(2012年 アメリカ)
徹底的にサム・ライミ版との差別化が図られた結果、コレジャナイ感の凄い作品となっています。ピーターは特別な両親を持っており、なるべくしてスパイダーマンに。長身イケメンでヒロインとも即相思相愛って、こんなスパイディ誰も見たくないでしょ。
感想
今度のスパイディはイケメン
『スパイダーマン3』(2007年)は批評的には厳しかったものの興行的には大成功し、ずいぶんと長い間、サム・ライミ監督とトビー・マグワイア、キルスティン・ダンストで新三部作を製作するという話が進んでいました。
しかしソニーとライミの足並みが揃わなかったこともあり、2010年1月に『スパイダーマン4』の打ち切りと、代わってリブートの製作が発表されました。
監督に選ばれたのはMTV出身で、長編監督デビュー作『(500日)のサマー』(2009年)が絶賛されたマーク・ウェブ。万単位のアメコミを所蔵するほどのオタクであるサム・ライミとは全く毛色の違う監督でした。
この人選からも明らかな通り、本リブートは恐らく意識的にライミ版から遠ざかろうとしており、その方針に従い主人公ピーター・パーカーの個性も激変しています。
ゴリゴリの非モテだったトビー・マグワイアから一転して、本作でピーター役を演じるアンドリュー・ガーフィールドは長身イケメンで、家が貧乏以外、特に苦労もなく生きている様子。
実際、スーパーパワーを得る前からフラッシュによる弱い者いじめに抗議したり、後にヒロインとなるグウェン・ステイシー(エマ・ストーン)と良い感じになったりと、人並み以上の学園生活を送れています。
果たしてこの変更の成否はというと、私は失敗だったと思います。
非モテがスーパーヒーローへという変貌こそがスパイダーマンの面白さであり、観客の多くが感情を重ねられる物語だったのに、最初から特に不自由していないピーターでは変身の醍醐味が活きてこないのです。
スパイディになる前からグウェン・ステイシーと釣り合っちゃってるし。
マグワイア版のスパイディと言い、ドラえもんののび太と言い、高嶺の花に手を伸ばす男の子の物語は少年漫画の基本なのに、最初から美男美女カップルではその面白みも吹き飛んでしまいます。
今度のスパイディは個人的な動機で戦う
また大きな改編として、ピーターの生い立ちにいわくを設けて、「彼はなるべくしてスパイダーマンになった」という話とされています。
父親はオズコープの研究員で、本作のヴィランとなるコナーズ博士とも共同研究をしていました。何かしら大きな陰謀に巻き込まれたことから幼いピーターを兄ベン・パーカーに預け、その後に飛行機事故で妻共々死亡したということになっており、両親の死の真相に迫ることが、新シリーズを貫くテーマになったと思われます。
こうなってくると、平凡な高校生が偶然にもスーパーパワーを手に入れたという本来のスパイダーマン像から随分とかけ離れてしまいます。
また、スパイダーマンとして戦うことの意義も大きく異なっています。
ライミ版のピーターはベンおじさんの死を教訓として、「犯罪を見過ごしてはならない。それを止められる力を持つ者は特に」という責任に目覚め、公益目的でのヒーロー活動を開始。
ライミ版では繰り返し”ギフト”という言葉が用いられるのですが、これは才能を意味すると同時に、才能は天からの授かりものであるのだから、世のため人のために行使しなければならないというテーマも包含した言葉でした。
本作においても、ベンおじさんの死がヒーロー稼業のきっかけになることは同様なのですが、その目的はあくまでおじさんを殺した犯人を見つけ出すことであって、公益性への配慮がないという点でライミ版とは大きく異なっています。
その後の戦いも、リザードになるコナーズ博士がそもそもの知り合いなので彼を止めようとしたり、恋人のグウェンを守ろうとしたりと、知り合いとか仲間という範疇を越えていかず、戦いの動機が極めて単純化されています。
「ヒーローとは何ぞや」というライミ版3部作で描かれたテーマをもう一度蒸し返したって仕方ないということで、恐らくは意図的にこのような物語に変更されたのだろうと思うのですが、ここまで割り切ってしまった姿勢では、もはやスパイダーマンらしさがないともいえます。
私は良からぬ改変だったと思いますね。
今度のスパイディは普通に顔出しする
もう一つの特徴は、意外と簡単に覆面をとるということです。
子供を安心させるために覆面を取ったり、グウェンの父親に覆面を外されたりと、意外と簡単に素顔をさらしてしまいます。
グウェンに対しても自分がスパイディであることを告白するのですが、マグワイアのようににっちもさっちも行かなくなり、真実を言わざるを得ないところにまで追い込まれたのでもなく、まだまだ隠し通せそうなタイミングで言っちゃうので、「え、もう?」と驚いてしまいました。
スーパーマンと言いウルトラマンと言いパーマンと言い、正体を隠そうとすることがヒーローの習性であり、その秘密を守ろうとする過程にこそドラマも生まれるものなのですが、本作はそれをスッパリと割愛してしまったために、何だかおさまりの悪いことになっています。
見せ場が少ないのは困る
肝心の見せ場ですが、これもまたイマイチでした。
パルクールのようなアクロバティックな肉体アクションが度々登場するのですが、我々が見たいのは摩天楼を豪快に飛び回るスパイディの雄姿なんですよね。
それはライミ版でいっぱい見たでしょというわけで、本作は見せ場の方向性を変えているのだろうと思うのですが、パルクール風の肉体アクションなんて『007』もやってる時代なので、スパイダーマンでなければ見られないアクションじゃないんですよね。
ライミ版との差別化もいいのですが、それ以上にスパイダーマンらしさにこだわって欲しいなと感じました。
≪スパイダーマン シリーズ≫
スパイダーマン_前半最高、後半残念【7点/10点満点中】
スパイダーマン2_良質な青春ドラマ【8点/10点満点中】
スパイダーマン3_豪快に破綻した最終章【4点/10点満点中】
アメイジング・スパイダーマン_改悪部分多し【5点/10点満点中】
アメイジング・スパイダーマン2_悪くはないが面白くもない【6点/10点満点中】
スパイダーマン:ホームカミング_バルチャーだけが良かった【5点/10点満点中】
スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム_前作からドラマ断絶しすぎ【5点/10点満点中】
スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム_面白いけど微妙な部分も【7点/10点満点中】
コメント
なんかの映画のキーワードでググってみたら、こちらにたどり着きました。たくさんの(私も)鑑賞済みの映画のレビュー、愉しく拝読しています。スパイダーマンはわたしもオリジナル三部作のほうが遥かに好きです!MCUのトムホランド版も全然感情移入できませんが、スパイダーマンって『暗さの魅力』が醍醐味なんじゃないかなぁ?と。。
はじめまして!
記事を読んでいただいてありがとうございます。
脚本レベルでは湿っぽい要素もあるのに、出来上がった映画は軽いという不思議な映画でしたよね。