を読んでいないので、テレビシリーズから読み取れる情報のみとなりますが。

人間と非人間が入り乱れる世界

舞台となる世界には元々エルフやドワーフ、精霊たちが生息していたのですが、「天体の合」という日本で言うところのセカンド・インパクト的な大異変によって、人間がその世界に侵入。

攻撃性の高い人間は先住民達を追いやるようになり、エルフは虐殺されて僅かな個体が生き残っているのみ、精霊たちは森の奥深くに逃げ込んで這う這うの体で絶対領域を作り上げ、唯一ドワーフだけは人間社会の中で何とか生存しています。

また魔法使いは人間なのですが、エルフから教わった秘術によって、人間を越えた技と長寿を持つに至った存在です。

その他、この世界には化け物が普通に生息しており、人間に対して危害を加えることから駆除の対象となっています。

ウィッチャーはミュータント

そんな世界でも、タイトルにもなっているウィッチャー(魔法剣士)の立ち位置は特殊なものです。

非人間ではあるがエルフや精霊のような天然ものでなく、薬物を使って強靭な肉体を持つよう変異させられたミュータントであり、その出自ゆえか結構な差別を受けている様子です。

長寿と子孫繁栄はトレードオフ

そしてこの世界の基本原則として、長寿と子孫繁栄はトレードオフというものがあります。

魔法使いとウィッチャーは元は人間でありながらもかなりの長寿で老化スピードも遅いのですが、その代償として彼らは生殖能力を持っていません。

主人公の一人である魔法使いのイェネファーは、何とかして子供を持つ方法はないかと探し回っているのですが、周囲からは「そんないいとこどりできるわけないだろ」と言われています。

“驚きの法”とは

この世界の風習である”驚きの法”は、物語にも大きな影響を与えています。

これは大変な恩義を受けた際のお礼のし方なのですが、お礼の品や方法を具体的に設定するのではなく、「家に戻った時に見つけた、予期していなかったものをあなたに差し上げます」といった具合に抽象的な約束をします。

まさに何が出てくるか分からないから”驚きの法”なんですね。

この法の強制力はかなり強く、常識的に考えて他人に引き渡しようのないもの(例えば家族の誰か)が対象となったとしても、約束しちゃった以上は引き渡さなければならないとされています。

裏を返せば、自分の命以外なら何でも差し出せるほどの大きな恩義を受けた場合にのみ適用される法であり、これを破るということは運命に背くということ。もしも約束を反故にすれば大変な災いが起こるとされています。

本編中には二度も約束を反故にしようとした猛者がいて、実際、大変な代償を払わされました。

登場人物

ウィッチャー

  • ゲラルト(ヘンリー・カヴィル):通称「リヴィアのゲラルト」。強靭な肉体を生かした化け物狩りを生業としています。世界中を旅しており、かつ長寿ということもあって各地に知り合いがいる様子。設定上は武骨かつ無口ということになっているのですが、その交友範囲の広さを見ると、意外と社交的とも思えます。

魔法協会

  • イェネファー(アーニャ・シャトラ):奇形で生まれたことから幼少期には劣悪な環境で育てられましたが、ティサイアに見初められて魔法使いとして育成され、また魔術によって美しい容姿を手に入れました。最高の宮廷魔術師と呼ばれるほどの評価を得るものの、男子を産めない王女を国王が暗殺するという現場に出くわして以降は各地を放浪するようになり、その過程でゲラルトと出会います。
  • ティサイア(マイアンナ・バーリング):魔法使い養成機関アレツザの学長で、かなり厳しい指導を行うことから学生達からは恐れられています。少女時代のイェネファーを4マルクで買い取って魔法使いとして育成し、一本立ちした彼女を最高の弟子であると評価しました。
  • ヴィルゲフォルツ(マヘシュ・ジャドゥ):熟練の魔法使いであるが、得意なのは剣を使った武闘であり、そのことを協会内でも揶揄されています。ニルフガード王国による北方への侵攻をティサイア共々憂慮し、賛同する22人の魔法使いを率いてソドンの丘の戦いに挑みます。
  • ストレゴボル(ラース・ミケルセン):熟練の魔法使い。魔法協会での発言力を見るに、その地位は相当高い様子。ただし日食の間に生まれた少女を監禁して解剖するなど狂信的面も強く、ゲラルトやイェネファーからは一線を引かれています。基本的には面倒事に巻き込まれたくないタイプで、ニルフガード対策でも「下手に手を出さない方がいい」という態度をとります。
  • イストレッド(ロイス・ピアソン):ストレゴボルの弟子。少女時代のイェネファーと知り合い、一時、恋仲になります。宮廷に仕えて政治に参加することよりも、遺跡の発掘など文化的活動を好む平和主義者。
  • トリス(アナ・シェイファー):テメリア王国の宮廷魔術師。怪物化した王妃の呪いを説く際にゲラルトと共闘しました。ソドンの丘の戦いに参加。

