スノーデン_切れ味不足の社会派作品【4点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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実話もの
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(2016年 アメリカ・ドイツ・フランス)
911テロで国家を守るという意識を高めたエドワード・スノーデンは大学を中退し軍隊に入隊したが、特殊部隊の訓練中に足を負傷した。その後はCIAの採用試験をパスしてサイバーセキュリティに関与するが、そこでプログラミングの能力を開花させてCIA及びNSAで重大な任務を歴任する。しかしアメリカの行う諜報活動に対する不信感を募らせたスノーデンは、世界に向けてこれを告発することを決意する。

ストーンとスノーデンの共通点

1967年、イェール大学を中退したオリバー・ストーンは志願して海兵隊に入隊してベトナム戦争に従軍しましたが、戦場の現実を目の当たりにして彼は愛国青年から愛をもって祖国を斬る批判者へと変貌しました。

オリバー・ストーンが海兵隊に入隊した37年後の2004年、同じく大学を中退したエドワード・スノーデンは軍隊に志願入隊しました。彼は「自由のための戦い」への参加を求めてイラク派遣を志願するほどの愛国者でしたが、訓練中の事故で軍人としては再起不能状態に陥ったことから5か月後に除隊。その後彼はNSAやCIA職員として軍人とは違った形で国防の一翼を担うようになったのですが、情報戦の最前線の醜い現実を目の当たりにして、ストーンと同じく愛をもって祖国を斬る告発者になったのでした。

祖国に対して抱いていた理想が破れ、その反発から批判の急先鋒になるという概略は両者で非常に酷似しており、オリバー・ストーンがエドワード・スノーデンの生きざまに大変なシンパシーを抱いたことは想像に難くありません。ただし、両者の心理的距離が近すぎたことが、本作の不完全性の原因となっています。

スノーデンの問題意識が伝わってこない

各国政府は治安維持や国防のために通信傍受をしているだろうなということは、このご時世ではさほど想像に難くありません。多くの人々は「多分、政府はそういうことをやってだろうし、自分のSNSやメールも覗き見られているかもしれない」という認識は持っており、また治安維持のためには仕方ないと思いながらこれを許容しているはずです。要は気持ちの良いことではないが、必要悪として目を瞑っているような状態ですね。

そこに来て本作の内容ですが、「なんとアメリカ政府は自国民の通信を傍受していたんです!」と言われても、「まぁそうだろうね」としかならないわけです。たとえは悪いのですが、「なんとソープランドで売春が行われているんです!」と言われてるようなもので、この話を聞いて心底驚くのって、よほどナイーブな人だけですよね。

合衆国政府がもっとも避けたいのは米国内で再度の大規模テロを起こされることであり、そうしたテロにおいては国内に手引き者が出るというシナリオも十分に想定されることから、これを防ぐために国内の通信傍受をすることなんて誰にだって推測できることです。要は「事実の告発!」とか言いながら、本作は多くの人々の想像の域を超えていないのです。

作り手と観客との間の問題意識のズレが埋まっていない

これって防犯カメラの議論によく似ています。防犯と犯人逮捕のために街角に防犯カメラを増やそうという話が出てきた時に、いわゆる反権力系のメディアや知識人は「権力が国民を監視するとは何事か!」と騒ぐわけですが、多くの市民は「私は防犯カメラで見られて困るようなことは特にないし、これで悪い奴が捕まるのであれば結構なことだと思うけど」という程度の認識なので、議論が噛み合いません。

本作もまったく同じで、そもそも反権力の知識人であるオリバー・ストーンや、リバタリアンのスノーデンにとっては政府による自国民の監視などもってのほかだったのかもしれせんが、多くの国民は治安維持のための妥当な対価くらいにしか考えていないわけです。

この議論でオリバー・ストーンがやるべきだったのは、権力に個人情報を掴まれることがいかに危険であるかを私のような危機意識のない人間にも分かるように説明することだったはずなのですが、そこまで突っ込み切れていないために、作り手側の問題意識や危機感が一部の観客には伝わらないという事態をもたらしています。

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公認会計士の理屈っぽい映画レビュー

コメント

  1. 大佐 より:

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    素晴らしい!

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    >大佐さん
    レビューを読んでいただき、ありがとうございます。
    昔のオリバー・ストーンなら社会問題を対岸の火事とはさせず、観客を怖がらせる演出をできていたんですけど、歳もあるのか最近はマイルドになってますよね。