最後の決闘裁判_リドリー・スコットの集大成【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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中世・近代
中世・近代

(2021年 アメリカ)
女性が所有物として扱われる時代の不条理な裁判をモチーフにしているのですが、その根本的な不備は現在でも解消されておらず、これは今を描いた作品でもあります。そうしたテーマ設定のすばらしさ、羅生門スタイルをとった脚本の出来の良さに加えて、リドリー・スコット監督のエッセンスが凝縮された内容ともなっており、その濃密さに圧倒されました。

感想

女性は所有物、裁判に負ければ偽証罪で火あぶり

ある女性が夫の友人に強姦され、告発するも決着がつかなかったので、被害者の夫と加害者が決闘裁判で決着をつけるというのがザクっとしたあらすじ。

このあらすじを見た時点では、妻の名誉を守るため被害者の夫が命がけで立ち上がるという内容を何となく想像していたのですが、実際の映画はそんなものではなかったので驚きました。

まず決闘裁判とは証人や証拠が不足している係争案件について、原告と被告のサシの勝負で決着をつけるという裁判方法であり、「神は正しいものに味方する」という考え方を基礎としています。

私がこの考え方を初めて知ったのはテレビドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』で、狂気の沙汰としか言いようがなかったのですが、10-12世紀のヨーロッパ社会においては制度化されて実際に運用されていたとのこと。

狂気と言えば当時の人権意識も同じくで、訴訟を起こす権利を持っているのは男性のみであり、女性が被害者の場合、「所有権の侵害」という形でその夫しか訴えを起こせないという、これまた物凄い状況がありました。

本作は、そんな感じでいろいろとヤバイ14世紀のフランスを舞台にしています。

知人であるジャック(アダム・ドライバーに)に強姦された主人公マルグリッド(ジョディ・カマー)は、自分で訴えを起こせないものだから夫ジャン(マット・デイモン)に被害を打ち明け、ジャックに法の裁きを受けさせようとします。

夫ジャンは立ち上がるものの、それは妻を思う気持ちからというわけでもなく、自分の所有物に手を出されたことへの怒りと、長年に渡って確執を抱えてきたジャックに対して一撃を与えたいという思いを起点としており、あくまで彼自身の自尊心の問題であるという点が事態をややこしくします。

最終的にジャンは決闘裁判で真実を明らかにする道を選択するのですが、決闘の附帯条件として、もしジャンが負ければマルグリッドは偽証罪に問われ、決闘場で火あぶりに処せられます。

マルグリッドからすればそこまでして争う気もなかったのですが、どうしても怨敵との決着をつけたいジャンは、重いリスクを妻に負わせてまで決闘を選択したわけです。

被害者不在どころか、被害者に対して深刻なリスクを負わせてまで進んでいく裁判。

なんというひどい話だろうと思うのですが、訴えを起こす側がダメージを受ける、そのダメージがイヤなので被害者は泣き寝入りするしかないという構図は現在の裁判においても続いており、これは今を描いた作品とも言えます。

孤立無援の主人公

夫ジャンのみならず、周辺人物の誰一人マルグリッドを心配する様子がないという点も衝撃的でした。

姑のニコール(ハリエット・ウォーターズ)からは、「私だって若い頃は強姦被害に遭ったけど、訴えたってどうなるものでもないから黙ってたわよ。なんでわざわざジャンに言ったの」と責められる。

また、強姦被害のタイミングとたまたま重なってしまったために、友人マリー(タルーラ・ハドン)の懐妊を祝福できず、マルグリッドはマリーからの恨みも買ってしまいます。

裁判に出廷すれば、医師や聖職者から「その時、快楽を感じていたのかどうなのか」という不条理質問を受け、国王を含む公衆の面前でこれに答えなければならないという屈辱までを受ける。

マルグリッドに対する扱いがあまりに酷く、純粋に彼女の被害を心配する人が誰一人いないという状況には絶句しました。

リドリー・スコットのキャリア集大成的作品

この不条理劇を監督したのはご存じリドリー・スコット。

『オデッセイ』で組んだマット・デイモンから本作の依頼を受け、雇われ監督という形で作品に関わっているのですが、図らずもこれがスコットのキャリアの集大成的な作品となっています。

男と男の長年に渡る確執と決闘という題材は監督デビュー作『デュエリスト/決闘者』(1977年)そのものであり、対決の爽快感よりも、いつまで意地だの沽券だのにこだわってるのという内容面も共通しています。

監督第2作『エイリアン』(1979年)は男性器の形をしたエイリアンに女性クルーが追い掛け回される話で、モロに強姦を想起させる内容でした。

そして監督第3作『ブレードランナー』(1982年)は、自我を持つにもかかわらず、人間から設定された目的のためにしか生きられないレプリカントを描いた物語でしたが、これは不名誉を背負った父親の計画で政略結婚をさせられ、結婚後には夫の所有物となったマルグリッドの物語と通じています。

そして本編に度々登場する中世の戦場場面は『キングダム・オブ・ヘブン』(2005年)だし、クライマックスの決闘場面はアカデミー賞受賞作『グラディエーター』(2000年)のブローアップ版と言えます。

本作では優れた脚本にリドリー・スコット監督のエッセンスが凝縮されており、153分という長めの上映時間を感じさせないほどの濃密な作品となっています。必見。

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