シントラ王国

  • キャランセ女王(ジョディ・メイ):通称「シントラの雌獅子」。「シン虎なのに獅子とは此れ如何に」というオヤジギャグはともかくとして、自ら鎧を着て前線に出ていくほどの武闘派で、為政者としては恐らく優秀。ただし無駄に気位が高い、差別主義者、頑固者といった具合に欠点も多く、二流国家と見下しているうちに力を付けていたニルフガード王国との戦争に敗北します。演じているのは『ラスト・オブ・モヒカン』(1992年)でマデリーン・ストウの妹役を演じていたジョディ・メイで、儚げな美人だった彼女が武闘派に進化していることに驚きました。
  • シリラ(フレイヤ・アーラン):キャランセ女王の孫で「シントラの子獅子」と呼ばれています。両親を海難事故で亡くしたことから祖母に育てられていました。ニルフガード王国からの侵攻を受けた際には陥落寸前の王宮から脱出して、一人、森に逃げ込みます。以降は「リヴィアのゲラルトを頼れ」という祖母の言いつけ通りに、ゲラルトの元を目指します。
  • マウスサック(アダム・レヴィ):キャランセ女王に使える魔法使いで、ゲラルトとも面識を持っています。

ニルフガード王国

  • カヒル(エイモン・ファーレン):黒い羽根兜の騎士で、何らかの理由でシリラを追っています。
  • フリンギラ(ミミ・ンデェウェニ):ニルフガード王国に使える魔法使いで、イェネファーの同期。元はエイダーン王国に赴任する予定でしたが、イェネファーがエイダーン国王を誘惑したため、直前で赴任先を変更されたという経緯があります。

その他

  • レンフリ(レナ・アップルトン):元王女でしたが、魔法使いストレゴボルから日食の呪いだと言い掛かりをつけられて王宮を追われ、以降は盗賊として暮らしています。憎きストレゴボルの命を狙っており、またその過程でゲラルトと出会い、良い感じになりました。登場話数は少ないが、主人公ゲラルトに大きな影響を与える人物。
  • ヤスキエル(ジョーイ・ベイティ):吟遊詩人ですが、歌詞の内容が率直過ぎて聴衆を怒らせることの方が多い様子。作詞能力を磨くためゲラルトの旅に同行し、ゲラルトは彼が作った武勇伝によって名声を高めたので、一応はWIN-WINの関係にはあります。ゲラルト本人からはさほど歓迎されていませんが。

感想

世界観を表現する秀逸なデザイン

中世風の世界を舞台にしたダークファンタジーは人気ジャンルであり、『ロード・オブ・ザ・リング』や『ゲーム・オブ・スローンズ』と言った傑作も排出されていますが、金に糸目をつけないネットフリックスのこと、本作もそれらに比肩するビジュアルを誇っています。

絢爛豪華な宮廷に目を奪われたかと思えば、汚れ寂れた寒村の実在性にも驚嘆させられる。

巨大建造物にはこの社会が積み重ねてきた歴史を反映するかのような重厚感があり、これと対比される大自然によって世界観の広がりが表現されています。

また複数の国家や種族の入り乱れる物語にあって、服装や武装のデザインの違いにより文化圏の違いを表現している点にも注目。

例えばシントラとニルフガードというライバル国家の武装をとっても、長い伝統と豊かな財力を持つシントラ軍の鎧には手の込んだ装飾などが施されているのに対し、新興のニルフガード軍は個性のない武骨な黒い鎧で統一されています。

これら鎧のデザインに着目するだけでも、両軍の歴史的背景や戦争観、軍事作戦の進め方の違いが見えてくるのだから、実によく出来ています。

キャストのハマリ具合は上々

そしてキャスティングも成功しています。

主人公ゲラルト役は、『ジャスティス・リーグ』『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』でお馴染みのヘンリー・カヴィル。

