(1985年 アメリカ)
巨額の製作費と腕の良いスタッフを大勢使っただけあって見るべきものは確かにある作品なのですが、話があまりにつまらなすぎてつらかったです。またリドリー・スコットが観客に媚びた感じになっているのもらしくなかったし、スコットのキャリア中ワースト作品は本作だと思います。
あらすじ
魔法の時代。王女リリーは美しい姿に魅せられて触れてはならないユニコーンに触れてしまう。その瞬間に世界には呪いがかかり、リリーも魔王に囚われてしまう。リリーと親しい森の青年ジャックは、世界の救済とリリー奪還のため魔王の拠点を目指す。
作品概要
スタッフが超豪華
- リドリー・スコット(監督):デビュー作『デュエリスト/決闘者』(1977年)でカンヌ映画祭新人監督賞受賞。『エイリアン』(1979年)、『ブレードランナー』(1982年)とSFの傑作2連発に後で本作を監督しました。ただし本作の興行的不振が原因で、『グラディエーター』(2000年)で復活するまでの間は雇われ仕事が続くこととなりますが。
- アーノン・ミルチャン(製作):1944年イスラエル出身の映画プロデューサーで、『未来世紀ブラジル』(1985年)、『プリティ・ウーマン』(1990年)、『沈黙の戦艦』(1992年)、『ヒート』(1995年)、『L.A.コンフィデンシャル』(1997年)、『ファイト・クラブ』(1999年)、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014年)、『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)と、おびただしい数のヒット作・名作を送り出してきました。
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ボヘミアン・ラプソディ【8点/10点満点中_音楽映画としては最高。ただし事実との相違が気になる】 - アレックス・トムソン(撮影):ニコラス・ローグ監督の元で撮影技師として働き、『エクスカリバー』(1981年)でアカデミー撮影賞ノミネート。他に『エイリアン3』(1992年)、『クリフハンガー』(1993年)、『デモリションマン』(1993年)を手掛けています。
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デモリションマン【凡作】期待しすぎなければ楽しめる(ネタバレなし・感想・解説) - テリー・ローリングス(編集):リドリー・スコット監督の『エイリアン』(1979年)やアカデミー賞受賞作『炎のランナー』(1981年)などを手掛け、また混乱した『エイリアン3』(1992年)の現場にも召喚されました。
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- ロブ・ボッティン(特殊メイク):14歳でリック・ベイカーに実力を認められ。21歳で『ハウリング』(1981年)、22歳で『遊星からの物体X』を成功させた天才本作でアカデミーメイクアップ賞ノミネート。ポール・バーホーベン監督の『トータル・リコール』(1990年)でアカデミー視覚効果賞を受賞しました。
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複数のバージョンについて
本作はアメリカでの配給をユニバーサルが、世界での配給をフォックスが行ったことから劇場公開時点からアメリカ公開版と国際版で差異があり、さらには後にDVDでディレクターズ・カット版がリリースされたため、3バージョンが存在しています。
- 国際版(94分):当初の予定通りジェリー・ゴールドスミスのスコアが全編で使われている。
- アメリカ公開版(89分):ユニバーサルからの指示で短縮されたバージョン。冒頭に設定や世界観を説明するためのテロップが入る(ユニコーンの設定等は不明だったため、このテロップは重要)。魔王が冒頭で登場する。若者からの支持を得られるようにと、音楽がすべてタンジェリン・ドリームによるスコアに差し替えられている。またリリーの設定が王女ではなく、ただのレディ。
- ディレクターズ・カット版(114分):各シーンが微妙に長いが、映画の認識を一変させるような追加は特にない。音楽はジェリー・ゴールドスミスに戻されている。またリリーの設定は王女。
感想
トム・クルーズの美しさが異常
撮影時22歳のトム・クルーズの美しさが異常なことになっており、彼こそが本作最大の見せ場となります。その美しさは王女様を霞ませるほどであり、実際、リドリー・スコットは王女様を見せることをほぼ放棄してトム様を美しく見せることに専念しています。
