マネーショット Pornhubは語る_正義こそ凶器【8点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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実話もの
実話もの

(2023年 アメリカ)
世界最大のポルノ動画サイトが社会的追及を受けた顛末を追ったドキュメンタリーだが、真面目かつ合法的に働いているポルノ業界人が食い扶持を奪われる一方、正義をかたる側の弁護士や市民運動家の背後には何やらきな臭い団体が存在しており、表面的な善悪とは違った世界が広がっていることに驚愕した。必見のドキュメンタリーである。

感想

Netflixの良質なドキュメンタリー

Netflixで配信されていたのを鑑賞。

作品に関する予備知識はなく、ちょっとふざけたサムネに、題材はポルノサイトということで、業界の内幕を面白おかしく明かす内容なのかなと思って見始めたが、映画の進行とともに作品のトーンはどんどんシリアスになり、最後には堂々たるドキュメンタリー作品として終わった。

ここまでの内容を期待していなかったので、正直、このクォリティには驚かされた。

2020年12月に世界最大のポルノ動画サイトPornhubが動画の大半を削除したという報道はネットニュースで知っていたし、何やらやばい動画をあげていたので社会から許容されなくなったという背景で理解していたのだけれど、実情はそんなに単純な話でもなかったというのが、このドキュメンタリーの内容。

Pornhubというサイト自体にも確かに問題はあったが、それを攻撃する連中は性産業そのものを敵視しており、合法的に活動するセックスワーカー達から仕事を奪おうとしていたということがわかってくる。

アメリカのドキュメンタリーらしく、ポルノ業界側と規制側双方の当事者に対してインタビューを敢行し、公聴会の様子など入手可能なフッテージも駆使しつつ、物事の全容を明らかにしようとする。

一側面からのアプローチで結論ありきの内容に終始する日本のドキュメンタリーとはまったく違った知的興奮を味わえるし、構成もよくできており、やや入り組んだ内容を実に分かりやすく伝えてくれる。

誰からも真剣に扱われないであろうポルノサイトに注目した題材選びのセンスと言い、全方位的に冴えわたったドキュメンタリー作品だと言える。

Pornhubとは

Pornhubは2007年にカナダの大学生が作ったポルノサイトだったが、2010年、複数のポルノサイトを運営するカナダの未公開企業マインドギーク社に買収された。

マインドギーク社CEOファビアン・ティルマンは検索エンジン最適化(SEO)の天才だった。SEOとはGoogleなどの検索で対象となるサイトを上位に表示させるための一連の施策であり、ティルマンの手腕でPornhubはトラフィックを激増させた。

2013年、ティルマンは脱税容疑をかけられ、会社の経営から退く。

マインドギーク社を引き継いだ3名の経営者はプロモーションの天才で、タイムズスクエアにPornhubの広告を出す、社会奉仕活動に多額の寄付をする、ラッパーのカニエ・ウエストとコラボするなどの攻めたパブリシティでサイトの知名度を向上させた。

結果、Pornhubの月間訪問者数は45億人にのぼった。これはGoogleとFacebookを合わせた数よりも多く、世界で9番目に多くみられるwebサイトにまで成長した。

Pornhubのビジネスモデルとはポルノ俳優と視聴者を直接つなげるというもので、動画制作者がプラットフォームに動画をアップし、有料会員に視聴されることで手数料収入を得られる。

従来は製作会社の言いなりにならざるを得なかったポルノ俳優たちは、Pornhubによって自ら収益をたてる道を得て、収入を激増させることに成功する者もあらわれた。このビジネスモデル自体は合法かつ健全なものである。