本作出演者中最大のビッグネームですが、カヴィル自身がゲラルト役を熱望し、プロデューサーへのアプローチをかけて役をゲットしたそうです。

本作に対する意気込みには並々ならぬものがあって、ドウェイン・ジョンソンのトレーナーを雇って体づくりを行い、カヴィル史上最高の仕上がりになったとのこと。

そんなカヴィルのイケメンマッチョぶりによって、ゲラルトの非人間性や神秘性が具体化されているし、差別を受けながらも淡々と戦うミュータントの苦悩も表現できています。

加えて、レンフリに影響されたり、イェネファーにぞっこんラブだったりといった熟練モンスターハンターらしからぬ恋愛体質もカヴィルの持つ個性のおかげで無理なく表現できており、彼以外に適任者はいないんじゃないかという程ハマっています。

他方、イェネファー役のアーニャ・シャトラシリラ役のフレイヤ・アーランは無名に近い女優さんを起用しているのですが、どちらも堂々たる演技と存在感を披露しています。

ちなみにイェネファーの生い立ちは原作になく、魔法使いになる前のエピソードはドラマオリジナルのようなのですが、アーニャ・シャトラの熱演によって壮絶な少女期が実にドラマチックになりました。こちらも必見です。

物語はやや複雑で大きな流れは生まれていない

物語は、ゲラルトの旅、シリラの逃亡劇、イェネファーのオリジンという3つのラインで進んでいき、シーズン最終話でこれらの流れが一つに合流する構成となっています。

別々の物語が並走する形になっているので勢いという点では今一つだし、うちゲラルトの物語は単発エピソードの羅列になっているので、これまた次の展開が気になるような求心力はありませんでした。

加えて、時系列が複雑で理解し難かったことも、全体にとってマイナスに作用しています。

3つのラインは異なる時系列で展開しており、ゲラルトの物語は20年間、シリラの物語は2週間、イェネファーの物語は70年間という違いがあります。

この構成はクリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』から影響されたものなのですが、基本がシンプルな戦争映画と、多くのキャラクターが入り乱れ、舞台も度々移り変わるファンタジーでは随分と勝手が違うようで、その理解にはかなり苦戦させられました。

第3話、4話辺りは、本当に何やってんだか分かりませんでしたからね。ウィキのあらすじを見てようやく理解できたほどです。

やるならやるで、某SFドラマ(ネタバレになるのでタイトルは割愛)のように叙述トリックとして活用し、「実は時系列が違っていたんです!」という中盤のドンデンとして見せれば効果的だったと思うのですが。

強烈なヒールがいない

そして主人公達にフォーカスした内容だけに強烈なヒールが不在だったことも、物語の求心力不足に繋がっています。

本作がベンチマークにしたであろう『ゲーム・オブ・スローンズ』が顕著な例なのですが、物語とは往々にして強力な悪役やムカつく小悪党が進めていくものです。

ラムジー・ボルトンとかハイスパローのようなクソみたいな連中が場を引っ掻き回し、ムカつくんだけど次が気になって仕方ないということがゲースロの魅力でした。ジョフリー王が死んだエピソードでは、本国のTwitterは大賑わいだったらしいし。

その点で言うと、本作にはインパクトのあるヒールがいないんですよね。

敵国となるニルフガード王国は顔のない軍隊のような描写であり、いまだ指導者も姿を現さないので視聴者にとっての憎しみの対象となりえていないし、行く先々でゲラルトが出会う敵キャラも小物ばかりで、対処に困るレベルは現れていません。

しいて言えば、事あるごとに頑固を炸裂させるキャランセ女王(ジョディ・メイ)と、高位にありながら姑息さが見え隠れする魔法使いストレゴボル(ラース・ミケルセン)辺りかなと思うのですが、今のところさほどのインパクトはありませんね。

完璧ではないが期待の高まる序章だった

そんなわけで、めちゃくちゃ面白かった!というわけでもないのですが、各構成要素はしっかりと作られているので、本筋に入るとさぞかし面白かろうという期待は高まりました。

2021年12月に配信開始されたシーズン2に続き、シーズン3の製作もすでに決定済みなので、リリースが続く限り本作を見続けることになるだろうと思います。

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