ただし中盤以降に彼が着る鎧は悲惨なことになっていました。カバーされているのが上半身のみで、下半身は生足状態。はき忘れた感じになっています。足までちゃんとカバーしてあげてね。
分かりづらい導入部
王女ではあるがお転婆で森をふらつくのが趣味のリリー。実は動物と話せる青年ジャックと良い仲であり、今日もジャックに会いに来ていました。
リリーを驚かせたいジャックはつがいのユニコーンを見せるのですが、あまりの美しさにリリーはユニコーンに触れてしまいます。丁度そのタイミングで放たれた小鬼の毒矢がユニコーンにヒットし、逃げていくユニコーン。
するとさっきまでの陽気がウソのように周囲では嵐のような風が吹き始め、ジャックはリリーに「神聖なユニコーンに触れちゃいけなかったんだ!」と言います。
いや、それはリリーがユニコーンのところへ行こうとしてた時に言えよと。
リリーはリリーで「触ってみたかっただけじゃない、それがいけないこと?」と居直ります。知らなかったとは言え、やってしまったことについて一言くらい謝らないのかと。
そして周囲の異変を気にし始めるジャックに対して、リリーは「歌で不安を消してあげる」と言って釣鐘草がどうのこうのという呑気な歌を歌い始めます。リリー、だいぶイタい人のようです。
ジャックはジャックで、釣鐘草の歌を聞いてユニコーンのことはすっかり意識からは消えたらしく、自分のような身分のものが王女様と恋をして傷つくことはないかという不安を口にし始めます。嵐のような風がビュービュー吹いている中で。
するとリリー、身に着けていた指輪をおもむろに外して「これを拾ってきたら結婚するわ」と崖の下の川に向けて放り投げます。躊躇せず川へ飛び込むジャック。その瞬間に嵐は吹雪へと変わり、リリーは「きゃ~!」と言って小屋に逃げ込んでいきます。川に飛び込んだジャックを置き去りにして。川から這い出たジャックはジャックで、リリーではなくユニコーンの状態を確認しに行きます。
ジャックとリリーのやってることがバカ過ぎて何が起きているのかを理解しづらい上に、ユニコーンの話とバカップルの話が交互に出てくるので物凄く分かりづらい構成となっています。
ユニコーンが弱った理由にしても、リリーが触れたことと毒矢が刺さったことのどちらが原因なのかも分からないし、ユニコーンが不調になると世界が荒れるという理屈も唐突過ぎて腑に落ちなかったし、分からないこと尽くしの導入部でした。
盛り上がらないアドベンチャー
こうして始まったアドベンチャーも全然面白くありませんでした。
この手のアドベンチャーって最終的に魔王に勝利することは分かっているのだから、プロセスこそが醍醐味だと思います。独創的な世界を見せたり、味のある仲間がパーティに参加したり、魔王以外の思いもよらぬ刺客が現れたりと。
しかし、作品はそのどれもがダメでした。分かり切った結末に向けて物語が一直線に進んで行くのみで、どこで面白くするのかという設計がまったくなされていません。
加えて、戦闘経験ゼロの主人公でも何とかなるほど敵(魔王を含む)が弱いので、バトルものとしても興ざめでした。
また前作『ブレードランナー』(1982年)の興行的失敗で焦っていたリドリー・スコットが妙に観客に媚びる感じで作っており、子供から大人にまでウケるスピルバーグのような大衆娯楽路線が彼らしくありませんでした。
その結果としてスコット特有のクールな美学が消え失せていたのだから、スコットにはいつも通りにやって欲しいところでした。
≪リドリー・スコット監督作品≫
ブレードランナー_映像美のみで突き抜けた映画【5点/10点満点中】
レジェンド/光と闇の伝説_お姫様よりも美しいトムを見るだけの映画【3点/10点満点中】
キングダム・オブ・ヘブン_深遠なテーマと圧倒的映像美【9点/10点満点 】
エクソダス:神と王_宗教が苦手な方こそ必見【9点/10点満点中】
コメント
王女がバカすぎて途中で止めよと思ったのですが、こちらがあまりにも面白かったので最後まで観ました。
ほんとにその通り過ぎてお陰で楽しく観れました。
私には王女がさほど美人とも魅力があるとも思えなかったのですが、何でジャックがあそこまで入れ込むのか謎でした←最大の謎
楽しいレビューをありがとうございました。
ぼのぼの 様
コメントいただき、ありがとうございます。
意図的に陳腐なおとぎ話風にした部分もあれば、天然でおかしなことになっている部分もあるんでしょうけど、全体としては天然の部分が勝ってるのかなと思います。
リドリー・スコットとトム・クルーズの映画とは思えないほどおかしな作品でしたよね。
この二人が二度と仕事をすることがないのも、本作がツラすぎたからではないかと思います。