ただし問題は、Pornhubのメインの収入源は他にあったということだ。

Pornhubに動画をアップできるのは身分証明書提示の上で認証を受けた動画制作者だけではなく、メアドを登録しただけの一般ユーザーも自由にアップできた。

その結果、著作権無視の動画や、被写体の許可を取っていないであろうプライベート動画、犯罪行為のような動画までがあげられるようになった。

しかしそうしたヤバイものこそユーザーの関心を引くのが世の常であり、Pornhubは動画再生時に流す広告収入で莫大な収益を得ていた。

健全なポルノ俳優がヘイトの対象に

知名度の高いポルノサイトで違法と思われる動画が流れているという事態に、市民運動家、規制団体の弁護士が噛みついた。

とはいえポルノ業界がやり玉に挙げられるのは日常茶飯事なので、Pornhubは特段の対応をしなかったが、今度ばかりは様子が違った。ピュリッツァー賞受賞のジャーナリストがニューヨークタイムズ紙に記事を書いたのだ。

こうして「一部の良識派の抗議運動」は「社会を挙げての批判」に変わり、Pornhubは徹底的に追い込まれることになる。

ただし世の良識派が叩いたのは、分かりやすい相手だった。

違法動画を放置しているのはマインドギーク社の幹部連中だったが、同社は非公開企業であり、この時点で公の場に出ていなかったので、彼らの顔も名前も誰も知らない。代わりに、顔出しで活動していたポルノ俳優たちがヘイトの対象となったのだ。

適法に仕事をしていたポルノ俳優達がSNS上でボコボコにされる。聖書の石打ちの刑のエピソードみたいだ。しばしば大衆はこうした間違いを犯す。

猛り狂った良識派は「健全な企業はPornhubなどと取引するな!」と騒ぎ出し、クレジットカード会社はPornhubへのサービス提供を打ち切った。

ただし上述したPornhubのビジネスモデルをご理解いただければわかることだが、それで困るのは真っ当に商売しているポルノ業者のみで、課金ビジネスよりも広告収入で潤っていたマインドギーク社はさほど困らない。違法動画をアップしていた一般ユーザーも、クレカ決済が止まったところで何も変わらない。

大衆たちは完全に間違った相手を攻撃してしまったのだ。

リベラルを装った宗教右派

これら大衆を扇動していた市民運動家と弁護士連中だが、こいつらはこいつらで正義を暴走させただけの純粋まっすぐ君ではなかったことが分かってくる。

彼らの背後にいたのはキリスト教原理主義組織で、宗教右派の活動家が、リベラルな市民運動家を装って世論を操作していたのだ。なんだこの凄いどんでん返しは。

宗教右派の目的はポルノ業界の根絶で、違法動画の被害者救済は呼び水に過ぎなかった。

Pornhubの悪事に触れる際には舌鋒鋭かったお抱え弁護士が、「あなた方の背後にいる組織って…」と聞かれると、分かりやすくきょどりはじめるのはおかしかったが、こんな奴らが健全なポルノ業者たちの人権を蹂躙していたと考えると腹も立ってくる。

彼らによるとセックスワーカーは可哀そうな被害者なのだが、今回の件で食えなくなったと悲鳴を上げるポルノ俳優達を救済しようとはしない。結局彼らは弱者救済を錦の御旗にしているだけで、内心ではセックスワーカーを見下しているのだ。

臆面もなく正義をかたる連中こそが実は一番ヤバイという真理が、この一件からも見えてくる。

日本でも似たようなことがありましたな

ここまでが本作の内容だが、これは対岸の火事ではない。「可哀そうなAV女優を助ける!」と言いつつ、彼女らから食い扶持を奪う方向に作用した「AV新法」なる悪法が、我が国には現役で存在している。

AV新法とは正式名称を「性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律」という。

よくもまぁこんな長ったらしい名前の法律を考えたものだと思うが、国会審議中にこの法律の内容を見た時、私は「AV業界を潰しにかかっているな」と感じた。

撮影内容の説明義務や安全確保義務と言ったそれらしきことに交じって、「撮影後4カ月間の公表の禁止」「公表から1年間の無条件解除」など、製作会社側のビジネス継続を極めて困難にする条文が含まれているのだ。

