ブラック・ウィドウ_スパイ映画としては赤点【5点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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マーベルコミック
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(2021年 アメリカ)
アベンジャーズにいる時よりも数段弱くなったブラック・ウィドウがロシアの工作機関と戦うというあまり盛り上がらなそうな話で、実際、盛り上がりませんでした。唯一良かったのがブラック・ウィドウの古巣スパイ一家で、全員がキャラ立ちしていて楽しめました。

作品解説

007シリーズとの関連性

本作はスパイものであるためか、007との関連付けが恐らく意図的になされています。

まずノルウェーの隠れ家でナターシャが見ている映画が『007 ムーンレイカー』(1979年)で、別の場面では『ムーンレイカー』の台詞の引用もあります。

そしてタスクマスター役のオルガ・キュリレンコは『007 慰めの報酬』(2009年)のボンドガールだし、レッド・ガーディアン役のデヴィッド・ハーパーもCIA南米局長役で『慰めの報酬』に出演していました。

またメリーナ役のレイチェル・ワイズはジェームズ・ボンドを演じるダニエル・クレイグの妻で、『007 スカイフォール』(2012年)『007 スペクター』(2016年)を監督したサム・メンデスとの交際歴があります。

MCU初の女性監督

本作の監督はオーストラリア出身のケイト・ショートランドで、MCU初の女性監督となります。

2004年に『15歳のダイアリー』で長編デビューし、戦争映画『さよなら、アドルフ』(2012年)とスリラー『ベルリン・シンドローム』(2017年)が代表作。

バックパッカーの女性が現地男性からの被害を受ける『ベルリン・シンドローム』が、ブラック・ウィドウの生い立ちと合致していたことが起用理由ではないかと推測しています。

感想

コミックとリアル路線の折衷の失敗

コミックにおけるブラック・ウィドウ/ナターシャ・ロマノフとはロシアのスパイであり、その存在は現実世界のあり方を反映したものでした。

その単独主演作となればリアルに通じる感覚が意識されることとなり、作風的には『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014年)に近づけたかったのかなと思います。

ただし『ウィンター・ソルジャー』が安全のための監視をどこまで許容するのかという現実的な問題を提起したのに対し、本作は適切なテーマを最後まで見つけられなかったという印象です。

物語は1995年から始まり、少女期のナターシャは『ジ・アメリカンズ』(2013-2018年)のような潜入スパイとして偽装家族と共にオハイオ州に潜伏しています。なお少女期のナターシャを演じているのは女優ミラ・ジョヴォヴィッチの娘さんです。

その後、任務を終えた一家は解散させられ、ナターシャはレッドルームと呼ばれる暗殺者養成施設に入れられて、いろいろあってアベンジャーズの一員となって現在に至るというわけです。

で、今なお続くレッドルームを壊滅させることが今回のナターシャの目的となるのですが、ここで問題となるのがレッドルームがどういう組織なのかよくわからんということです。

1995年からの一連の流れを見るとロシアという国家が動かす機関なのかなと思うのですが、2015年現在はドレイコフ(レイ・ウィンストン)の私設軍隊のようになっており、国家の関与は希薄に感じられます。

レッドルームに入れられる子供がロシア系のみならずアフリカ系やアジア系など幅広い人種であることも、国家感を薄める要因となっているし。

この点、相手が国家か私設軍隊かでは問題の根深さが違います。

もしドレイコフが勝手に動かしているだけの組織ならば目の前の機関を潰せば終わりなのですが、国家が運営する機関ならば一つ潰しても第2第3のレッドルームを作られるだけなので、体制そのものを変えなければ問題は解決しません。

この辺りの設定が曖昧なので戦いにスッキリしないものがありました。

加えてキーアイテムとなるのが暗殺者の洗脳を解く赤い薬品というご都合主義の塊のようなアイテムで、一体誰が何の目的で作ったものなのかすら説明されないこの薬品が前半部分での争奪戦の対象となるのですが、その存在自体が馬鹿馬鹿しく感じられたことも大きなマイナスでした。

さらには後半に入るとその存在自体が忘れ去られるという有様で、一定の軸がなく方向転換を繰り返し続ける物語であることも、映画全体の求心力を奪うことに繋がっています。

平常運転に戻った途端に弱くなるヒーロー

そして肝心の見せ場ですが、こちらも今一つ。

設定上の年代は『シビル・ウォー』『インフィニティ・ウォー』の間で、上映順的には『エンドゲーム』の後なので、どうしてもアベンジャーズの一員として獅子奮迅の活躍を見せたブラック・ウィドウの印象が強いわけです。

ワカンダでサノスの大群と戦った彼女の戦力からすればロシア諜報機関など大した敵には見えず、いつもなら瞬殺できそうな敵に手間取る展開が面倒で仕方ありませんでした。

また今回の脅威となるタスクマスター(オルガ・キュリレンコ)も有効活用できていません。敵の戦闘スタイルを完コピできるというミミック系の敵で、ブラック・ウィドウの他にキャプテン・アメリカやホークアイのスキルも習得しているようなのに、これが全然厄介ではないので拍子抜けでした。

さらに、007を意識してかラストではノーパラシュートで飛び降りるというスカイアクションがあって、スカーレット・ヨハンソン自らがスカイダイビングをするなど結構ガチ目で撮影されているのですが、監督にアクションを見せるセンスがなかったためかガチスタントでも合成に見えてしまっており、007のような興奮を生み出せていません。

疑似家族の物語だけは良かった

そんなわけで全体的には厳しい出来だったのですが、ナターシャが疑似家族と再会する場面だけは良かったですね。

父親役のアレクセイ(デヴィッド・ハーパー)は当時を回想して「あんなつまらない仕事をさせられて」と言うし、母親役のメリーナ(レイチェル・ワイズ)は「任務だったからねぇ」なんて態度なのですが、子供達からすると偽装でも大事な思い出だったわけです。

親のいないナターシャとエレーナ(フローレンス・ピュー)にとっては人と繋がった唯一の経験だし、任務ばかりの人生の中で普通の家庭生活を送った貴重な時間でもあります。

だからこそ両親のその態度に「え?」となるわけですが、その空気を察したアレクセイとメリーナが「仕事としてはということであって、お前らとの生活は楽しかったさ」と慌てて言い換える辺りの優しさは良かったですね。

偽装家族であっても彼らに精神的な繋がりはあったわけです。

そこから一家はレッドルーム壊滅のために協力して動き出すのですが、豪胆だがうっかりも多い父アレクセイ、知見に優れた母メリーナ、しっかり者の長女ナターシャ、奔放なムードメーカーの次女エレーナという各自の性格付けもしっかりとしており、彼らの団結には高揚感もありました。

レイチェル・ワイズでは見た目が若すぎて、スカーレット・ヨハンソンの母親というにはちょっと厳しいかなとも思ったのですが、全員が何かしらの薬品を投与されている一家なので、彼女の場合は老化しない処置が施されていると強引に解釈しながら見ました。

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