シンクロニック_前半グロテスク後半ハラハラ【7点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

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テクノロジー
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(2019年 アメリカ)
抜群のアイデアと構成力に支えられたSF映画の拾いもの。物理法則を無視しすぎた滅茶苦茶な話ではあるんだけど、演出や演技の雰囲気が良くて、見ている間は特に気にならない。

感想

前半はグロい、薄気味悪い

Amazonプライムに上がっていたのを何気なく鑑賞。

どんな映画なのかという予断は一切なく、僕らのファルコンが出ていることと、90分程度でサクっと終わるということだけで何となく見始めたが、導入部から一気に引き込まれた。

安モーテルでカップルがヤクをしてるんだけど、女が横たわっている部屋はジャングルのような草木で覆われ、氷を取りに行くために男が乗ったエレベーターは砂漠に変わる。

この時点で、妄想系なのか時空が歪んでる系なのはさっぱり分からないが、ともかくドえらいことが起こっているぜと容赦なく興味を掻き立てられる。

主人公は救命士のスティーヴ(アンソニー・マッキー)とデニス(ジェイミー・ドーナン)。

二人は仕事上のパートナーであるだけではなく、プライベートにおいても親友同士だ。

そんな二人が駆けつける現場では、よく分からん死亡事故が多発している。

海賊が持つような剣で胸を刺された男、火のないところに忽然と現れた焼死体。

冒頭の女性はモーテルの室内であるにもかかわらず毒蛇に噛まれたとして通報し、モーテル内を捜索すると男の方はエレベーターシャフトで転落してバラバラになっている。

一つ一つの死にざまがグロいし、全般にジトっとした空気感が漂っていて終始薄気味悪い。

前半部分はほとんどホラーと言ってもいい状況で、見る人をかなり選ぶと思うが、私はかなりハマった。

シンクロニックの正体が斜め上すぎて凄い

死体のあるところには、必ずシンクロニックというドラッグがある。

ここいらに住んでいる科学者が開発したものらしく、成分的にはギリギリ合法なので店頭でも購入可能で、若い人の間では流行っているらしい。

そこに主人公スティーヴとデニスの物語が絡んでくる。

スティーヴは女性にモテるのだが、誰か一人に決めることはなくいまだに独身貴族を貫いている。

一方デニスはモテないものの、若いころに運よく生涯の伴侶と巡り会って、18歳の娘もいる幸せな生活を送っている。

そんな折、デニスの娘ブリアンナ(アリー・ヨアニデス)が行方不明になる。

社会的には「多感な時期のよくある家出」程度の扱いでまともな捜索活動が行われないんだが、ブリアンナのことをよく知るスティーヴは「そんなわけねぇ」として独自の調査を開始し、失踪当夜のブリアンヌもシンクロニックをやっていたことを突き止める。

このあたりのミステリーとドラマの絡め方は絶妙だった。

そしていよいよ「シンクロニックって一体何なんだ」と気になってくるのだが、なんとなんと、服用者をタイムトラベルさせる副作用があるという、とんでもない話になってくる。

脳がトリップするという生易しいレベルではなく、肉体が7分間過去に移動するのだ。そして、トリップした位置から動いてしまうと帰ってこられなくなる。

恐らくブリアンヌはこの要領で消えてしまったのだ。

どういう原理でそんなことになるんだかさっぱり分からないが、前半の雰囲気作りやアンソニー・マッキーの演技が良かったために、見ている間は不思議と違和感がなかった。

こういうのをうまく作られた映画と言うんだろう。

後半は否応なしにハラハラ

スティーヴは自分も同じ条件でシンクロニックをやってブリアンヌを救出しに行くという話になってくる。

なぜ他人であるスティーヴがそこまで悲壮な決意をしているのかというと、脳にでっかい腫瘍が見つかって、いつまで生きられるか分からないからだ。

自己犠牲を描いた作品は多くあるが、「後先のない俺が行く」というタイプの自己犠牲が個人的には一番ぐっとくる。

なんだが、スティーヴにはさらに厳しい条件が付きつけられる。

責任を感じた開発者が自殺してしまい、シンクロニックは在庫限り。成功するまで何度もトライというわけにもいかず、トリップの回数は限られている中でブリアンヌを探し出さねばならない。

さらに問題なのは、スティーヴがアフリカ系であることだ。時代を遡ると激しい差別に直面し、ヘタすりゃその場で殺される。

ここでさりげなく社会派テーマを織り込ませた当たりの構成力にも目を見張るものがあった。

このように厳しい条件下で、いかにしてスティーヴがブリアンヌを探し当てるのかということが後半の焦点となり、否応なしにハラハラドキドキさせられた。

監督のジャスティン・ベンソン&アーロン・ムーアヘッドには要注目

エンドクレジットで気づいたんだが、監督したのはジャスティン・ベンソンとアーロン・ムーアヘッドのコンビだった。

デビュー以来ヘンテコなSF映画ばかり作っている人たちで、注目を浴びた前作『アルカディア』(2017年)は個人的にはイマイチだったんだけど、本作ではその構成力・演出力に確実な進化が感じられた。

世間的な評判はイマイチだが個人的にはハマったNetflixの『アーカイブ81』(2022年)で数エピソードも担当している。

本作でアンソニー・マッキーと関わったご縁からかMCUにも出入りするようになっており、二人は『ムーンナイト』(2022年)の第2話と第4話を演出。また『ロキ』第2シーズン(2023年)の監督にも名を連ねている。

数年後にはMCUの劇場映画を監督する立場になるかもしれない要注目のコンビだと言える。

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