ビジネスに携わった経験のある方なら分かることだが、4カ月間の公表の禁止ということは、先出しした製作費の回収は4カ月以上先になるということだ。よほど安定した財務基盤がない限り、資金繰りが続くはずがない。

また公表後1年間の無条件解除となると、製作費の回収もままならないまま販売中止という事態も想定しなければならない。これではあまりに商売が不安定になりすぎる。

この法案を出してきたのは立憲民主党で、塩谷文夏議員が中心的な役割を果たした。

しかし常識があれば「こんな条件を突き付けられればAV業界は大打撃を受け、AV女優は仕事を失う」なんてことは分かるわけで、自民党と公明党は「現行法の枠内で対処すべき」と言って法案に反対した。

対して立民は被害者救済という錦の御旗を掲げて法案をごり押しし、与党においても「AV業界を守ったって票には繋がんねぇしな」という打算でも働いたのか、2022年3月28日の国会で初めて取り上げられ、6月15日に成立、6月22日に公布という、憲政史上でも異例のスピード成立を果たした。

その後にどうなったのかはご存じの通り。

案の定、製作会社はビジネス継続が困難になり、予定されていた撮影は軒並みキャンセル。真っ当な職を失ったAV女優たちは、リスクの高い個人撮影に流れていった。AV女優を救済するどころか、彼女らをより過酷な状況に置くこととなったのだ。

この法案をごり押しした人々は、アメリカでPornhubを攻撃した人間と変わらない。

ちょっと笑えないこぼれ話をすると、法案成立に熱心だったNPO法人ヒューマンライツ・ナウの弁護士は、「適正AV」というAV業界の健全化運動すら知らなかった。業界人達がどんな努力をしているのかも知らずに「AV女優を助ける!」と息巻いていたわけである。

彼らもまた弱者救済と言ってるだけで、本心ではセックスワーカーを見下しているのだ。

正義を笠に着て、自分は立派なことを言っていると思い込んでいる人間ほど厄介なものはない。

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コメント

  1. 匿名 より:

    日本でもAV新法の件以外でもColaboとかオカシな団体とか最近目立ちますね・・
    最近では広告のイラストとかで炎上とか簡単にするし・・・下手をすれば日本の方がアメリカより酷そう・・
    そのうちNetflixで題材にした作品とか作られそう。

    ところでポルノの話題から話が脱線して恐縮ですが、最近は広告のイラストとか批判を受ける件
    についてよろしければドラゴさんのご意見をお聞かせください。
    https://news.yahoo.co.jp/articles/0544c436ce9ab56cd13f7a5d06d08ce59e1d8ee9
    https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2111/23/news028.html

    突然で申し訳ないです・・以前ブラック校則についての記事に感銘を受けまして、ドラゴさんの鋭いご意見を聞きたいです・・

    • 風紀委員みたいな人が増えてますよね。私もイラストが炎上する傾向は憂慮しています。
      実は、個人的にはあの手のイラストが苦手なんですけど、それはあくまで私の内面の問題です。
      広告に使われるということはイラストが刺さる人が多いということであり、そうした人たちの価値観を否定したり、他人の楽しみを取り上げたりすることは不適切だと思います。
      「猥褻だ」とか「環境型セクハラだ」とかそれらしい言葉で批判する人もいますが、じゃあリアルで胸の大きい女性や短いスカートの女性にも、環境を害するから子供の目につく場所を歩くなとでも言うんでしょうか?
      児童ポルノの文脈で批判する人もいますけど、そういう人たちは金曜ロードショーで「千と千尋の神隠し」が放送される度に抗議してるんでしょうか?宮崎駿自信が、風俗産業をモチーフにしてるって言ってるんですが。
      安易に他人を批判する人たちって、思考を突き詰められていないんですね。
      そういう底の浅い人たちが影響力を持っているということが、最大の問題だと思います。